79 来たる邪神、最強達の激突
ゼーレを間一髪の所で助けた雷鳴スーツを着たノア。
ノアは白い剣をロイヤルティーナイトに突き付け、様子を伺っていた。
ロイヤルティーナイトの面々は固まっており、指示を出すミアはずっとノアとゼーレ達を睨んでいるだけだった。
何だ? 何故何もして来ない?
ミア達が何も行動を起こさないと判断したノアは、一緒に病室に来ていたミズキに話しかけた。
「ミズキ、当初の任務通りナイトサンダーズの指揮は任せる。それと、ライトニング様のサポートをしてきて良いぞ。ここは僕一人で事足りる」
「分かったわ」
ノアの言葉を聞いたミズキは、窓から下へと飛び降りていった。
「なっ! ライトニングもここに来ているのか?」
ライトニングがいると知ったゼーレとレイラは少し怯えている。
「魔将軍が居るんだ、当たり前だろ? 我らの敵は魔王軍とそれに与する者たちだからな」
「そうか……」
「話しは終わったかしら?」
ミアが腕を組みながら偉そうな口調でノアにそう話しかけた。
「お前達がビビって何もしてこなかったから話してたんだが。あっ、今はミアだけがビビってんのか?」
その言葉を受けたノアは挑発するような口調でミアにそう返した。
「っ! うっさいわね! ロイヤルティーナイト、そこの3人を消しなさい」
ミアがそう命令すると、ブラント達は一斉にノア達3人に襲い掛かった。
「勇者ゼーレとその旅仲間レイラよ。逃げないなら足手まといになるなよ」
「よくわかんねぇ奴らの足手まといになんてなるか」
「えぇ、エルフ1の実力を持つ私が足手まといになんてならない」
こうして、魔将軍ミア率いるロイヤルティーナイトとノアとゼーレ、そしてレイラの戦いが幕を開けたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ノアが弾丸を闇魔法で吸い込んだ直後。上の階にある『天の世界』では、ライム達がいきなりの銃声に驚いていた。
「な、何だ今のは? 銃声だよな……。この世界に銃なんてあったっけ?」
「いや、この世界には銃は存在しない、この島を除いてな」
「ん? この島限定ってことは……。まさか!」
「えぇ、多分ライムの考えている通りよ。テンヤはこの世界に来た時に銃がないことを知るやいなや、直ぐ様魔力で強化可能な銃の製作を始めたのよ」
「それで、ロイヤルティーナイトに渡したと」
「ま、まぁそうだけど、何で銃を渡しているのはメグだけだって分かったんだ?」
「いや、そこまで詳しくは分からなかったけど、ロイヤルティーナイトは別次元と繋がる手袋をはめてたし、この島に来てから一回も銃を見てないからね。流石に危険すぎるから仲の良い奴にしか渡してないんだろうなって思っただけ」
「へぇ~、この一瞬でそこまで考えれるなんて凄いな」
「まぁ前世では、偶に推理小説とかを読みながらトレーニングしてた時期があったからさ」
「何でそんな体験があったんだよ」
僕達がそんな事を話していると、クレイエスの遥か向こうの上空の大陸の方角から、膨大で邪悪な魔力が猛スピードで天の世界に突っ込んできていた。
「この魔力は!」
僕はこの魔力に覚えがあった。
「何で今来るの!」
「凄まじい殺気だ。俺達を殺しに来てるのか! 魔神タルタロス!!」
「伏せろ!」
僕達が体を低くした瞬間、天の世界にある一面の窓は割れ、ビル全体が大きな衝撃で揺れた。
「ふわぁ〜、やっと寝れると思って魔大陸に帰ってたのに。テンヤが裏切ったなら、殺すまでが俺の責任だからな」
天の世界は、天上や柱が瓦礫となって崩れ落ち吹き抜けになっていた。
「クソッ! 何で裏切ったと思ってんだ」
「ふっ、嘘付かなくても良いぜ。俺はミアと遠く離れていても話し合うことが可能なんだ。今のこの世界で言うと、魂之特性だったっけか? だから、お前が勇者パーティーを匿ってんのは知ってんだ。それに、そこの獣人も勇者パーティーの一人だろ?」
タルタロスは、瞬間移動でテンヤの元まで移動し、テンヤの首元を強く右手で掴んで、持ち上げた。
「テンヤ!」
アカネはテンヤを助けようとタルタロスに近づいた。
「来、る、な。……グッ」
テンヤは、喉を絞められ霞んだ声で精一杯そう喋った。
「いい判断だ、テンヤ。だが転移者とは言え、お前もナハト教団のトップの一人なら敵になり得る者の助けはしないと言う、魔王軍の掟はちゃんと守れよな?」
「ふっ、魔将軍ソフィアは魔王軍の敵となり得る者達に武器を作ってるみたいだが?」
「チッ、アイツは特別だ。奴の魂之特性『創造者』は、魔物全てが所属していると言ってもいい魔王軍にとってはいずれ必ず必要になるからな。あっ! お前も同じ魂之特性だったっけ?」
タルタロスはムカついている様子で、テンヤの首を更に絞めながら煽るようにそう言った。
「まぁ良い、ソフィアは魔力さえ渡せば直ぐ武器を作ってくれるが、お前はあまり協力的ではなかったしな。無から魔力のみで何でも創造可能な魂之力持ちが敵になったら面倒だ。だからお前は殺す」
タルタロスは手から毒を出し、更に首を強く絞めた。
「グッ……」
テンヤの首には段々と毒が回っている。
「辞めろ……」
ライムはそう呟いた。
次の瞬間、ライムはタルタロスに向かって走り出した。
そう、ただ走っているのだ。
武器を持っているわけでも、隙がないわけでもない。
ただ、声を荒げながら走っているのだ。
「おいおい、お仲間の言葉が聞こえなかったのか?」
タルタロスはバカにしたように笑いながらそう言った。
テンヤとアカネはライムの行動が理解できずに居た。
神に背き続けた始まりの魔王の生まれ変わりともあろう者が、魔神一人を相手に無策で突進しているのだ。
「喰らえー!」
ライムはそう叫びながら魔力を込めた。拳でタルタロスに殴りかかった。
「弱い奴の抵抗って何でこんなにウザいんだろうな」
タルタロスはそう言いながらテンヤを離し、ライムを思いっきり蹴飛ばした。
「っ!」
ライムは宙に浮かび上がった。
まるで紙くずのようにあっさりとビルの外へ吹き飛んでいった。
「ライム……」
テンヤは地面に倒れ込み、アカネはテンヤに駆け寄った。
テンヤ達はライムが吹き飛ばされた方向を眺めることしかできなかった。
「おいおいテンヤ、お前あんな奴と仲間になる為に俺達を裏切ったのか? 天才と言われたお前もその程度だったってことか」
「うるせぇ!」
テンヤとアカネはタルタロスを睨みつけていた。
数秒後。
天の世界から遥か上空。そこにはクレイエス上空全てを覆い尽くす程の黒く、そして圧倒的存在感を放つ、極限まで凝縮された魔力が突如として現れた。
「何だこの魔力は!」
「魔力を浴びているだけで魂を持っていかれそうだ」
「まるで神が現れるみたいね」
タルタロスとテンヤ達、そしてクレイエスに居る者全員がその膨大な魔力に耐えることしかできなかった。
更に数秒後。
クレイエス全土を覆っていた漆黒の魔力は突然消え去った。
次の瞬間。天の世界中央に一筋の漆黒に染まった雷が落ちた。
「今度は何だ!」
「何が起きてるんだ!」
「きゃっ!」
上空を見上げていたテンヤ達は、直ぐ様雷が落ちた所に視線を動かした。
そこには、漆黒に身を纏った猫獣人が堂々と中央に立っていた。
その手には漆黒の剣が握られている。
「我は雷鳴の猫王ライトニング。いずれ、雷鳴の覇者と成る者……」
ライトニングはそう呟くと、タルタロスの視界から消えた。
「っ! 魔力の反応も完全に消えた!」
次の瞬間。ライトニングは逆さの状態でタルタロスの真後ろに現れた。
「『破滅帝』を使うのは初めてだ。どれ程の強さかお前で試させてもらう」
そして、漆黒の剣をタルタロスの首目掛けて振った。
だが、タルタロスは紙一重のタイミングで右手を離し、右腕に魔力を集中させてガードをした。
「っ! なんだこのバカ力と魔力量。これで魔力を抑えているとか、誰が勝てるんだよ!」
「流石は魔神。魔力を抑えているのにも気づくのか。それに、『破滅帝』の力を魔力での身体強化だけで防ぐとは、やはり魔力が無限だと攻守共に出し惜しみなく魔力を使えるのは神の特権か」
「ライトニングだったか? 報告では聞いていたが、正直俺はお前を舐めていたぜ。お前、もう神の領域に入ってるぞ。いや、実力的には既に俺達を凌駕しているか……」
両者はお互いに弾き合い、距離を取った。
「フッ、フハハハハ! おもしれぇ。おいライトニング、お前の強さが報告通りなら、お前はもうこの世界どころかどんな世界に行っても敵が居ねぇぞ。なのに何故コソコソ動いている? お前なら全ての次元、空間を破壊し、世界を征服してもっと自由に生きれるだろ!」
タルタロスは、ニヤけながらそう叫んだ。
「我はそんなことに興味は無い。我はただ種族関係無く、幸せに暮らせる世界にする為に陰から勇者達を手助けするのみ」
「ちっ、つまんねぇな! もっと野心持てよ! せっかく強えんだからよ。もっと強い自分を楽しもうぜ!!」
タルタロスはそう叫びながらライトニングへと突っ込んだ。
「ハァ〜、お前は神話の時代から変わってないな。まぁ脳筋の神と戦うのも悪くはない、か……」
ライトニングはそう呟き、漆黒の雷を体中に纏わせた。
こうして、魔を司る神タルタロス対、破滅帝と魂神アニマの力を手に入れたライトニングの戦いが始まったのだった。




