33 中二病が繋ぐ絆
どちらが魔界に名を轟かせられるかを決める勝負をすることになった僕達は、己の実力をゴウエンに見せつけるために本気で戦っていた。
「最初っから本気で行く! 『魂斬之無限黒雷斬撃!!』」
僕は早速、最強の技で仕掛けた。
「ガチすぎませんか!」
ディストラは、堪らず影の世界の中に入った。
だが、その程度の逃げ方では、僕の漆黒の雷からは逃れられない。
「フハハハ、無駄だ!」
僕の斬撃は影をも切り裂き、地面を壊しまくった。
「ちょ、この人魔王様より魔王様してるんですけど!」
無意味だとわかったディストラが、魔法を準備しながら影から飛び出してきた。
「影魔法は、こんな事もできるんですよ!」
ディストラはそう言い、影魔法で自分の分身を数体作って僕に襲わせた。
「なっ、影分身だと!」
かっけぇ〜。
「ふっ、だが所詮は影だ。簡単に吹き飛ばせる!」
僕は剣を思いっきり振った。
すると、影分身達は風で吹き飛んでいった。
「くっ! そりゃあそうですよね。なら、これならどうですか!」
ディストラは、僕が足を地面に着けた瞬間に広範囲魔法を展開した。
『影之門!!』
ディストラが地面に手を着くと、ディストラを中心に影が一瞬で広がった。
「うわっ!」
僕は影の世界に入ってしまった。
「うっ、苦しいけど息はなんとかできるな」
暫くもがいていると、ディストラも入ってきた。
「どうです? 苦しいですか? でもこの魔法はそれだけじゃ無いんです」
ディストラは少し興奮した表情で話を続けた。
「影の世界では、同じ影魔法を覚醒させているもの以外の動きを制限し、この影の世界そのものが私の魔素になるんです。だからこの世界では、ノアさんと同じように魔素が底をつきなくなるんですよ」
「それは凄いな」
「えぇそうですよ。それにここなら誰にも私達の戦いは見えませんし、無様に負けてくれても良いんですよ?」
ディストラは見下した視線をライトニングに向けている。
「あっちなみに言っときますけど、僕は本当に裏切っていますよ。なので貴方は我に勝たないと死ぬということです」
ディストラはそう言って僕に微笑んだ。
「なっ!」
「アッハハハハ、こんなに簡単に騙されるなんて、ライトニング様って本当にバカですね。油断しすぎじゃないですか? 身体強化まで解くなんてそのままじゃ我に一瞬で心臓を撃ち抜かれますよ」
「ふっ良いぜ、やってみな」
「はぁーわかりましたよ。今までありがとうございました。そして、さようなら……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ディストラが僕を影の世界に引きずり込んでから約5分後、僕は影の世界から放り出され、ディストラは見るも無惨な姿で出てきた。
「はぁー苦しかったぁ。てかゴウエンは行ったかな。こっからだと、どこに居るかわかんねぇな」
遠くに居たゴウエンは、ボロボロになったディストラを見ると魔界に走り去っていった。
少しすると、影からディストラが出てきた。
「流石にゴウエンは、魔界に行ったと思いますよ」
「そうだな」
「というかよく、私が裏切ってないってわかりましたね。気がつくかどうかはギャンブルだ! って感じでやったのに」
ディストラは暗い表情で下を俯いていた
「まぁ理由は色々あるけど、一番の理由は僕も同じ状況になったら同じ嘘を言っていたからだよ。あぁいう時って特に理由は無くても悪役になりたくなるのが中二病の性だもんな!」
「でも、私は陰の者になる為ならなんだってするって言いましたよね! 中二病の性に抗って、本当に裏切ってる可能性もあったのに何で私を信じたんですか?」
「ふっ、嘘で言ったってことぐらい直感でわかるんだよ」
「なっ! 直感なんか信じたんですか?」
ディストラは食い気味に言ってきた。
「だって、親友を信じる理由なんて直感で十分だろ?」
「なっ親友……」
ディストラの頬には涙が伝っていた。
「ほらな、お前が本当は、友達が欲しくてたまらない事ぐらいわかってるんだよ」
だって、僕も前の世界で体験してたからな。
あん時は本当に辛かったなぁ。
「なんで私が本当は、友だちが欲しいって思っているとわかったんですか?」
「ん? まぁそれは、孤高に生きると決めたと言ったお前の言葉には、昔の僕と同じ迷いが見えたからだ……。陰には陰の友達が必要なんだよ」
ディストラは涙を拭いた。
「ふふっ流石は、最強のライトニング様ですね」
その声は少し震えていた。
「おう、僕は最強なんだ。だから何も心配せず、僕達の元に帰って来い。ディストラ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
外では、ラビッシュが暴れまわっていた。
「グァァア!」
ラビッシュの回し蹴りで、小さなゴブリンは肋骨が折れて吹き飛ばされて行く。
「ふふん、そんなもの、ボクには効かないのです!」
ラビッシュは魔物の顔を踏んづける。
ラビッシュのイケメンフェイスは不敵な笑みと血濡れた髪と顔で、狂気に満ちていた。
「うわぁー。流石は進化できないからって、フィジカル全振りしたバケモンだな。他の皆んなと比べても破壊力が違うよ」
僕がそんなことを言っているとノアがこちらに向かって走ってきた。
「おーい、大丈夫かライトニング」
うん。やっぱり前から思ってたけど陰の組織なのに戦ってる時まで私服ってなんか違うよな。
「大丈夫だ」
これで、魔界までサンダーパラダイスの存在が明るみになるだろうし、これから人前での活動も増えるだろうからね。
アンナ達は、組織を作るのは上手かったらしいけど、雰囲気づくりはできなかったんだな。
旅館に戻ったら、みんなが集まっているタイミングで、色々組織を作り直してもっとかっこいい感じにしないとな。
「流石です。それでディストラはどうしたんですか?」
「あぁー。ほれ、あっちを見てみ」
僕はボロボロになったディストラを指さした。
「やはりこうするしかなかったんですね」
ノアは少し悲しそうにしていた。
「いや、あれはディストラの分身だぞ」
「え?」
ノアは驚いた様子で顔を上げた。
「まぁ詳しいことは後で皆んなが集まった時に言うから、とりあえず周りの魔物を片付けようぜ」
「はっはい。了解しました」
そう言えば、アンナ達は何してるんだろう?
てか、今回の僕、途中からカッコつけるのを忘れてたな。
「まぁ、友達との戦いだったからなぁ。熱くなるのも仕方ないか」
「次から気をつけよ〜っと」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、アンナとミズキ、そしてホノカは、ユキネとツカサを置いて町や森を歩き回っていた。
「うーん、どこにも居ないな」
「そうですね」
「このままだと、ライトニング様のことを追放しないとだめですもんね」
「えぇそうよ」
「くっ、やっぱり悪魔は信用できないですね」
一方その頃、僕達は魔物を殲滅して旅館の社長室に戻った。
「ふぅー流石にあの数は疲れますね」
「僕は楽しかったよ」
「僕もだよボス」
ラビッシュがライトニングの後ろから抱きついた。
「ん? ボス?」
「うん、ボスの強さを間近で見たらボスの方が合ってるって思ったから」
「へぇー」
「だめだった?」
怒られると思ったのか、ラビッシュの耳が垂れ下がっていた。
「ダメじゃないよ」
こっちはこっちで陰の組織のリーダーっぽいしね。
「良かったぁ。大好きだよボス!」
「僕もだよ」
「ほんと? やったー」
ラビッシュの耳がピンッと上に上がった。
「ゔっゔん、よろしいですかな」
そう言えば、ジョンさんが話したそうにしていたんだった。
「あっ、あぁすいません良いですよ」
「ライトニング様、町を救ってくださりありがとうございます。私共で出来ることなら、何でもお礼をさせていただきたく思っております」
ジョンさんは椅子から立ち上がり、僕の前で膝まづいた。
「何だそんなことなら別に良いですよ。僕は自分の組織の拠点を守っただけですから」
「いえ、それでも私共は貴方様のお役に立ちたいのです」
ジョンさんは頭を下げながら話した。
「うーんそれなら」
僕は、せっかくなのでこのチャンスを使うことにした。
「この組織には服を作っている会社も入っていますよね?」
「はい、その通りです。サンダーパラダイスには幅広い産業が入っておりますので勿論入っております」
ジョンさんは頭を上げ、目を輝かせて話した。
「そうか、なら今から僕が描く服を戦闘員の数だけ作るようにお願いしてほしいんだけどできる?」
「はい、ライトニング様の要望なら喜んでお引き受けいたします」
「そうか、良かったぁ」
そして僕は、自分の思い描く最高にかっこいい陰の組織の戦闘服を描いた。
「こんなのはどうかな?」
僕が描いたデザインは、黒基調のフード付きコートに、中には黒のTシャツとズボンも靴も黒のデザインだった。
初めて服のデザインなんてしたけど、なかなかいい感じの出来だと思う。
まぁ、こっからプロに添削して貰うんだからダサい出来にはならないだろう。
「これにいい感じに雷のデザインを入れた、かっこいい服を作って戦う時に皆んなに着てほしいんだよね。勿論雰囲気を壊さないのであればアレンジもオッケーってことで」
僕は期待で胸がいっぱいになっていた。
「了解しました。そのようにお伝えいたします」
ジョンさんは真剣な眼差しで言った。
「うん。よろしくね」
いやー、やっとこれで戦闘時も陰の組織っぽくなるな。
そう言えば、アンナ達はどこだろう?
「それじゃあ僕は部屋に戻るよ。アンナ達が帰ってきたら呼んでね」
「わかりました」
そして、ひと先ず僕はゼーレ達と泊まっている部屋に戻った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
部屋に戻るとゼーレ達に詰め寄られた。
「なぁライムどういうことだよ」
「え?」
「夜ご飯の時には戻ってくるって言ったわよね」
どうやら二人は、僕が帰って来るのを待っていて、ご飯を食べていないらしい。
「あぁー、えっと色々あってね」
「へぇー色々って何よ?」
ゼーレ達は従業員さん達が音魔法で町を包んでいたので騒動には気づいてないらしい。
「いやーちょっとプライベートなことだからなぁ」
「あっそう」
「なら仕方ないか」
二人がまともな人間で良かったぁ。
それから僕達は夜ご飯を食べ、直ぐにぐっすり眠った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
深夜1時ぐらいにディストラに小声で起こされた。
「アンナ様達が、お呼びですよ」
「おうっわかった、すぐ行く。それとさぁディストラ」
「はいっ、何でしょう?」
「お前も魔力を覚醒させてるんだったら何で魔法の色が変わって無かったんだ? それが気になってあまり寝れなかったんだよ」
「それは私の魂の色が、貴方と同じ黒色だからですよ」
「へぇー。っでちなみに魂の特性ってどんなだ?」
影の中に自分や他人を入れることができるって言っても、魂の特性がどんなのか分からないんだよな。
「私の魂の特性は、『全てを闇に引き込む』。ですよ。まぁ怨念で出来た特性ですね」
「へぇー、でも中二心くすぐられるな」
「そうでしょ」
その時、僕の頭に最高にかっこいいアイデアが舞い降りた。
「なぁなぁディストラ」
「何ですか?」
「僕ひらめいたんだけど、魂と魔力をくっつける時に異名みたいなことを言えば、もっとかっこよくなるんじゃね」
「確かに!」
僕らは、早速自分たちの追加効果にまつわる異名を考えた。
先に思いついたのはディストラだった。
「よし、決まったぞ!」
「おぉー、どんなだ?」
「私の異名は、すぅー……」
ディストラは、深く息を吸った。
「『影之支配者』です!」
「おぉー直球だけど、かっこいいな」
「フフーン」
ディストラは自慢げだった。
「次は、ライトニング様の番ですよ。思いつきましたか?」
「あぁー、とびっきりかっこいいのを思いついたぜ!」
「何です? 何です?」
「僕の異名は……。ドゥルルルルル ポンッ! 『黒雷無双』だ!!」
「っ! くそかっこいいじゃないですか!」
「だろっ!」
「よし、今度から発動する時は最初に言ってから発動しような」
「はいっ、その方が何倍もかっこいいですからね」
魂と魔力を繋ぐ時の発動名を考えた僕達は、時間が掛かって少し遅れていたので、急いで社長室にディストラと共に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ごめんなさい、こんな時間に起こしちゃって」
アンナは申し訳無さそうに頭を下げた。
「いや、僕が言ったことだし別に良いよ。ちょっと遅れちゃったしね」
「後、一応ジョンさんには席を外してもらったわ」
「あぁその方が助かるよ。このことは僕と虹雷剣だけの秘密にしたいからな」
「コウライケン?」
聞き馴染みのない単語に、アンナ達は頭上にはてなを浮かべていた。
「君達七人のグループの呼び名だ。もしかして他の呼び名があるのか?」
「いえ無いわ。どうしようか迷ってたのよ。決めてくれてありがとう、ライトニング」
まぁ虹雷剣の由来は単純で、アンナ達が七人なのと、髪の色が皆んな違ってカラフルだからってだけで深い意味はないんだけどね。
「それで、ディストラが何故裏切って、何故許したのかを聞かせてもらえるかしら?」
「うん、ディストラ出てこい」
「はい」
ディストラが影から出てきた。
「まぁ、理由を一言で言うなら、ディストラはそうするしかなかったってだけなんだよね。」
「どういうこと?」
僕は、ディストラの監視にゴウエンがいた事などを話した。
「そういうことだったのね。なら今回の件は私から組織の皆んなに伝えておくわ」
「うん、ありがとうな。それでさここからは、これからのサンダーパラダイスの活動のことを色々話し合いたいんだけど良いか?」
「ラビッシュは寝ちゃったみたいだけど、良いわよ」
「えぇっと、まず表でサンダーパラダイスの一員として活動する時は、基本この服装にアレンジを加えたものを着てほしいんだよね」
僕はそう言って、紙に描いたデザイン案を皆んなに見せた。
「確かに、統一感が合って顔も隠れているから今までよりも表に出た活動がしやすくなるわね」
「それと、サンダーパラダイスになんか色んな大人が介入してるじゃん。まぁそれ自体は別に良いんだよ。新しい会社を作るより簡単だし」
「でも、僕は君たち七人にこの組織の幹部をしてもらいたい。だから、この中の2人からサンダーパラダイスの実質的なまとめ役と、商会を作って今サンダーパラダイスに入っている会社とか全部を経営する人を決めたいと思います。その他は今まで通りで良いよ」
その他の役割は結構誰でも適正ありそうだからな。
「あっ後、ホノカの役割も決めようと思う。もう僕が監視役みたいなもんだし、シエル達みたいな人も居るしね」
「そうなのね。それでまとめ役をやりたい人は居るかしら?」
「いや、実質的なまとめ役はもう決まってるんだ」
「え?」
アンナは驚いた表情でライムを見ていた。
「まとめ役はアンナにやってもらおうと思ってるんだ。アンナがこんだけ組織をでっかくしたんだからね。まとめるぐらいやってほしい……。後、僕は旅もあるし」
「うっ、まぁ今までもそんな感じだったし良いわよ」
「じゃあ、商会を作って経営をしたい人は居るかしら?」
アンナが他の6人に聞いた。
すると、ユキネが手を挙げた。
「その役割、私が引き受けさせて頂きます。魔法のことはエルフのほうが詳しいですから、任せても問題ないでしょうし」
「確かにユキネなら商会を経営出来るだろうし、ユキネに頼むよ」
「ありがとうございます。ライトニング様」
「でも、それだと僕達のサポートは出来ないね」
「そうですね。でもシエル達が居れば安心ですので問題ないかと」
「まぁシエルはしっかり者みたいだからね。わかった、それでいこう」
アイやカルラも普通に強いみたいだし。
「それでホノカについてなんだけど、ホノカにはツカサの手を借りながら、サンダーパラダイスに戦えるものを育てる軍隊を作ってほしいんだよね」
「私がか?」
「うん、ホノカなら鬼教官みたいになれると思うからさ」
「オニ、キョウカン?」
ホノカは初めて聞く言葉にピンときていない様だった。
「いや、何でも無いよ。それと今の役割以外に何か役に立ちそうな役割があったら勝手に作っていいから。あっ、でも大きなプロジェクトの場合は補佐役を用意したほうが良いよ」
いくらアンナ達が有能で大人も所属しているとは言え、サンダーパラダイスの大半は十代だからな。
「わかったわ」
「うん、何か困ったことがあれば、ゼーレ達が居ないときならいつでも頼って良いから」
僕は流石に寝たかったので、部屋から出て泊まっている部屋に戻ることにした。
するとアンナが話し始めた。
「ライトニング、私達に新たな道を作ってくれたり色々ありがとうございます」
「良いよ別にお礼なんて」
アンナにはサンダーパラダイスの盟主の仕事を都合よく押し付けちゃったからな。
「それとユキネ」
「はい、何でしょうか?」
「大丈夫だと思うけど、商会のリーダーだからってあまり偉そうにしないようにね」
「承知しております、ライトニング様」
「なら宜しい」
こうして、僕は自分の思い描いた陰の組織を作るためのアンナ達の誘導を成功させたのだった。




