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仕切り直しを余儀なくされ、レッテリオは将官を招集して意見を求めた。
しかし、現状を打破する策など誰も持ち合わせず、口をつぐむ諸将にレッテリオが苛々と当り散らすだけであった。
そして、更にレッテリオを苛立たせる事態が起きる。
閉じ込めたはずのエルルーンが、戦場に声を響かせたのである。慌てて確認に行かせたが、部屋から一歩も出ていなかった。
「戦いをやめて下さい。私はどちらの勝利も敗北も望みません」
戦場に何度も届く声に、エルルーンの能力は距離を問わないと分かっただけであった。
そして、この声は士気を下げるだけでなく、どちらの味方でもないと公言していて、レッテリオの正義を打ち消すものであった。
もはや我慢のならないレッテリオは、エルルーンの声を振り払うように猛攻撃を開始したのだ。
「ふむ、強引な力攻めも、停戦を求める声も、領主がレッテリオの手綱を離れたのが原因か。こうして聞けば、厄介極まりない女だな」
「やはり、そのように考えますか」
ピノの顔は暗い。直家の言葉によって、エルルーンの立場の儚さを再認識したのである。
「領主も命懸けでやっておろう。レッテリオも生かすか殺すか迷っているだろう。利が大きいのか、害が大きいのかを」
ピノは縋るような目を向けて、直家に問い掛けた。
「ウキタさまが、エルルーンさまを救出するというのは如何でしょう? 三将軍も味方になるのではありませんか」
直家は憐れみの色を浮かべて薄く笑うと、いつものように煎茶を勧めた。
「お前は捉われて目が曇っておる。女領主がここで助けを求める声をあげれば、こぞって敵として迫るだろう」
うなだれるピノに同情を寄せながらも、直家はエルルーンへの対処を決めていた。
当初は利用することも考えていたが、一連の騒動を聞いて処断すると決めたのである。
「しかし、ウキタさまは三将軍の味方として介入されるのでしょう? それでしたら、早めになさらねば猛攻をいつまで防げるか疑問です」
「お前は人がいいな。商人としても信用があるだろう」
はぐらかす様子にピノは顔を歪めたが、これまでの付き合いで、これ以上は直家が何も語らぬことを知っていた。
練武場に足を運んだ直家は、槍を打ち合って励む兵士の様子に満足していた。
調練は充分であるし、他領にまで募兵して百六十名となった。今後、兵数は時間をかけても微増するのみだろう。
思案のしどころであった。
勝敗が決したところへ攻撃すれば、最も痛手を与えられる。だが、侵略者とされたなら、敗残兵がどちらへ味方する不明である。
一方で攻防の最中に介入すれば、三将軍へ味方するという大義で動きやすい。
「明朝、夜明け前に出陣する。先陣はラウレンツ、中央にギルベルト、後備えは私が率いる。十人長は定められた五十人長に従え」
整然と並ぶ兵士たちは、緊張と高揚をみせながら厳しく口許を結ぶ。
「我が軍は9領領主エルルーンさまの求めに応じ、争う者に停戦を強要する」
意外な出兵理由に様々な表情を浮かべるが、調練の成果もあって、しわぶきひとつ上がらない。
「9領7の村近くの食糧庫を目指して進軍する。各自で武具を整え、荷駄も係の者だけに任せず備えよ」
兵士たちが思い思いに散って行くのを見届けると、直家は改めて手の者を集め、各所へ駆けさせ伝令させた。
エルルーンの求めに応じる出兵だと、高らかに吹聴させたのである。
思案の末に直家が選んだのは、ふたつに割れる勢力の片方に痛撃を与えることであった。
そして、侵略を警戒されぬよう速やかに退き、再度、攻略の機を待つのである。
3の砦を迂回するように進軍し、薄明を迎える頃に領境にさしかかった。
「ウキタさま、行軍中にお尋ねしてよろしいでしょうか?」
「声を禁ずるときは軍令を出す。申してみよ」
直家の隣で馬に揺られるのは、ジギスという男であった。
黒髪で平凡な容姿ながら、領軍との戦いで十人長の首を三つ取って十人長となった。
だが、ローマンたちは手合わせして、大した力量でないと軽く見られている男である。
しかし直家は、武辺者でもないのに妙に勘がよく、決まって手柄をあげるジギスのような者がいることを知っている。
「宰補のレッテリオと籠城する三将軍、我らはどちらと戦うのでしょうか? 兵たちも噂しております」
「ふむ……」
直家は穏やかに微笑みながら、馬上で心地よく揺られている。ジギスが口を開くのを待っていると、独り言のように語り始めた。
「十中八九は、レッテリオが相手となろう。三将軍を相手にするのは、彼らが出撃してレッテリオを突き崩していた場合となる」
「では、我らの呼び掛けに応じて停戦したら、どうするのです? 攻撃すれば非難されると思いますが?」
直家は首を曲げ、ジギスをしげしげと眺めて小さく笑い声を立てた。
「ピノだけではないらしい。どちらにも停戦など呼び掛けたりせぬ。矢を射られたゆえ応戦したとでも嘯けばよい」
「ははあ、なるほど」
直家はジギスの頷く姿に、人がよいにも程があると呆れた苦笑を漏らしている。
「それでは、レッテリオが陣を退いていたら?」
「その場合が十中の一二となろう。退くレッテリオに三将軍が追撃する形だ。だが、追撃を受けず居城まで退いたなら、我らも軍を返す」
「どちらとも戦わないで帰還するのですか?」
諭すように優しく笑って頷くと、ジギスの背にある旗印を眺める。
「考えるのは結構だが、献策は期待しておらぬ。槍武者として期待しておるから、そのつもりで槍働を励め」




