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村では馬車から掠奪品を降ろし、兵士たちが賑やかに笑みをみせて沸き立っていた。
弾正は建築中の魔物たちの兵舎と並行して、厩舎の増設をエルマーたちと相談していた。
相談を終えた弾正が、豊の姿を求めて視線を巡らせれば、定位置となった庭石の上に腰掛け、浮かない顔で兵士が作業するのを眺めていた。
「あるじ、厩舎も建て直すぞ。領内から更に大工を募ることをエルマーと決めてきた」
軽く相槌する豊は、ぎこちない笑みで憂色を隠している。
葛藤をうかがい知る弾正は、おほんと咳払いして豊の背中を叩いた。
「じゃから、ついて来るなと言うたのに。それにな、分かっておろうが、あれは兵ぞ」
うつむいたまま首を縦にふって、豊は肯定の意志を示す。
まともに抵抗すら出来ず、狼狽える村人たちを次々と手にかけた。村人たちは、農夫や商人、あるいは猟師や工人であったろう。
だが、戦時となれば、彼ら村人たちが徴兵されて兵士となるのである。
もっとも、弾正からすれば敵勢力を削ぐ意味もあり、ただの農夫であろうと殺すことに何らためらいは無い。当初は女もさらう予定だったのだ。
「そんなことより、敵は南蛮鎧を纏っておる。引きつけて鉄砲で討ち払ったが、あの突撃をまともに受ければ支えられんじゃろう」
顔を上げた豊に、追撃部隊との戦いを話す。
ランスを構えた鉄騎兵の集団が、統率された動きで密集突撃するのが豊の脳裏に浮かぶ。
騎兵のランスチャージによる槍先は3トンにもなるという凄まじさだ。
そして、おそらくは正規兵だろう。
「そんな兵が数百もいるなら、7領の攻略は相当に厄介だね。それに加えてバリスタもある」
先程とは違う憂慮をみせる豊に、弾正は苦笑いして肩を竦めると気軽な声をあげる。
「なあに、さほど深刻なものではない。騎馬武者を防ぐ手立てなどいくらでもある。無策でも、牛頭どもなら大楯ひとつで事足りよう。それに鎧を貫く鉄砲を防げまい。軍馬まで慣れぬ音に驚いて暴れておったわ」
「確かにそうだ。バリスタを含めて、悲観的にならずに考えてみるよ。そうは言っても、知識があっても応用が効かないんだけど」
少しは心を軽くした様子に、エルマーとのやり取りを続けて報告する。
「エルマーもじゃが、他の村長からも米を育てたいというので玄米を渡してある。ある程度は指南するが、上手く育つかはわからん」
この地で米が採れれば、一気に領は富むだろうと意気込んでいた弾正だが、豊は頬杖をつきながら考え込んでいる。
「はて、何ぞ問題があるのか?」
いくつかある、と前置きして豊は説明を始めた。
弾正が指南するのは、陸稲ではなく、水田での水稲栽培である。
ここで栽培される小麦やライ麦と違って、水稲は非常に手がかかる。
牧畜と農業を基盤とする村人たちの生活も、どう変化するのか分からない。
さらには平原地まで開拓を進めれば、過放牧による砂漠化まで考えられる。
「ははあ、日ノ本とは違うということじゃな。いかさま家畜の数も夥しい。その辺も含めて考えながら進めてみるわい」
「とりあえず牧草地に鍬を入れないようにして、あとは村の人たちと試行錯誤しながらだね」
課題は多いにあるが、米が採れればそれ以上に利点も多いにある。
麦とは比較にならない収穫量によって、安定した食料供給が出来るようになり、今より多くの人口を養えるだろう。
領内の湿地や荒地を検分してのち、各村で米作を実施することを決めると、弾正は再度7領へと考えを向けた。
「敵が戸惑っとるうちに、次々と村を襲おうと思っておる。あるじが気鬱にならんでも、わしらが姿を見せれば蜘蛛の子を散らして逃げるじゃろう」
「他の村にも報せが届いただろうから、きっとそうなるだろうね。オレも何か対策される前に動くのは賛成だ」
頷いた弾正が背を向けると、あっと小さく声をあげて呼びとめた。
「そうそう。次は牛頭鬼の人たちも連れて行ってあげないと。彼ら、馬と並んで走れるくらい速いらしいよ」
「牛頭がのう。よかろう、次は手勢に加えよう」
忙しなく動いていた筆を止め、部下の呼びかけにマルセルノは顔を上げた。
「司令官が? こっちは忙しいというのに、あの暇人め。仕方ない、入ってもらえ」
7領の司令官であるパスクワルは、いつも陽気な顔をあちこちに覗かせてぶらついているのだ。
どうも今日は自分を雑談相手に選んだようだな、そう考えると、諦めに似た表情でマルセルノは仕事の遅れを覚悟した。
だが、執務室に現れたパスクワルは重い空気を纏い、眉根を寄せて弱々しい笑みを浮かべている。
「すまんが挨拶は無しだ。やられたわ。サカリアスのとこが襲撃された」
「サカリアスの管轄というと…、4の村が襲われたのか?」
剃り上げた頭をペタペタと叩いて、苦しげにパスクワルは頷いた。
マルセルノの脳裏は驚きよりも疑問が支配し、素早く考えを巡らす。
領外から4の村への街道は、交易品を狙って最も賊徒が暗躍する地域である。しかし、賊徒が通行する商人の積荷ではなく村を襲ったなら、大規模な討伐隊が組まれ、領内をしらみ潰しに捜索されて壊滅されるだけだろう。そう考えが至ると、ハッとして緊張の顔を向けた。
「まさか8領か! いや、それにしても8領が何故」
「さあな、7領に手出しする理由は分からん。だが、目撃した者から聞く限り、襲撃したのは8領の者で間違いないようだ」
思考を続けるマルセルノを遮るように、パスクワルは重い声を響かせる。
「これからカミラさまに謁見する。被害状況は歩きながら説明するから、領主代行であるお前も一緒に来てくれ。ともかく、急ぎ8領への対応を決めねばならんだろう」




