53 正義でも悪でもない作戦
受付を済ませた僕達は、コロシアムを後にして、スラムにあった周りに人の居ないボロボロの空き家に入っていた。
空き家には太陽の光が差し込み、僕らのことを照らしていた。
「あのぉ、他にも椅子があると思うんですけど、何でこんなに近くに来るんですか?」
クロエは狐の面を外して、何故か僕の隣に座っていた。
「別に良いでしょ。何故か貴方の隣りに居ると安心するのよ」
クロエはそう言いながら、ゆっくりと頭を僕の膝へと降ろしていき、膝を枕にして寝転がった。
クロエの紫色のショートヘアが僕のズボンに触れる。
清らかな水の様にサラサラとした綺麗な紫色の髪からは、花の甘い香りがして、僕も何だか安らかな気持ちになった。
「そう言えば、貴方の対戦は何時からなの?」
クロエは顔を僕の方に向け、上目遣いで聞いてきた。
宝石のような赤と水色のオッドアイが純粋な視線が僕を見つめる。
僕は、少しクロエの瞳に引き込まれながら、ポケットに入れた紙を取り出して広げた。
「え〜っと。紙には2時半からって書いてるから、2時に会場に向かったら大丈夫だな」
「ふ〜ん。なら、それまでお互いのことをもう少し話し合わない? 勿論、言える範囲で良いから」
「まぁ、他にやることも特に無いしそうするか。てか、このまま話すのか?」
「うん、そうだけど。嫌だった?」
クロエは上目遣いをしながら、心配そうにしながら聞いてきた。
「聞いてみただけだから、嫌じゃないよ」
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それから1時間程お互いのことを話して盛り上がっているとあっという間に会場へ向かう時間になっていた。
「あっ! もうこんな時間じゃない。アシュラ。行くわよ」
クロエは、狐の面を着けながらそう言って僕の手を引いた。
「うん」
僕はクロエに手を掴まれたので、そのままクロエに引っ張ってもらいながら会場を目指して歩いた。
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スラム街を少し歩いていると、遠くの方から怒号が聞こえてきた。
「おい、お前ら! サッサッと働きやがれ! ガンナーの兄貴に言いつけるぞ!」
「ん? どうしたんだろう?」
僕はクロエに引っ張られている手を引き止めて、怒号が聞こえてきた方向に視線を動かした。
「ちょっと、何止まってるのよ。今はそれどころじゃ無いでしょ? 早く行かないと失格になるんだから」
「分かってるよ。でも、少し覗くぐらい良いだろ? この国の状況を知る機会にもなるし」
「はぁ~、しょうがないわね。でもガンナーの名前が出てたから、本当に覗くだけにするのよ」
「了解だ」
そして、僕達は怒号が聞こえてきた場所に移動した。
「おい、休むんじゃねぇよ。立て!」
そこには、周りに武器を持った男達が数人。
その真ん中には、薄い布で作られた服を着ていて、腰まで伸ばした無造作な黒髪に暗く感情の無い水色の瞳に、傷が目立つ透き通るような白い肌をした女の子を足で踏みつけている小太りした金髪の男が居た。
「すっ、すみません」
女の子は震えた声でそう言った。
「お前ら奴隷は、ガンナー兄貴が作ったパワー団の所有物なんだよ! 謝る暇と休む暇があるなら、さっさと荷物を荷台に積みやがれ!」
小太りした金髪の男はそう言いながら、奴隷の女の子の髪を手で掴んで顔を持ち上げた。
女の子の目からは、涙がこぼれ落ちていた。
「特にお前は貴族の息子この国の貴族のくせに弱すぎるからって、鍛えるために親に奴隷商に売られたんだろ? だったら他のやつよりももっと働かないとだよなぁ? それが嫌なら体を売るか?」
小太りした金髪の男は女の子に顔を近づけながらそう言った。
「いっ、嫌です」
女の子は、今にも消えてしまいそうな細く、小さく、あまりにもか弱い声量でそう答えた。
「ふん。だったら、休まず働きやがれ!」
小太りした金髪の男はそう言って奴隷の女の子を荷物の方へ蹴り飛ばした。
「なぁクロエ」
「何? まさか、助けるなんて言わないよね?」
クロエは小声で慌てながらアシュラの服を掴んだ。
「あぁ違うよ。ちょっとトイレに行きたいから、先に会場に向かっといてくれないか?」
「まぁ良いけど。遅れないでよね」
「分かってる」
僕がそう言うと、クロエは予選会場へと向かって走って行った。
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混沌渦巻く無法国家の闇の世界で、僕は少し離れた路地裏に移動して、漆黒を纏いしライトニングの衣装に着替えていた。
「ゔっゔん。ナイトサンダーズは居るか?」
僕がアシュラの声を更に低くしてそう言うと、建物の上からシエル達が降りてきて膝をついて頭を下げていた。
「はい、ここにおります」
「シエルよ。今この国に集めれる人員の数を教えてくれ」
「はっ! 現段階において、この国に招集可能なナイトサンダーズの数は200人前後となっております。ですが、今この国に到着している数は150名です。残りの50名は今晩には着くと思われます」
うん。思ってた以上に多いな。
「うむ、十分だ」
僕は、偉そうに腕を組みながら言った。
「身に余るお言葉有難う御座います。それで、ライトニング様。私達は何をすれば宜しいでしょうか?」
「実はな、ナイトサンダーズ総出でやってもらいたいことがある」
「何でしょうか?」
シエル達は顔を上げて僕の顔を見た。
「この国には奴隷がたくさん居るだろ?」
「ハムハム。そうみたいですね」
アイは、その小さな口いっぱいにお菓子を食べながら話した。
「だから、君たちには奴隷の解放をしてもらおうと思ってさ」
「なっ! らっ、ライトニング様。それはつまり、この国の貴族達と戦争をすることになりますよ。大丈夫なんですか?」
カルラは生まれたての子鹿のようにプルプル震えながらそう話した。
「うん、いざとなったら僕とここに来ているツカサが何とかするし、奴隷を助ければ、色々組織の役に立つことがあるかもしれないからね」
「了解しました。それでは実行時刻は何時になさいますか?」
シエルは立ち上がり、キリッとした目で僕を見つめながらそう言った。
「う〜ん。今日はまだ人が集まっていないみたいだし、明日の夜に始めようか」
「了解しました。皆に伝えてまいります」
「うん。宜しくねぇ〜」
シエル達は、深くお辞儀をして、また影の世界へと消えていった。
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そして数分後、僕はアシュラの服に着替えてクロエと合流し、予選会場に指定された貴族達が住むエリアの広場へとやって来た。
広場には、低い柵で作った円が幾つかあり、その中には審判らしき人が入っており、周りには高そうな服を着ている人達が集まっていた。
「おぉー、予選なのに結構賑わってるんだな。てか、やっぱり試合観戦は貴族の遊びなんだな」
「そりゃあ、此処は強き者とその家族しかなることが出来ない貴族エリアだからね。スラムにいる人達はこのエリアに入ることすら許されないんだよ」
まぁそうだよな。というか、半無法国家って言われる意味が分かったよ。多分、家族の中に一人でも貴族になれるほどの実力者が居ればその家族は貴族になれるんだろうな。そうじゃなきゃ戦い慣れていない子供やルミナス商会の人達がこのエリアに住めるわけ無いし。
勿論さっきの女の子みたいに例外はあるだろうけど。
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時は進み夕方。夕日が世界を赤く染める時。何試合か試合を見た後、遂に僕の予選が始まる時刻になった。
僕は準備運動をし、会場に入った。
会場に入ると、審判の人がボディチェックをした後中央に戻り手を上げて、笛を口元に用意した。
「それでは、これよりアシュラ対ガンナーの対戦を開始します」
「へっ、初戦がお前かよ」
ガンナーは指をポキポキ鳴らしながら軽く笑った。
「俺もびっくりだよ。ガンナー」
僕は、自分の周りに雷を漂わせながらそう言った。
「両者準備はできましたか?」
「おう、できてるぜ」
ガンナーはそう言いながら、ニヤリと笑った。
「ガンナーの兄貴。頑張ってくださ〜い」
会場の近くには、パワー団のメンバーも来ているようだ。
「俺もできてる」
両者は太陽に照らされ紅く染まっていた。
会場はただならぬ緊張感に包まれており、静まり返った会場に吹く緩やかな風によって、アシュラの着ているコートがなびいていた。
「それでは試合を開始します!」
審判の人はそう言いながら、手を下に下げ、笛を吹いた。
こうして、狐の面を被った謎の男が大会で無双する作戦が幕を開けた。




