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与えられた家臣は梟雄でした  作者: 梅を愛でる人
富国強兵
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 兵力の不足に、敵領主の能力のどちらも打開策がないまま時間だけが過ぎてゆく。


「そうだな。敵に調略が効きそうな相手はいそうか? 金や女で転びそうな奴だ」


 俯いて押し黙る部下たちの姿に、察した直家はため息を吐きたくなるのを堪えた。

 聞いてみれば、調略を施すどころか、敵将の名前すら知らないという。


「それならば和平の交渉などで、使者の行き来くらいはあろう? 」


 ラウレンツが申し訳なさそうに首を横に振る。


「それが、奴らが略奪に来るのを防ぐばかりで、迎撃するばかりでしたので」


「そうか、つまりは驚いたことに何も知らぬのだな。ふうむ、お前たちを責めても仕方あるまい。あとは探らせている者どもに期待しよう。領を跨ぐ商人も私のもとに来させてくれ」


 浮かない顔で考えを巡らせる直家に、思い出したようにアロイスが口を開いた。


「あの、もしかしたら、9領には俺たちの元上官がいるも知れません」


「ふむ?」


「第3砦が落とされた時に、捕虜になったとか噂がありました。尤も、領軍が無くなったので、どういう扱いを受けているか分かりませんが」


「お前たちの上官か、どういう男だ」


 彼らの話したのは、第3砦の守備隊長だったギルベルトという男のことであった。

 砦を放棄するさいに、敵軍の囲みを突破した後も、退路を確保する為に敵中で戦い続けた。

 砦の陥落後、いくら待っても姿を見せず、敵に討たれたとか捕虜になったとか噂が流れたのだった。


「他の上官どもとは違って、隊長は本当に立派な人でした。砦の兵はみんな慕ってましたよ」


 しみじみとディルクが呟いたが、直家は生きている可能性は薄いと思っている。

 捕虜になっていたとしても、身代金の要求や交渉すらなく、領軍が消えたとなっては捕虜としての価値もないのだ。


「領主に使者でも出したいが、死体が送り返されるもしれんな。9領でも商いをする者に、使いを頼んでみるか」


 兵力も情報も不足とあっては、如何に直家であっても、手詰まりといった様子で顔色が暗い。

 今後の方針として決まったのは、第3砦の放置、偵察を密にして、9領の動きに備えること。

 そして、募兵の継続と、9領に関しての情報収集に努めることであった。




「ウキタさま、お目にかかれて光栄です。私どもポルフィリオ商会にご用がおありだとか」


「わざわざすまぬな。これでも、来客用の部屋らしくてな我慢してくれ」


 呼びつけられた商人は、愛想のいい笑顔を向けて挨拶したが、その目は油断なく直家や部屋の様子を観察していた。直家が咎めるような視線で射ると、


「これは申し訳ごさいません。高官の方はお屋敷へとお呼びになるので、兵舎の中が珍しくて、つい不躾にも眺めてしまいました」


 早くから待っていた様子で、テーブルには兵士が紅茶を置く前から、地図が広げてあった。

 直家はペンとインクを手にして、商人の向かいに座り、9領の地図を軽く指で叩いた。


「先ずはこれを手伝ってくれ。知っている限りの町や村のことを教えてくれ。この地図に不足があれば、それも補って欲しい」


 商人が目を細め、仔細に地図を眺めてゆく。

 既に表記されてる町や村には、数字のような物が書き連ねてあり、他にも地図にない小さな村まで書き加えられていた。


「これは、随分と詳しく調べておられる」


 商人は目を見張り、それぞれの村の規模などを話し、小さな河川などを思い出す限りに伝えていった。


「大してお役に立てませんでしたな。9領について、かなり研究されておるのですな」


 感心したように大袈裟に頷き、ゆったりした動作で紅茶を手にしたが、その目は直家の言動を漏らさぬように注視していた。


「ふむ。頻繁に略奪に来るらしいのでな、出来る限り備えておるところだ」


 直家は地図の上でペンを走らせ、視線を落としたまま尋ねる。


「聞けば、大きな商会らしいが、9領の領主と面識はあるか?」


「何度かはございます。そうは言ってもご挨拶程度でございます」


 直家はペンをティーカップに持ち替え、柔らかな笑みで商人を見つめた。


「それは重畳、叶うなら贈り物をしたい」


「ウキタさまが、エルルーンさまにですか?」


 少し驚いたような商人に軽く頷くと、直家は控える兵士に声を掛けてから、再び商人に向き直った。


「ついでに8領の兵を捕虜としているか尋ねて、いるならば解放する条件も聞いて欲しい。さて、贈り物だが、好みが分かればよいのだが」


「正直、驚きました。てっきり商いの話で呼ばれたとばかり。そうそう、贈り物でしたな」


 商人がエルルーンについて考えていると、先ほどの兵と連れ立って、三人の兵が長い木箱を抱えて来た。直家が箱を開け、目で促された商人が覗いてみれば、奇妙な品々が収まっていた。

 茶器や壺、蒔絵や漆の工芸品などで、商人は目を奪われた様子で釘付けとなっている。


「見た事のない物ばかりですが、価値があることは一目で分かります。どの品であっても、エルルーンさまも満足されるかと」


「然れば選ぶのはお前に任せよう。上手く使いが果たせたならば、お前にも何か授けよう。金がよければ、それでもよい」


 無雑作に箱に転がるお宝の数々に、上がる口角を堪え、商人は誠実さを貼り付けた顔で答える。


「分かりました。お話することは出来ると思います。贈り物を受け取って貰えるのか、囚われ人がいるのかは、またご報告させていただきます」


 直家はとりあえずの足掛かりに安堵して、募兵に応じた者たちの面談へと部屋を後にした。

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