オマケ/彗星落下から200年後
~とある兄弟~
「よう、兄貴」
「なんだよ、急に呼び出して。俺は忙しいんだよ」
「なわけねーだろ。世界で一番犯罪が少ない国でなに言ってんの」
「用がないなら帰るぞ」
「いやいや、待てって!ほら、これ!」
「……なんだ、この箱」
「やる。初任給で買ったんだ」
「え、いいのか」
「おう。勤め先がめっちゃ上り調子。マジ兵士辞めてよかった。オレ商売人が向いてるよ。兄貴も王宮の護衛騎士なんか止めてうちに来いよ。平和すぎて暇だろ」
「うるせーな。俺は今の仕事が気に入ってんだよ。……なあ、開けてみてもいい?」
「へへっ、嬉しすぎてションベンちびるなよ!」
~とある公爵家~
「なにを熱心にやってるのかな?僕の奥さんは」
「あら、お早いお帰りね!今、お菓子を試作してるの。今度、王妃様と教会でバザーを開催するでしょう?貴族も平民も楽しめるものになるよう工夫中なのよ。乳母のトゥレチェリーを覚えてる?」
「おお、チェリーばあやだな。懐かしい名前だ。彼女は元気にやってるのかい?」
「彼女の娘さんがご家族で果物を作っててね、市場に出せない傷物でジャムを作って売ったらとても人気になって、今は王都に専門のお店があるんですって。そこのジャムを使って色々作ろうと思ってるの。ジャムのパイ、パウンドケーキにババロア」
「ということは、僕は味見担当だな!よし、どんどん持ってきてくれ!」
「もう!あなたったら!」
~とある王宮~
「わっはっは!また儂の勝ちだ!口ほどにもないぞ、辺境伯」
「王陛下、テーブルゲームなど実際の采配にはなんの参考にもなりませぬぞ。負けてもぜーんぜん悔しくありませんな。まあ、陛下がどうしてもというなら、もう一戦くらいやってもよろしいですが」
「もう36戦もやったろ。十分じゃ」
「おのれ勝ち逃げめされる気か!!辺境の守護者に恐れをなして勝負を放棄するとは、我が国の王として――」
「ええー……恐ろしくめんどくさい男だの……そもそも今日は子息の祝福に来たんだろうが。『辺境の暴れん坊が来る』と、祭主が昨日から緊張でソワソワしておったぞ」
「ああ、祝福はさっき済ませた。長いから5分でやれと言った」
「祭主、気の毒……」
「寄付をたんまりやったからいいだろ」
「なら、もう帰るのか。細君が領地で待っとるだろう」
「いや……私が辺境で暇を持て余してるもんでな、カミさんが『たまには王都でのんびりして来い』と言うのよ。坊主にも狩猟ばかりさせないで、貴族らしい遊びを教えろとな」
「はっは!なるほど、厄介払いされたわけか!では、あとで内務卿と軍務卿に声をかけてみるがいい。都遊びはあの二人が適任だ」
「適任!?そんなはずなかろう!あいつらはただのスケベジジイだぞ!」
「いやいや、スケベジジイにも種類がある。いいスケベジジイと、悪いスケベジジ――」
「――誉ある王宮で、スケベジジイなどという言葉を使っているのはどなたです?」
「ゲッ……ご、ご機嫌うるわしゅうございます、王妃殿下」
「……さ、儂は会議の準備でもしようかなっと」
「王陛下!お待ちなさいッ!!」
「いかん怒っとる!逃げろ!逃げろ!」
「今日も王妃殿下は、伝説の魔獣より恐ろしいな!はっはっは!」
~とある王太子夫妻~
「王太子様、万歳!王太子妃様、万歳!モルテへようこそおいでくださいました!」
「ユース、見てちょうだい!赤ちゃんがいるわ!ちょっと馬車を降りてもいい?」
「おお、本当だ。視察を見に来てくれたのかな?」
「今年生まれた子なんです!身体が弱くて大きくなれないかもしれないと言われたんですが、妃殿下が建ててくださった病院で、すっかり元気になったんです!よかったら抱いてやって頂けませんか?」
「まあ、ぜひ!ねえ見て、ユース!とってもかわいいわ!」
「女の子かな?名前はなんと言うんだい?」
「ディアと申します。女神ディアマンティアナ様のご加護があるように」
「とってもいい名前だわ、とっても!」
「よしよし、いい子だね。ディア――私たちの国へようこそ」
ほんとのほんとに おしまい




