75 蘇る記憶と反逆の意思 Ⅱ
僕の口を塞ぐ手は次第に緩まった。
僕が後ろを振り向くとそこには、容姿は変わらずテンヤとアカネだが、僕には確かにリヒトとクレアに見える二人が立っていた。
「っ! やっぱりリヒトとクレアか。なっ! 僕の言った通り、僕の神授之権能『魂神』の魂を操る力を使って、上手く転生と転移ができただろ?」
「あぁー。あの時は半信半疑だったが、今の所上手く言ってるみたいだな」
「てかディアブロ、昔は俺って言ってたのに今は一人称が僕、何だな」
「リヒトだって今は一人称俺、でしょ?」
「あぁー、確かに。まぁ転生と転移を繰り返してたら一人称も変わるよな。歳が変わるだけでも変わるんだし」
「そうだな。んで、どうする? 一応当初の目的は達成できたけど、まだ昔の記憶を見てくか?」
「うーん。まぁ魂に刻まれた記憶が蘇ったとは言え、完全に戻ったわけじゃないから。まだ見ていったほうが良さそうだな」
「えぇ、私もそれに賛成」
「まぁそうだな。じゃあもう少し見てくか」
こうして、僕達3人は、お互いに始まりの魔王と始まりの勇者、そして原初のエルフだったということを思い出し、昔の記憶も少し戻ってきていたが、もう少し昔の記憶を除いておくことにした。
「よぉよぉ、始まりの魔王ディアブロさんよぉ〜。自分より格上の魔神様に挑んだ感想を聞かせてくれよぉ」
空中に浮きながらそう言うタルタロスの目線の先には、ボロボロになり、血を流しているディアブロ達3人の姿があった。
ちっ、あぁー覚えてるわ。コイツ確かタルタロスだっけ? いつも僕にダル絡みしてきてたから、僕コイツのこと神の中でも特にキライだったな。
「怪我をしてらっしゃるではありませんか! 私の魔法で治癒します」
「大丈夫ですか!?」
おっ! この声は。
声の主は、ボロボロのディアブロ達の所に駆けつけてきた2人の配下だった。
「おぉー無事だったか。レオン、ノラ」
ディアブロがそう言う先には、青髪で整った顔立ちと引き締まった体をして、腰には青色の剣を携えている男の悪魔と、ピンク色のロングヘアで、幼い容姿をした女の子の悪魔が居た。
「くっ! しかしこのままだと勝てないな。仕方無い、皆んなよく聞いてくれ。今から俺の神授之権能『魂神』でルナとソル以外の俺達全員を転生と転移させる」
「っ! 主、とうとうその決断を下すのですね」
レオンは頭を少し下げながらそう言った。
「そう言えば、いつこの世界に戻って来るの? ノラ、知りたい」
ノラは空を仰ぎながらそう聞いてきた。
「そうだな、お目当ての魂之力を習得する為に転生と転移を繰り返したいから、大体10万年ぐらい経ったらまたこの世界で会えるように魂の道を決めておく」
ディアブロがそう言うと、リヒトが怖い顔で詰め寄った。
「は!? 魂の姿になったらそれこそ神に勝てなくなるぞ。それに、転生と転移をしたら今持っているスキルが消える可能性がある」
「それは大丈夫だ。確かに、殆どの魂は消えるかもしれない。だが、神授之権能は魂に刻まれた力だ。たとえ転生や転移を繰り返しても消えない。そして、俺達が集まる前に神授之権能が発現しないように条件も付け加えといた」
「どんな条件なの?」
クレアは、近くにあった岩に腰掛けてそう聞いてきた。
「条件はシンプル。俺の手にリヒト達が触れるだけだ」
「え? でも、それだと触れれない可能性もあるんじゃないの?」
「それも多分大丈夫。一応、『魂神』の力で俺とお前等の魂を結んで、この世界に俺が来たら何らかの形で再会できるようにしてある。まぁリヒト達が俺の手に触れるかは運だな」
「ふっ、相変わらずでたらめな魂之力だな。やってることが運命を操っているのと殆ど変わらないじゃないか」
リヒトは呆れた表情でそう呟いた。
「まぁ確かにそんな感じかもな」
「でも良いの? ルナちゃんとソル君を残して行くなんて」
クレアは、ルナ達の方を見ながらそう話した。
「あぁ大丈夫だ。アイツ等は神でも簡単には倒せないし、この作戦は戦いが始まる前に魔王軍皆んなで決めていたことなんだ」
「そうか。なら早くやってくれ」
「ちょっとリヒト、あんた正気!?」
「ふっ、何だ? このまま神達に殺されても良いのか?」
「あ〜もう分かったわよ」
「よし、準備はできたようだな。それじゃあ行くぞ!」
「あ〜待て、さっきお前が言っていたお目当ての力って時空破壊ができるスキルだよな?」
「うん。神授之権能にも時空破壊ができるスキルはあるかもしれないけど、そんな物をわざわざ今の神が渡してくれる訳無いし、魂之特性を習得しようと思ってる」
「確かに、魂之特性なら神が選ぶのではなく、本人の魂の特性で決まるからな。それで、どんな魂之特性にするんだ?」
「うーん。これさ、笑わないでほしいんだけど、結局最強が一番強いかなって思ってさ。最強の効果を魔法に付与できるように、魂には最強になりたいという強い意思を持たせて転生か転移をしようと思ってる」
「ぷっ、安直すぎだろ」
リヒトは口を手で抑えて笑った。
「もう、笑うなって言っただろ? 後、10万年前も経てば、神達の考えも変わってるかもしれないし」
「お〜い。仲良し達のお話しは終わったか〜? そろそろ諦めて絶滅させられとけよ!」
ディアブロ達が色々と話していると、タルタロスがそう言いながら、神達を連れてディアブロ達に迫ってきていた。
「ふんっ、流石に忘れるかもしれないがよく覚えとけ。次に俺達とあった時、絶滅するのはお前等だ。そして、神だからっていつまでも最強でいられると思うな」
ディアブロがそう言いながら神々を睨みつけると、神達は頭を抑えて苦しみだした。
「チッ、魂に直接攻撃されてるのか。相変わらず厄介な力だが、我々神はそれじゃあ倒せねぇんだよ!!」
タルタロスはそう叫びながら、再びディアブロ達に突っ込んできた。
「我が名はディアブロ。魂を掌握し悪を狩る者。そして、いずれお前ら神も超えて、“最強“に成る男だ」
ディアブロ達は皆手を前に出し、全員の手を重ねた。
すると、ディアブロの魔力が一気に上がり、辺りが黒く染まった。
そして数秒後。ルナとソルを残して、ディアブロ達は全員姿を消したのだった。
そして僕は眼の前が真っ暗になり、意識が徐々に遠退いていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
《神授之権能 『魂神』を獲得しました》
っ! この声はゼイト様か。さっきまでとは違って、何か優しい声だな。
それに、脳に直接語りかけられてるみたいで変な感じがする。
《神授之権能 『魂神』の効果は以下の通り。
魂導者:自身や他者の魂を掌握し、自由に操る。
魂破壊:操った魂を破壊し消滅させる。
魂神之奇跡:魂の粒子が残っていた場合のみ壊れた魂を再生可能》
あぁー、僕の神之権能はアニマ様の力だったのか。
持っていた神授之権能までは思い出せてなかったから助かった。
《及び、『黒雷無双』と名付けられた魂之特性『破壊王《壊す者》』を確認。条件クリアの為、究極之魂へと進化しますね……。
成功しました。魂之特性『破壊王《壊す者》』は、究極之魂『破滅帝』に進化したよ》
おいおい、こういうのって普通本人に進化させるかどうか聞くもんじゃねぇか。
流石は自由人ゼイト様だな。
《究極之魂『破滅帝』の効果は以下の通り》
って全然話し辞めないし。これは多分、リアルタイムでゼイト様が喋ってるわけじゃなさそうだな。
《破滅的な最強:自身の思う最強の効果、主に破壊用途に使う効果を付与できる。
完全再生不能:この魂之力所持者が壊したものは、無機物や有機物問わず再生が出来なくなる。
破滅帝の威圧:威圧を放った際、屈した者を行動不能にする》
おっ! やっと静かになったか。ということは、そろそろ目が覚める頃かな?
いや〜、さっきの話を聞いた限り、昔の僕の作戦は成功してるみたいだな。
後は、テンヤ達も神授之権能を開放できてるかどうかだな。




