52 スラムを仕切る大男
ツカサと共に路地裏に来た僕は、仮面を取りニヤリと笑った。
「えぇ〜! ライトニング様じゃないですか。気が付かずに失礼なことをしてしまいすいませんでした!」
ツカサは、僕が仮面を取ると、驚いた様子で頭を地面に叩きつける勢いで土下座をした。
「いや、そりゃあびっくりはしたけど、僕の方こそこんな変な姿のまま話しかけちゃったから土下座なんかしなくて良いよ。ほら、顔を上げてよ」
僕は仮面をポケットに入れ、ツカサの頭を優しく叩いた。
ツカサは、頭を上げて立ち上がった。
「あのーライトニング様。ライトニング様があそこに居たということは、ライトニング様も大会に出るんですよね?」
ツカサは僕の顔を伺いながら聞いてきた。
「うん。ある人に頼まれたからね。僕も大会に出るよ」
僕がそう言うと、ツカサの顔がパッと明るくなった。
「やっぱりそうですよね! やったぁ~、やっとライトニング様と戦えますね」
ツカサは、ガッツポーズをしながらキラキラした純粋な眼差しを僕に向けてきた。
「そうだね。でも、ツカサが大会に出るなら、僕的にはツカサに優勝してもらいたいんだけど」
僕がそう言うと、ツカサは少し残念そうに肩を落とした。
「えっ、どうしてですか?」
「だってさぁ、僕は勇者パーティーと冒険をしないといけないから王になる暇が無いんだよ。それに、ツカサもアンナから頼まれたから出るんだろ?」
「はい、そうですよ」
「だったら、ツカサが優勝して王になったほうがややこしくならずに済むかなぁって。勿論、最終的にツカサが勝てば良いわけだから途中までは僕も本気で戦うからさ」
僕の話を聞いていた、ツカサの顔は何とか明るい顔に戻っていた。
「分かりました。そういうことなら俺が王になります。でも、今の言葉忘れないでくださいよ。絶対に本気のライトニング様に勝ってみせますから!」
ツカサはそう言うと、コロシアムの受付の方に走っていった。
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狐の面をつけ直した僕は、服を整え、コロシアムの受付の列へと向かった。
「ほら、アシュラ。こっちだよー」
列に並ぼうとすると、前の方から狐の面を被ったクロエの声がした。どうやら、先に並んでいてくれたみたいだ。
ちなみに、狐の面はシエルに案内してもらった商会のお店で昨日の内に買っといた物だ。
今、クロエは追われる身だから、軽い変装ぐらいはしといてもらわないと僕も困るからね。
「よいしょっ。あっ、すいません」
アシュラが列の横からクロエと合流しようとすると、いかにもガラが悪そうな漆黒の瞳で睨んでくる身長二メートルぐらいある大男に体がぶつかってしまった。
大男の髪型は、血の様な赤黒いメッシュが入った黒のツーブロックヘアをしている。
「おいお前。俺様が誰だか分かった上でぶつかったんだよな!?」
「あっ、いやごめんなさい。知らないです」
僕は、軽くお辞儀をしながらそう言った。
すると、大男の後ろに居た剣を越しに携えているチャラそうな見た目の緑髪の長髪にオレンジの瞳をした男が顔を出して話し始めた。
「あーあ。あんたやっちゃったねぇ。ガンナー兄貴はスラムを仕切るパワー団のリーダー何だぜ」
「へぇ~」
僕は興味なさげに軽く話を流した。
すると、ガンナーが舌打ちをしながら僕に近づいてきた。
「チッ。おい、お前。何だその態度は、喧嘩売ってんのか? 潰されてぇのか?」
ガンナーは、僕の頭に頭をぶつけながら漆黒の瞳で睨んでガンを飛ばして話してきた。
うぇ〜、ツバ飛んでんだけど。この狐の面、お気に入りなのに。
「まぁ良い。お前ほどの強さなら俺様と当たるまでは負けなさそうだし。今は見逃してやるよ」
へぇ~、見た目は頭悪そうなのに、実はちゃんと相手の実力を図れるんだ。
ガンナーがそう言ったことで、その場は何とか何も起こらずに済み、僕達は再び受付の人に呼ばれるのを待つことにした。
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「次の方どうぞ〜」
最前列になると綺麗な受付のお姉さんが手を上げて、誘導してくれた。
「ようこそ。こちらの大会へのご参加は初めてですか?」
「はい、そうです」
受け答えは基本クロエに任せることになっている。
「了解しました。それでは、当大会の説明をさせて頂きます」
受付のお姉さんは、そう言いながら僕の前に説明書を出した。
「この大会は、この国『ムーア』の王位を掛けた大会となっており、今日の朝9時から予選が始まり、ここで決勝に進む8人を決めます」
お姉さんは説明書を一枚めくった。
「そして、翌日の昼から勝ち上がり式の決勝を始め、決勝で勝ち残った一人が、現ムーア国の国王と戦い王位を決めるという流れになっております」
へぇ~、半無法国家って聞いてたから、いっぺんに全員闘うバトルロイヤル形式かと思ってたけど、仮にも貴族が住んでるところだからかな? 一対一での勝敗で決まるんだね。まぁ、バトルロイヤル形式の戦いもしてみたい気持ちはあったんだけど。
説明を終えたお姉さんは、紙を僕に渡してくれた。
「説明は以上になります。それでは、お二人共参加で宜しいでしょうか?」
お姉さんはペンを片手に僕らの顔を見ながら話した。
「いえ、私はこの人の付添いなだけなので」
クロエは僕の方に目を向けながら後ろに下がっていった。
「そうでしたか、大変申し訳ございません。それでは、お名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」
「俺の名は、アシュラです」
「アシュラさんですね。少々お待ちください」
受付のお姉さんは、そう言って奥にある書類を見ながら何かを書いていた。
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その後数分待っていると、お姉さんが紙を持ってこちらにやって来た。
「お待たせいたしました。こちらはアシュラさんの対戦時刻になります。対戦時刻までは自由ですが、対戦時刻までに会場に居ないと失格となりますのでご注意下さい」
お姉さんはそう言いながら僕に紙を手渡した。
「はい、ありがとうございました」
僕達はお姉さんにお礼を言い、その場を後にした。




