30 サンダーパラダイスの休日
町に着いた僕達は、目の前の光景に思わず口を開けた。
「おぉーこの街凄いなー」
街は、前居た世界の和風の雰囲気があり、街のあちこちに旅館などがある温泉街だった。
どうやら、勇者が魔王討伐の旅を始めたことは大陸全土に知れ渡っているらしく、僕たちは盛大なおもてなしを受けることになった。
「うわぁーやっべぇな」
僕達は、街で一番豪華な旅館に泊まらせてもらうことになった。
僕達は部屋に行く前に、先にお風呂に入ることにした。
「ちょっとトイレに行ってくる。ゼーレ達は先に温泉に入っていて」
「オッケー」
僕はリュックを持ってまま、ホノカに来てほしいと言われた場所へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ホノカが言うには、この街はサンダーパラダイスの隠れ拠点だそうだ。
「町一個拠点ってどうなってるんだよ!」
僕は、ホノカに街に着いたら皆んな集まっているので、貸し切りにしている混浴風呂にきてほしいと言われていた。
「混浴風呂ということはノア達も来てるのかな?」
僕が一人になると、従業員の女の人が近づいてきて耳元で話しかけてきた。
「貴方がライトニング様ですね」
「ひっ!」
「ふふっごめんさい。この名前は隠すように言われているもので」
それにしても他のやり方があるだろ。
「そうだけど、君が案内してくれるの?」
「はい。ホノカ様達がお待ちしております混浴にご案内いたします」
僕は女の人について行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
暫く歩くと、暖簾が見えてきた。
「こちらが混浴風呂でございます」
「うん。ありがとう」
「ごゆっくりごつろぎ下さい」
女の人は、一礼して去っていった。
「それにしても、この旅館普通に男湯と女湯があるのに何で混浴風呂があるんだろう? まぁある所にはあるか」
疑問に思いながら混浴風呂の前まで行くと、暖簾の先から聞き覚えのある声がしてきた。
『まだ来はりませんねぇ、ライトニング様は』
『そうね。でも警備をさせている者からこの旅館に入ったことは聞いているわ』
『私、久々にライトニング様に会えるの楽しみです』
ミズキは嬉しそうにそう言った。
『ミズキ、抜け駆けは無しよ』
それを聞いたアンナは、釘を刺すようにミズキに言った。
『分かってますよぉ』
『ボク、先に入ってくるね』
ラビッシュはそう言って、元気良く扉を開ける音がした。
『転ばないように気をつけなさいよ。ラビッシュ』
『はーい』
この声はアンナ達か、ノア達の声が聞こえないということは僕はまんまとハメられたということか。
僕は暖簾を潜った。
「皆んな久しぶり」
僕が暖簾を潜ると皆こちらを向いた。
「ライトニング〜、久しぶり〜。会いたかったよぉ〜」
アンナが抱きついてきた。
「グハッ! うん、久しぶり。僕も皆んなに会いたかったよ」
すると、ミズキがアンナを引き剥がした。
「近すぎですよ!」
「もう! ちょっとぐらい良いじゃんか」
引き剥がされたアンナは、ほっぺたを膨らませながらそう言った。
「駄目です!」
「よいしょっと」
アンナから開放された僕はホノカの方に歩み寄った。
「ホノカ、護衛をしてくれて本当にありがとうな」
「そんな、お礼なんて良いのに。まぁ、どういたしまして」
ホノカは、照れくさそうに赤い髪を触りながら目線を外した。
「そうだ、リアムは風引いてないか?」
そう聞くと、ホノカは不思議そうに首を傾げた。
「はい、リアムは風邪を引いていませんよ」
「なら良かった」
僕たちのせいで風邪を引くのは流石に可愛そうだからな。
そんな話をしていると、アンナが話に割って入ってきた。
「ちょっと、随分仲良くなってるじゃない。やっぱり私が行くべきだったかしら」
「アンナ、そんなことないよ。前から僕達はこんぐらい仲良いよ。ねぇホノカ」
そう聞くとホノカは震えながら答えた。
「は、はい。その通りですよ。アンナ様」
僕がいない間、アンナに何されたらそんなに怯えるまでになるんだよ。
「そう、なら良かった」
「そうだ、ライトニング。ディストラって居るの?」
アンナ達はホノカから報告を受けてたみたいだ。
「あぁ居るよ。おい、ディストラ起きて」
僕はディストラを影から出させた。
「ふわぁ〜、おはようございます。ってこの人達は?」
ディストラが出てくると、アンナはディストラに近づいた。
「貴方がディストラね。私はアンナ、そしてここに居るものは、皆んな貴方の主ライトニング様の仲間よ。これからよろしくね」
「貴方達がアンナさん達ですか。ライトニング様から聞いています。こちらこそよろしくお願いします」
二人はきちんと挨拶を交わした。
「それで、ディストラさんのために貸し切りの温泉を用意したのでぜひくつろいでもらいたいのだけれどよろしいですか」
「本当ですか! ありがとうございます!」
ディストラの言葉を聞いたアンナは僕を案内した女の人を読呼んだ。
「貴方、このお客様をご案内して頂戴」
「はい。かしこまりました」
そして、ディストラは女の人に案内されていった。
くそっ! ディストラが最後の頼みの綱だったのに。
「そうだライトニング、貴方に報告することがあるの」
「何だ?」
「出て来なさい」
アンナがそう言うと、暖簾の先から3人のエルフの女の子が出てきた。
「この子達が暫くの間貴方達の護衛を担当する者達よ。貴方達挨拶しなさい」
アンナがそう言うと、白髪ショートボブに碧眼をした女の子がお菓子を食べながら真っ先に名乗り出た。
「アイの名前はアイです! よろしくお願いします! はむはむ ボリボリ」
元気でマイペースな子だな。
次に、モデルの様なスラッとした長身で紺色ロングヘアに紺の瞳をした女の子が前に出た。
「先程はアイが失礼な態度を取り、申し訳ございません。私はシエルと申します」
「ほら、次はあなたですよ」
シエルに言われ、シエルの後ろに隠れていた長い黒髪で綺麗な黄緑色の瞳を片目隠している臆病そうな娘が前に出た。
「えっ、えっと、わっ私はカルラです」
カルラはそう言うと、すぐにまたシエルの影に隠れた。
「すいません。カルラは人見知りが激しくて」
「別に良いよ。これからよろしくね、カルラ」
「はい、よろしくお願いします……」
一通り挨拶が終わると、アンナが話し始めた。
「それからライトニング。この子達と一緒にユキネも同行するからよろしくね」
「ライトニング様。よろしくお願いします」
「うん。ユキネもよろしく」
ライムとユキネは視線を合わせて話した。
「報告は以上よ。さぁ入りましょうか」
「ちょ、ちょっとまって。ノア達は来てないの?」
そう聞くと、アンナは少し笑みを浮かべながら答えた。
「あー、あの二人にはこの町の警備を任せているので来ませんよ。さぁライトニング様も一緒に入りますよ」
くっ! やっぱりハメられてたか。
「まぁしょうがないから入るとするか」
僕達はそうして混浴風呂に入った。
お風呂に入ると、まずアンナに座るように言われた。
「お背中お流ししますね」
アンナは切羽詰まった表情で言ってきた。
「うっうん。お願いするよ」
たっ確かにちょっと怖いな。
今ならホノカの気持ちがわかる気がする。
すると、先にお風呂に入っていたラビッシュが露天風呂から駆け寄ってきた。
「あぁー、アンナ様ずるいー。私もやるー」
「ちょっと、あなたはどっか行ってなさいよ!」
「嫌だー」
「こらこら風呂で喧嘩するなよ。もう二人共で洗ってくれたら良いから」
そう言うと、二人共落ち着いて僕の背中を洗い始めた。
「はぁー、生き返る〜」
僕が露天風呂でくつろいでいるとアンナがやって来た。
そしてアンナは僕の近くに来た。
「お湯加減はいかがですか?」
「いい感じだよ」
「それは良かったです」
アンナはニコっと笑いながら更に密着してきた。
「あのーアンナさん。近くないですか?」
「いえ普通ですよ」
「へっへぇー……」
僕が困っていると、皆んなも露天風呂にやって来た。
「そんな事ありませんよね。アンナ様」
そう言って、ミズキがまたアンナを僕から離した。
「げっ、来なくても良かったのに」
すると、ラビッシュも近づいてきた。
「そうですよアンナ様。その距離感はボクの物です」
「違うわ、私の物よ」
アンナ達は僕の体を引っ張りあった。
「別に僕は、誰のものでもないんだけど……」
アンナ達に引っ張られている僕は、アンナ達に身を任せる他無かった。
「ちょっとぉ〜、シエル達。お願いだからこの人達をなんとかしてよ」
僕が少し遠くに居るシエル達に助けを求めると無視された。
まぁ組織の幹部にはあまり強く言えないか。
「それより、ライトニング。あまり私達のことを見ないわね。イヤらしい視線を向けられると思ってたのに」
「まぁね。流石に相手がアンナでもそこら辺の態度は変えるつもりないよ」
僕はカッコつけて、済ました顔でそう言った。
「もう、見てよ!」
アンナはしびれを切らし、僕に抱きつこうとしてきた。
「ちょっと待ったぁ!」
ホノカとミズキが僕に抱きつこうとしたアンナを抑えた。
「流石にそれは見過ごせませんよ、アンナ様」
「あんた達退きなさいよ! これは命令よ!」
「アンナ様の命令でもできません! というか抜け駆けは無しって言ったのはアンナ様でしょ! それにこんなことで命令するなんて、職権乱用ですよ!」
ミズキは、目一杯アンナに抱きついている。
「そうだぞ、アンナ様」
ホノカは、アンナを諭すように話した。
「ライトニング様。職権乱用って何なの?」
ラビッシュは、そう言いながら僕の腕を掴んできた。
「こら、ラビッシュ。理由をつけて近づかない!」
「うぎゃー、引っ張らないで〜」
僕はアンナ達が言い合っている隙にシエル達の方に避難した。
「ハハッ、賑やかで楽しいなぁアイ」
「そうですね。ライトニング様」
「カルラはくつろげてるか?」
「はっはいとても暖かいです……」
「なら良かった」
僕がシエル達と話している間もアンナ達は喧嘩をしていた。
それをしばらく見ていると、体を洗っていたユキネが露天風呂にやって来た。
「まぁ随分賑やかですねぇ」
ユキネは魔法で、辺りの温度を下げた。
「でも、お風呂でそんなにはしゃいだら危ないですよ」
ユキネに怒られたアンナ達は大人しくなった。
ユキネは僕の近くに入ってきて、話しかけてきた。
「ごめんなさいねぇライトニング様。皆んなあなたのことが好きでしょうがないのよ」
「いやー助かったよ。ユキネありがとうな」
「いえいえ」
「そういえば、皆んな混沌の大森林から離れて大丈夫なの?」
「はい。村には他にもしっかりした者が数名いるので、私達が数日休んでも問題ありません」
そっか、僕が知らないうちに色んな人がサンダーパラダイスに入ってるんだった。
「そうなんだね」
「はい。サンダーパラダイスが大きくなって大助かりしています。それもこれもアンナ様やノア様のお陰ですけどね」
アンナやノアにはなにかしてあげないとな。
「そろそろ出るか」
僕が出ようとすると、皆んなも出ようとしていた。
なんか、子供みたいだな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「はい。お風呂上がりは牛乳何でしょ」
お風呂から出た僕は、着替え終わってアンナから牛乳をもらい一気飲みした。
「ぷはぁー、やっぱり最高だな」
そういえば子供の頃。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あぁーお風呂入りたいなぁ。出来ればお風呂上がりの牛乳も飲みたいなぁ」
僕達は水浴びをした後、部屋でゆっくりしていた。
「お風呂ってなんですか?」
「水浴びの温かいバージョンのことだよ」
「なる程、『ライムの事をサポートしようノート』に書かないと」
そう言って、アンナはノートに何かを書き始めた。
「ん? アンナどうしたの?」
「何でもありません!」
アンナはそう言って、ノートを自分の体で隠した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
なんてことがあったなぁ。
それを覚えてるとか、どんだけ記憶力良いんだよ。
僕達はその後、僕の旅の話やサンダーパラダイスに新しく入った仲間たちのことなどで盛り上がった。
「それじゃあ僕は、ゼーレ達の所に戻るよ」
「はい」
「ユキネ達、これからよろしくね」
「はい。お任せ下さい」
「ライトニング様達は私達がお守りします」
「おう頼んだぜ、アイ」
僕はゼーレ達が待っているという休憩場に向かった。
「あっライムだ! 遅かったな」
良かったぁ。
従業員の人が上手く話してくれたんだな。
「ごめんごめん、気持ちよくてついゆっくりしちゃってたよ」
「そっか。まぁとにかく今日はここに泊まるんだし、一回部屋に行こうぜ。どんな部屋か楽しみなんだよ」
「そうだな」
部屋に荷物を置いた後で、ノアとツカサの所に行くか。
結局あいつらと会えてないし。




