70 10万年前からの道しるべ
ライムがサンダーパラダイスの拠点から帰り、ゼーレ達と次の目的地について話していた頃。魔界にある魔王城の玉座の間では、ムーアから帰ってきたシューゼが、雨に降られながら窓から入ってきていた。
タルタロス達は、丸い机を囲んでシューゼの帰りを待っていた。
「うげぇ~、ライムのせいで元から気分最悪なのに、雨まで降りやがって、もうやってらんねぇよ」
シューゼは、服の水滴を手で払いながら席に着いた。
「おぉ~、そろそろ帰ってくるころ合いだと思って待ってたぞ。その様子だと、やはり作戦は失敗したみたいだな。ハハハ」
タルタロスは大口を開けて笑っていた。
「おい、タルタロス。シューゼの作戦が失敗したのであれば、我々は笑っている場合じゃないだろ?」
紫髪の男は、頭を抱えながらタルタロスを見てそう言った。
「そうだぞ、タルタロス。シューゼの作戦が失敗したということは、魔将軍ゴウエンと滅龍ルナと言う魔王軍の最高戦力が負けたということだ。これからの戦いがより一層不利になるんだぞ」
「そんなことぐらいわかってる。ちょっと茶化しただけさ。それで、実際のところどうなんだ? シューゼ」
「……」
シューゼは暫くの間、口を閉ざしたままだった。
「……今回の作戦は正直俺の、いや、魔王軍全体の完敗だ」
「ほう、それはどういう意味だ?」
タルタロスは、机に肘を付け、体を前に傾けながらそう聞いた。
「理由を話す前に報告すべきことがあるんだが、今回の作戦を実行した際、ライムとライトニングは同一人物である可能性が高い事、元魔将軍のディストラが生きていることが分かった」
それを聞いた3人は少し動揺していた。
「何故だ? 確かにライムとライトニングの持つ魔法の追加効果は同じだが、同じ効果が別人物も持ちうる可能性があるから、話し合いの結果、同一人物ではないと結論付けただろ?」
紫髪の男がそう問いかけた。
「あぁ、確かにそうだが、俺ははっきりと見たんだ。ライムがライトニングの姿になるところを」
「まぁお前がこんなことで嘘を付くとも思えないし、信じるさ。それに、嬉しい誤算でもあるしな」
タルタロスは、ヘライトに目を向けながらそう話した。
「そうですね。今までの我々は、ライムとライトニングと言う2人のイレギュラーな存在を相手に事を進めてきましたが、今後はどちらか一人に絞って対処が可能になりましたからね」
「それで、完敗というのはどういうことなんだ?」
タルタロスは再びシューゼにそう聞いた。
「それは、今回の作戦に使った紅の牙とゴウエンが倒された事。そして、滅龍ルナと生き残っていたディストラがライトニングの仲間になり、戦力が大幅に削られたからだ」
「っ! 一度にエンペラーズと魔将軍から一人ずつ削られたか。しかも、ディストラはその可能性で話を進めていたから想定内だが、滅龍ルナまで引き抜かれると、とうとう我々の戦力がきついぞ」
紫髪の男は顔をしかめながらそう言った。
「戦力だけの問題じゃないですよ。滅龍ルナは魔将軍の面々でも相手取るのが難しい程の実力です。そんな奴が後ろ盾になっていては、ますます勇者パーティーに手出しができませんね」
ヘライトは、そう言いながら3人の顔をチラチラ見ていた。
3人は暗い表情を浮かべて静まり返った。
「そう言えばよ。タルタロス、お前が勝手に異世界転移で連れてきた時に、魔力の覚醒を発現した2人は今どうなってんだ?」
シューゼは、突然タルタロスにそう聞いた。
「あぁー、あいつ等なら魔将軍ミアに全部任せてる。確か、今も発明の途中だって言ってたぜ」
「そうか、なら良い。これからも報告を欠かさないようにちゃんと言っとけよ」
「わぁってるよ。いちいちめんどくせぇなお前は」
「ハァ~? こっちは勝手に動いたお前に合わせてやってんだろうが! それを何でお前は逆切れしてんだよ!」
「お前だって、つい最近勝手にムーアに居る勇者たちを襲撃した挙句、ライトニングにルナを奪われてるじゃねぇか」
「アァン? やんのかよお前?」
シューゼは、タルタロスに煽られたことで、椅子から立ち上がった。
「あぁやってやるよ。でも、ただ色んな物を吸い込めるだけの神のくせに全魔法を使える俺様に勝てると思ってんのかぁ?」
「おいおい、こんな時に内輪揉めはやめてくれ」
「そうだぞ。こんな時でなくとも、我々神の存在は魔王軍の一部しかまだ知らないんだから、むやみに力を使おうとするな」
「チッ、わかってるよ」
へライトにそう言われたシューゼは、タルタロスを睨みながら椅子に座った。
「ふっ、どうせ勝つのは俺だからな」
タルタロスは、ニヤついてシューゼの方を見ながら椅子に座った。
「勝手に言ってろ」
シューゼは鼻で笑ってタルタロスの言葉を流した。
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武装国家ムーアを後にした僕達は、北東に進みながらムーアを出発する前、僕がディストラに場所を聞いていた曰く付きのダンジョン内部に入っていた。
「ちょっとぉ~、ライムほんとにこれはダンジョンなのか?」
ゼーレは、生い茂った草をかき分けながら僕に文句を言った。
「壁はボロボロだし、虫もいっぱい居るのに魔物の気配は一切しないし、これじゃあダンジョンと言うより、遺跡って言った方が合ってるんじゃない?」
確かに、入り口も草木と強固な魔法で守られてたし、遺跡っぽいよな。でも何でだろう? どこか懐かしさがあるんだよな。
僕は頭の奥底にある靄のかかった記憶が引っかかっているようなもどかしい感覚を胸に抱きながらダンジョンの最下層目指して歩き続けた。
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僕達は、長く薄暗い道を辿って、遂にダンジョン最深部の光が少し差し込んでいて、真ん中に大きな木が生えている緑が生い茂った大きな空間に到着した。
「ふぅ~、やっと最深部か。結局魔物は一体も出なかったな」
ゼーレは、葉っぱを体中に付け、壁を伝って大きな空間に入った。
「まぁ楽だからありがたいんだけど、代わりに他のダンジョンより埃っぽかったし、虫もいっぱい居て最悪だった」
レイラは服を手で払いながらそう言った。
「まぁまぁ、2人共帰りもあるんだから今からその様子じゃ持たないよ」
2人より先に廊下を抜けていた僕は、2人に優しくそう言った。
「そもそも、貴方がこのダンジョンを見つけたのが始まりなんだからね」
レイラは僕を指さして怒りながらそう言った。
「ハハッ、ごめんって」
「でも、レイラも分からない結界魔法をライムは触れただけで解除したのは面白かったな」
ゼーレは、ニヤニヤしながらレイラの方を見てそう言った。
「っ! 私はエルフ1の実力者として、世界中の魔法を知ってるのに、ほんとにわからなかったんだってば」
レイラは耳を垂らしてしょんぼりしながらそう話した。
「分かってるよ。僕も勇者としてそれなり魔法には詳しいけど、今の時代の結界魔法とは作りが違う感じがした。あれはまるで、古の……」
「お〜い! 2人共来てみろよ〜」
ゼーレが何かを言いかけた時、先に奥の方を探索していたライムが、大きな木の裏からそう叫んだ。
「ハァー、ライムって本当に元気ね」
「まぁ、それがライムの良い所だから」
2人は顔を合わせて笑った後、ライムが居る場所に歩いていった。
「おぉー、やっと来たか。ほら、これを見てみろよ」
ライムがそう言って指を指している所には苔が生い茂っている古い石碑があった。
「古い石碑ね。それに、この文字は神話の時代の文字……」
「神話の時代?」
「え? ライム知らないのか? 神話の時代ってのは、今から約10万年前、まだこの星で知性を持つ生物が悪魔とエルフ、そして人間だけだった頃。始まりの魔王、始まりの勇者、原初のエルフって言う仲の良い3人が神々と戦争をしたって言う時代だぞ」
へぇ~、その時代にも神がこの世界に来てたのか。てか、時空ごと倒さないと死なないのにそいつ等は勝てたのか?
「なぁなぁ、その人達って神に勝てたのか?」
「さぁ? 神話だからどこまでが事実か分からないし、物語自体かなりあやふやだから分かんない」
「そうか……」
まただ。ここに来てから何かが繋がるような感覚がある。この感覚は一体何なんだ?
「そんな事より、これが神話の時代の文字だって分かったってことは、もしかしてレイラはこの文字読めるのか?」
「もちろん。長寿種であるエルフの里には、古い文字や古の魔法の記録などがいっぱいあるから、それを見て育った私にとって、神話の時代の文字を解読する事ぐらい朝飯前だ」
「おぉー凄え」
僕とゼーレは拍手をしながらキラキラした目でレイラにそう言った
「えっへん」
胸に手を当ててそう言ったレイラは、早速石碑の解読を始めた。
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数時間後。僕とゼーレは、暇なので2人で追いかけっ子をしたりして遊んでいた。
「よし、出来た! おーい、解読終わったよ〜」
レイラがそう叫ぶと、遊んでいた僕達は、追いかけっ子をしながらレイラの元まで走っていった。
「どんな事を書いてあったんだ?」
僕がそう聞くと、レイラは石碑に書いてあった文字を解読して書いた紙を見ながら話し始めた。
「えっとぉ〜『我、始まりの魔王ディアブロなり。汝がこの石碑に辿り着いたという事は、神に定められた宿命を壊す時が近づいている。盟友2人に会い、神授之権能の開放をせよ。2人の配下と再会せよ。それが、我々始まりの者が決めた運命なのだから。それと、創造神には気を付けろ!』って書いてある」
「っ! アァァァア!!」
レイラの読み上げた文を聞いた僕は、頭を抱えてうずくまった。
「ど、どうしたんだ? ライム!」
「大丈夫!? しっかりして!」
2人は突然うずくまった僕を見て、驚きながら手で僕の体に触れながら優しい言葉をかけてくれた。
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数分後。
「ハァハァ……」
僕は木にもたれかかる形で休んでいた。
「大丈夫か?」
ゼーレとレイラは、ずっと僕の看病をしながら気にかけてくれている。
「あぁ、だいぶ良くなったよ。そろそろ行くか」
急に頭の痛みが引いた僕は、元気に立ち上がり、そう言った。
「もう動いても平気なのか?」
ゼーレは、不安そうな表情を浮かべながらそう聞いてきた。
「うん。こんな薄暗い場所にずっといるわけにも行かないし、早くクレイエスに行こうぜ」
僕は、ニコっと笑ってそう言った。
「おぉ、分かった」
「この異常な回復力も獣人だからかしら?」
レイラはそう言いながら、僕のリュックに荷物を詰めていた。
「さぁね」
そう言った僕は、荷物を詰め終わったリュックを背負い、ダンジョンの外に向かって歩き始めた。
こうして、多少のトラブルに見舞われた僕達3人は、ダンジョンから出てクレイエスへと向かったのだった。




