宇宙博物館
宇宙ステーションからワープを経てピアートへ向かう。
前回までは、目玉のないド田舎の宙域だったのに、いまでは2隻の宇宙船が追従した。一隻は政府の運搬船で、もう一隻は私たちと同じく民間機だという。交易品や民間人を乗せているそうだ。
最初の旅からは信じられない光景だった。
ピアートは中央政府の電子ネットでHOTな惑星で、コロニー出身者や宇宙の旅人が永住希望をする星になったのだ。
期待を胸に抱きながら1年かけてピアート宙域に着くと、これまで見たことない景色が広がっていた。
青い星を囲むように、小さな光が各所に輝き、そこへ衛星オーリスから発射する一直線に伸びた熱が宇宙を切り裂いている。その熱は透明なレンズにより屈折を起こして、青い惑星へ伸びているのだ。
近くには電子ネットによる宙域範囲制限されており、モニターには「オーリス軌道上注意」の警告が貼られた。
感動しているところへ、一緒に航空していた政府の船から連絡がきた。
『こちら政府巡洋艦シロタ。君たちを本部に案内する。そのままついてきてくれ』
補助席にいる私は、操縦席のミュートさんに思わず向いた。
「えぇ!? たまたま一緒に来たんじゃなかったの?」
「みたいだな。あいつらの仕事は運搬ではなく、俺たちの護衛だったらしい」
「これってついて行ってもいいんですか?」
「約束の日まで一週間の余裕はある。どうせ遊びに来たんだからいってもいいだろ」
たしかに。
運転手はミュートさんなのだ。私はそれに付き従おう。
彼らが向かう先はモニターからでもわかる巨大な戦艦だった。それを拡大して検索をかけると情報が開示された。戦艦基地の名はトイロ。衛星オーリスの公転軌道の管理や、コアエネルギーの調整や維持、また周辺宙域の警備などを行っている。いわばピアートの生命線でもあった。
中央政府が私たちを護衛しているのは気がかりだが、あの基地にはオーリスが液体コアを放出する情報があるのかもしれない。
私たちが穴を開けた100年の歴史。それが見に行けるのかとおもうと少し興奮した。
おぅ!
わぁあ!
どひゃー!
マントル内部の図を見つめていた私は、驚きの声をあげる。
我に返ると、ミュートさんが壁によりかかったまま、こっちを白い目で見ていた。
「ちょ、ちょ、なんか変態だとおもってませんか!」
「いや、普通に気持ち悪いだろ」
「あなたに言われたくないですよ!」
――私たちがいるのは、宇宙戦艦基地『トイロ』の中にある博物館だった。
政府が管理している宇宙基地だが、宿泊施設や補給物資の売買ができる一般エリアがあり、そのなかには政府管轄の宇宙博物館もあった。
展示内容は、おもに衛星オーリスが人工太陽となった歴史である。
私たちが穴を開けた後、疑似太陽としてピアートへ光と熱を送る軌跡が描かれていた。
始まりはトライズがオーリスの地底採掘を行った後からだ。
政府の研究員たちは飛行データをもとに、内部の地図や地質、最適化ルートなどを研究した。洞窟内に吹き上げたガスの嵐、きらきらとした鉱石地帯にマグマの海。それらを探知しながら、安全なルートを改めて作り出した。
彼らは無人偵察機を用いてガスやマグマの噴射口を特定した後、その直上、あるいは噴射口にある岩石や鉱石を爆破して塞いだ。さらに液体コアの最短ルートも新しく掘ったことなども記されていた。
展示物の後半では、宇宙空間での苦難も紹介している。
中央政府は惑星ピアートへ熱放射を維持するために、偏光レンズを設置した。
最初期はコアエネルギーを惑星に直接向けていたが、氷が溶けて大地が露出したころになると、その熱量の多さを危惧し、レンズを透して放射量の調節をおこなった。おかげでピアートの地表は、四季を満喫できる大陸や、常夏のリゾート地などが増えたのだ。
これらの調整はミレイヤさんがやったと推測する。隣人が紛れもない偉人になったことに深く感動してしまった。
展示物を見終わると、博物館のグッズが並ぶ売店にいった。
様々なお土産を眺めながら、一際大きなパンフレットを手にする。ぱらぱらと解説文をなぞるが、そこで確信に至った。
やっぱり、違和感がある。
近くでオーリスのレプリカをもっていた相棒を手招きする。
「ミュートさんは気づきましたか? 地底探索にいったのは、私とミュートさんの名前だけになっています」
どの説明文のどこを読んでもケインさんの名前がなお。
ケインさんもピアート復興の功労者だ。彼がいなければシード264の運搬もオーリスの脱出もできなかった。
「なんで名前が載ってないんですかね?」
「ツクモはどうおもう?」
逆に質問されるんかい。
私は顎に手を置いて悩んだ。
「これは憶測ですけど……ケインさんはピアートの未来人だからじゃないでしょうか」
「なるほど」
ミュートさんは私の意見をバカにせず頷いた。さすがムービーマニアだけあって、理解が早い。
「ケインさんは何かしらの力でタイムスリップして、ピアートの歴史修正のために私たちと接触したんです。だけど、歴史に本人の名前があったら、タイムパラドクスが生じるからいないことにした」
「一理あるな……」
ミュートさんは穴の開いたオーリスを覗き込んだ。
「ほかに何か考えられますかね?」
「……俺は他人を詮索するのは好きじゃない。ただ、こうなったのはあいつの思い通りなんだろうと感じている」
「ゴールドブラッドも持っていかれましたからね」
あれだけは少し残念だ。
液体コアと共鳴するってことは、内部に惑星コアの一部が入っているかもしれない。
「もしかしたら、未来に帰るためのエネルギーかもしれません」
ミュートさんは静かにレプリカを戻した。
「未来人か。よくできたSFだな」
およそ、自分の言葉を信じてないような口ぶりだった。




