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与えられた家臣は梟雄でした  作者: 梅を愛でる人
富国強兵
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 弾正は村々を南下しながら募兵していた。

 徐々に緑の大地から、少しずつ茶色が増え始め、9の村に辿り着く頃には赤茶けた土と岩の大地が広がっていた。


「ここは鉱石採掘が盛んで、鍛治の村でもあります。高炉の煙が見えるでしょう。他領からの商人も頻繁に訪れます」


 部下の指差す先には、大きな集落から数条の煙が立ちのぼり、風に流れては消えていた。弾正は軽く頷いて、村へと馬を進める。

 村の入り口で門衛に名乗ると、すぐに案内の者が現れ、村長の家へと送ってくれた。

 弾正が仰ぎ見れば、其処は石造りで二階建てであり、村内でも一際目立つ建物だった。


「随分と違うもんじゃな」


 応接間をぐるりと眺めれば、細緻な彫刻のテーブル、壁には巨大な風景画があり、高価そうな調度品がサイドボードに並んでいた。

 出された紅茶のティーカップも、白磁に鮮やかな花が描かれて金で縁取りされている。


「これはお待たせしました、ダンジョーさま。以前にお目通りしました、村長のフォルクハルトでございます」


「うむ、久しいな。二日ほど此処に滞在するつもりなんでな。早速だが、宿を世話してもらいたいのだ」


「それでしたら、拙宅へお泊まり下さい。ここは大事なお客さまにお泊り頂けるようになっております。この村には大手の商会なども訪れますので」


 部屋を見回して数々の調度品に視線を移し、弾正は鷹揚に頷いた。

 

「そのようだな。それで、わしの要件だが領内を回って兵を集めとる。ここは大きな村だ。名を上げたい者もいるはずだ」


 フォルクハルトは笑みを保ったまま小首を捻り、村の説明をはじめた。

 9の村は、採掘と鍛治が有名な村である。

 多くの採掘工や、鍛治職人が集い、生産された武具や農具を求めて他領からも商人が訪れる。

 その他にも、採掘坑には魔物が出る為、いくつかの討伐隊を雇っていると言う。


「この討伐隊の者たちは腕は確かですが、中にはならず者のような者もおります。素性は問わぬ為に怪しき者が多く、領主さまのお役に立つとは思えませんが」


 弾正は大きく膝を叩き、薄笑いを浮かべる。


「構わぬよ。赤松浪人の末の悪党どもや、河原者どもに比べれば、何ということはない。その者たちに会えるよう手筈してくれ」


「承知致しました。採掘の終わる夕刻か、明朝の朝にでも、村の広場に集めておきます」






 石壁が朝日の色に染まり、僅かに村の樹々があるだけの広場には、雑多に人が集まっている。

 だらしなく座り込む者や、大げさな手ぶりで声高に笑い合う姿が混在していた。

 それら五十人ほどが声を落とし、近付く数人の男に胡乱な目を向ける。


「山名蔵人別当が家臣、松永弾正である。お前らを集めたのは、仕官する者がおらぬか尋ねるためだ。どうだ、名を上げようとする者はおらぬか」


 弾正は槍を手に、仁王立ちで声をあげた。

 居並ぶのは斜に構えて睨みつける者や、担いだ剣を肩で弾ませ、嘲るような笑みを浮かべる者ばかりである。

 弾正は、それらの者より悪辣な笑みを浮かべ、あご髭を撫で回した。


「領軍におった者や、罪を犯して逃げている者でも構わん。物の役に立つなら、我が軍で五十人長にもなれるであろう」


 笑いが消えて、ざわめきが起こった。

 領軍では五十人長といえば世襲の官職であり、軍人そのものが特権階級なのである。自分たちには無縁だと、せせら笑っていた様子が一変した。


「一兵卒でも手柄をあげれば褒美がある。給金は銀貨5枚、十人長になれば倍だ。五十人長は銀貨20枚が支給される。自分は4の村の牧夫であったが、今は十人長をしている」


 弾正の横に控える兵が、品定めするように眺めながら声をあげた。


「まあ、そういうことじゃ。二日ほど村におるから、その気があれば訪ねて来い。長の所に泊まっとる」


 弾正は手をひらひらと払って解散させると、背を向けて足早に去って行った。

 次いで足を運んだのは鍛治工房である。

 紹介されたその建物は、村長宅よりもひと回り大きく、歴史を感じさせる風合いがあった。

 工房の鍛治頭と向かい合う部屋は、殺風景なほど何もなく、鉄の匂いと金属を叩く音が響いている。

 鍛治頭は赤毛を後ろで束ね、たっぷりと長い髭を蓄えている。やや小柄な横幅のあるがっしりした男であった。


「領主さまは、何やら変わった武器や防具を使われるとか。うちの工房でお役に立てればよいのじゃが」


「そうじゃな、武器も鎧も間に合っとる。欲しいのは人が隠れるほどの大楯じゃ。鉄の物がよいが運べぬのは困るゆえ、木製で鉄を貼ってもよい」


 鍛治頭は目を丸くして固まった。その様子に眉をひそめて部下へ振り返れば、同じように唖然とした顔で弾正を見つめている。


「おい、どうしたんじゃ。そんなに難しいのか」


 ハッと我に返った様子で、鍛治頭はようやく口を開いた。


「ああ、すまないな。あんたが、わしらの言葉を使ったから驚いたんじゃ。それだけ喋れる人間は珍しい」


「何をいうとる? お前らの言葉じゃと?」


「わしら岩妖精の言葉じゃ、もっともドワーフと言った方が分かりやすいか。いや、わしらの種族というより古の言葉と言うべきか」


 自分たちが人間とは違う種族であること、元々のこの世界の言葉を、弾正が流暢に喋っていたこと。

 鍛治頭からの説明に、混乱する弾正が理解するまで暫くの時間を要することになった。

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