22 真の勇者、その名も……
僕とディストラは、勇者パーティーに入るために最南端の村『イビリーズ村』に来ている。
僕はまず、泊まるところを探すために村を歩いていた。
暫く歩いていると、一人のお婆さんが話しかけてきた。
「あんた、もしかして獣人かい?」
「はい、そうです」
僕がそう答えると、それを聞いた村の人達が続々と周りに集まってきた。
「いやー、獣人なんて初めて見たよ」
「フードを被ってたから、着け耳かと思ってた」
確かにこんなところまで獣人が来るとは思わないもんな。
僕が村の人達と話していると、白髪ショートに黒い瞳をした男の子が近づいてきた。
「おいお前! この村に何をしに来たんだ!」
「僕は勇者パーティーに入るためにここまで来たんだよ」
僕がそう言うと、男の子は驚いた顔で一瞬止まっていたが、すぐに冷静になり落ち着いた声で話し続けた。
「そうだったのか、怒鳴ってごめん。詳しい話を聞きたいから僕の家に案内するよ」
状況が飲み込めず、固まっていた僕を見たお婆さんが説明をしてくれた。
「君、勇者パーティーに入りたいんだろ? じゃあ、あの子について行きなさい」
「どういうことですか?」
「そりゃあ、あの子が勇者だからよ。多分、何故勇者パーティーに入りたいのかをゆっくり聞きたいんだと思うわ」
あの男の子が勇者だったのか。
ライムはお婆さんの助言を受けて、男の子の後をついて行った。
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僕は勇者の男の子に付いて行き、村の外れにあるごく普通の一軒家に案内された。
「ここが僕の家だよ」
「なんで村から少し離れてるんですか?」
「あぁそれは、朝起きてすぐに森に修行に行くために大工のお父さんに作ってもらったんだよ」
へぇー、勇者の能力が有っても能力に頼ろうとせず、ちゃんとトレーニングしてるんだな。
「偉いな」
僕がそう言うと、勇者の男の子は少し照れくさそうにした。
「まぁ魔王を倒すためだからな。これぐらいやらないと勝てないだろうし」
それから少し話をした僕達は、男の子の家に上がった。
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中に入ると、男の子は僕を椅子に案内した後にキッチンに向かっていった。
「ふぅー寒かったぁ」
「ハハッ、特に猫の獣人には辛いだろうね」
いや、僕は前世からどんだけ鍛えても寒さだけは無理だったんだよなぁ。
「お茶で良いかな? それともやっぱり猫だからミルクかな?」
「おい、猫だからってミルクとか魚が好きとは限らないぞ」
僕は軽く怒った口調でそう言った。
まぁ、ミルクが嫌いって訳じゃないんだけどな。
「ハハッ、悪かったよ。それで、お茶で良いのか?」
「うん。ありがとう」
僕の返事を聞いた男の子は、キッチンの棚からお茶っ葉を出し、お茶を沸かした。
お茶ができるまで、僕は家を見渡していた。
「まぁ特に特別なものは無いな」
そうこうしてるうちに、お茶が出来上がり男の子がコップを持ってやって来た。
「熱いから気をつけて」
「ありがとうございます」
外が凍死しそうなぐらい寒かったので、僕は遠慮せずお茶をぐいっと飲んだ。
「アチッ!」
僕が咄嗟にお茶を机に置くと、男の子が呆れた表情で見てきた。
「だから言ったのに……」
僕が舌の痛みを和らげようとしていると、影の中から男の子には聞こえないぐらいの小さな声がした。
「その子の言うとおりですよ。ライトニング様は偶に抜けてる所がありますよね」
「あっ、ディストラって居たんだ」
「ずっと居ますよ!」
その後はゆっくりお茶を飲んだ。
「ふぅー温まったぁ」
「それは良かったです」
そう言うと、男の子は立ち上がって暖炉の方に向かった。
男の子は薪を暖炉に入れ、火を強めた。
「それではまず、貴方の名前を教えてもらいましょうか」
「あっ、はい。僕はライムです」
「ライムですか。それでは、ライムはなんで勇者パーティーに入りたいんですか?」
僕は、5歳のころに村を魔王軍に襲われたことと今までの旅の話を話せるところだけ話した。
話を聞いた男の子は少し悩んでいた。
「まさか混沌の大深林でそんな事が起こっていたとは、まぁここは最北端の村ですし、情報が回ってこなくても無理はないか……」
その間、僕はこれで断られたらどうしようと考えを巡らせて焦っていた。
少しすると、男の子が明るい表情になり口を開いた。
「わかりました。話を聞く限りちゃんと戦えそうですし、君を僕の旅のメンバーに決めます! 僕の名前はゼーレ。これからよろしくお願いしますね」
それを聞いたライムは安堵の表情を浮かべていた。
「はい、よろしくお願いします」
こうして、勇者パーティーに入ろうと決めてから11年と半年の歳月を経て、ようやく勇者パーティーに入ることが出来たのだった。
「そうだ。ゼーレ、多分ここから南に少し行くと万物を通さない結界があるはずなんだけど本当にあるの?」
僕は、ホノカから聞いた1000年前に勇者パーティーのエルフが自身の魂と引き換えに、魔界の北端とイビリーズの南端に作ったと言われる結界の有無を確かめるためにゼーレに質問した。
「あぁ、あの黄色い結界のことですね。有りますよ」
「そうなのか。じゃあちょっと見てくるわ」
僕は、ゼーレの家を飛び出して村の南端に向かって走った。
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僕が村の南端に着くと。大陸から少し先に黄色く半透明な結界が見えた。
「おぉーすっげぇ」
その結界は雲の更に上まで伸びていて、まるでこの先には空間がないかのようにすら思えた。
僕は我慢できず結界に向かって魔法を打った。
『電気之銃弾!』
僕は魔法を打った場所を見てみたが、結界にはヒビ1つ入っていなかった。
「まぁそりゃあそうだよね」
まぁ漆黒の雷で攻撃していたらどうなってたかは分からないけどね。
「てか、ディストラのツッコミがないないつもならこの辺りでツッコミが来るんだけどな」
僕は気になり、影の方を見てみるとディストラは寝ていた。
「本当にコイツは自由だな」
結界の存在を確認した僕は満足し、ゼーレの家に戻った。
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「ただいまぁー」
僕が家に帰るとゼーレは家に居なかった。
「どこに行ったんだ?」
少しすると、近くの雪山から大きな音がした。
僕は急いで音のした方向に向かった。
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数分後。
僕は雪山の頂上に着いた。
そこには、少し先にある雪山に向かって光魔法をぶっ放しているゼーレの姿があった。
「何だ。ゼーレかよ」
音の正体はゼーレが森で修行をしていた音だった。
「あっライムでしたか」
「いつもこの修行をしてるのか?」
「はい。ある程度強くなってからは、普通のトレーニングでは足りなくなったのでこうして雪山を遊び相手にしてるんですよ」
素晴らしい向上心だ。
その後は、僕もその修行に付き合い夜になるまで続けた。
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時刻は夜8時頃。
ゼーレの家に帰った僕達は、夜ご飯を食べていた。
「いやー、まさかライムがあんなに強いなんてな期待以上だよ」
「ありがとうございます」
まぁ流石に漆黒の雷は使ってないんだけどな。
食べ終わった僕達は、寝る準備をして僕はゼーレの家で寝させてもらうことになった。
次の日から、僕とゼーレは18歳になるまでの1年半の間、近くの森などで一緒に修行をした。




