第12話「情状不利の英雄譚」
石畳の角を曲がった瞬間、銀の笛の鋭い音が空気を裂いた。
次の瞬間、衛兵隊が雪崩のように路地裏へ突入してくる。
槍先は一糸乱れず前を向き、足並みはまるで一つの生き物のように揃っていた。
先頭に立つ隊長格の男は、無表情のまま状況を一瞥。
眉ひとつ動かさず、冷静に現場を見渡す。
「現場確保。
――被疑者は路上暴行、器物損壊、無許可演出の疑い。
市条例第十二条・第十九条、ならびに消安規程第七条に基づき拘束する」
その声は、まるで判決文の読み上げのように淡々としていた。
「こ、拘束って……!」私は思わず声を上げる。
隊長は巻物をすらりと開き、読み上げる。
「目撃多数。通行人の証言――“泣き叫ぶ少年が巨大な振り子となり、顔面に必殺頭突きをかました”」
勇者さんはその場でがくりと膝をつく。
「ぼ、僕は事故でぇぇ……! 空に吊られていただけで……!」
「凶器を所持してるな。加害意思の有無は量刑で考慮。まず拘束だ」
冷静すぎるその口調に、もはや反論の余地はない。
周囲でうめくチンピラたちに、衛兵たちは手際よく縄を掛けていく。
「こちらは常習の面子、既知の前歴あり。第十九条再犯により即日収監」
「ま、待ってくれ隊長! こいつ(勇者)がぶつかったんだよ!」
「あなた方は油撒き・刃物所持・集団威迫、フルコンボです」
その声は乾いていて、まるで事務処理のような冷たさだった。
隊長の視線が、すっと魔法使いさんへ移る。
「そちら、火薬類および光術の無許可使用――“魔導爆光類無許可使用罪”の疑い」
魔法使いさんは一歩、柔らかく前へ出る。
にこりと微笑みながら、懐から金の封蝋が押されたカードをするりと差し出す。
「誤解だよ、隊長殿。これは鎮静用幻光。
“逃走方向の誘導と錯乱防止”に使っただけさ。――ほら、国家魔導院・巡察証」
衛兵たちは一斉に直立。
「確認、正規証明。巡察業務は市条例第三十七条の特権対象……不問」
「ありがとう。ついでに被害抑制の報告書は後ほど提出するよ。様式A‐二でよかったかな?」
「A‐二、別紙でB‐五。三通複写願う」
そのやり取りは、もはや役所の窓口そのものだった。
「ちょ、ちょっと! 今の会話、役所の窓口じゃないですよね!?」
私は思わずツッコミを入れるが、隊長の視線が私に向き慌てて口を閉じる。
「未成年、見習い札“初心者ちゃん”。
保護者欄にギルド支部長の署名。
――小規模騒擾の初犯は保護観察が原則。拘束は不要だ」
「よ、よかった……!」
「ただし反省文は千字以上・楷書・三部。提出期限は明朝九時までだ」
「書式の沼ぁぁぁ!!」
そして、隊長の目がハト忍者に向く。
「それと――そこの鳥」
「クルッポー」
「動物は収監対象外。加えて“変化中の一時的動物形態”は証拠能力なし。帰ってよし」
ハトは胸を張って「クルルッ」と鳴いた。(※人としての責任はどこへ)
勇者さんは藁にもすがる思いで隊長ににじり寄る。
「お、お願いです! 僕、勇者なんです……! 王都から、えっと……」
隊長は無表情のまま、もう一枚巻物を開く。
「称号割引の廃止(昨年改正)。“自称勇者”は刑事手続上の加点要素にならず。
むしろ“行動判断力の著しい欠如の疑い”として情状不利だぞ」
「情状不利ぃぃ!?」
魔法使いさんは慈悲深い笑顔で言う。
「ふふ、勇者くん。一度檻に入って己が真の勇者であるのか問い直してごらん」
「やめてぇぇぇ!! 致死性の言葉あぁぁぁ!!」
――こうして、チンピラ一同+勇者さんは、きっちりとした手続きのもとで連行されていった。
残されたのは、私と魔法使いさん、そしてハト。
路地裏には、騒動の余韻と、書式の重みだけが静かに漂っていた。




