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与えられた家臣は梟雄でした  作者: 梅を愛でる人
領内平定
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20

 降伏した兵士たちはひと固まりに座らされ、ローマンとテオベルトが剣を持って見張っている。

 中には矢が刺さったままの者もいた。

 それらを呼びつけると、直家は体を足で踏みつけ、返しのついた矢を力任せに引き抜いていく。

 激痛による叫び声が上がるたびに、降伏した兵士たちの顔から血の気が失せていった。


「作戦通りにいったようですね」


 喜びの声を上げて合流したラウレンツも、叫び声から目を背け顔を引きつらせている。


「うむ。ラウレンツたちも良くやってくれた」

 

 直家は機嫌よく目を細めると、足元で呻いてる兵士たちに顔を向けた。


「お前たちは生きていたら好きにしてよい。痛みに耐えられぬ者は申し出よ、私が介錯してやろう」


 呻き声を背に受けて、降伏した兵士たちの前に立った。


「さて、お前たちは身の処し方を決めねばならぬ。領主に返り忠する者は向こうへ、虜囚となってもダミアーノへ忠を為す者はそのまま、兵を辞め帰郷したい者は申し出よ」


 兵を辞めるという者が四名。

 豊へと忠誠を誓うという者が三名。

 ダミアーノへ味方する者が九名。


(余程にダミアーノが怖いと見えるな。それとも、寡兵の殿が侮りを受けているのか)


「ウキタさん!」


 鋭い声を上げたローマンの目線を辿れば、カルロと二人の兵士が映った。

 変事を感じて足を運んだが、直家たちの様子を見て後ずさるような格好だった。

 すどっと喉に衝撃を受け、カルロは大きく目を見開いた。僅かに喉を押さえて蠢いたが、断末魔すら上げられず前のめりに崩れてゆく。

 カルロが最後に見たのは、半弓を手に微笑んでいる直家の佇む姿であった。


「お前たちは武器を投げ、向こうで座っている者たちに混じれ」


 一人が恐怖による喚き声をあげて逃げ出した。

 だが、すぐに転がるように倒れ、その背には矢が立っている。

 それを見るや、残る男は青い顔で剣を放り投げ、直家を避けるように集団の一人となった。

 カルロの傍にしゃがみ込んだ直家は、矢を引き抜くとローマンを呼んだ。


「この男を起こして支えていてくれるか。もう少し横から押さえよ、うむ、それで良い」


 直家は太刀をゆっくり構えると、座らされた格好のカルロと向き合う。

 ぶんっと風切り音がしてカルロの首が落ちた。


「さすがは国行の太刀、見事なものだ」


 直家は骨を触って切断面を確かめている。

 その惨烈たる姿に、ローマンが内心で冷や汗を流していると、急に声をかけられ体がびくりと跳ねた。


「ローマン、この首を何かで包んでおいてくれ。とうに逃げていると思ったが、予想以上の迂闊者であったな。殿もお喜びになろう」


 背に矢を受けて呻いている男が視界に入ると、足早に向いとどめを刺す。さっと踵を返し、血糊の着いた太刀をぶら下げながら上機嫌である。


「返り忠した者に剣を持たせてやれ」


 覚束ない様子で剣を手にした三人は、直家の鋭い視線にぶつかった。

 いつの間にか笑みは消え、頰は厳しく引き締められている。


「三人に申し聞かす。私は働きを見せた者には必ず報いる。艱難に逢おうとも決して見捨てぬ」


 この直家の言葉は事実で、謀略や暗殺で働いた者すら使い捨てず正しく遇している。

 更にはこんな話もある。

 ある時、宇喜多家では毛利と手を切り、織田と手を組むことになった。

 しかし、家老である戸川秀安の息子が毛利で人質となっていたのである。

 戸川は「お家の大事なれば、我が息子はお見捨て下さい」と進言する。

 だが、直家は「見殺しにするは忍ない」と策を練り、毛利の外交役である僧恵瓊を騙し呼ぶと、そのまま監禁し、無理やりに人質交換させたのである。

 当時の大名は簡単に自分の子供を見殺しにする。

 ましてや、家臣の息子など見向きもしない。

 この人質交換の逸話は、家臣を思う直家の異色さが鮮明に際立っている。


「上辺の忠義は要らぬ。実を見せよ。その剣でこの座る九人を片づけよ」


 三人は唖然として九人を見つめている。

 驚いたのは座らされた九人も同じで、狼狽して次々と非難の声を上げた。


「捕虜にする約束だろう! 話が違うぞ!」


「そのようなこと誰も言っておらぬ」


 血に濡れた太刀を向け、死の恐怖に叫ぶ九人に冷笑を浴びせる。

 ちらりと直家が目配せすると、ラウレンツやローマンたちが一層厳しく包囲した。

 つい先程までは語らっていた九人を前に、逡巡する三人は蒼白となり持つ剣はぶるぶると激しく震えている。


「出来ぬらばよい」


 一瞥した直家が身を捻るように踏み込むと、勢いののった太刀が座る男の首をずるりと落とした。

 手元で震える剣を涙まじりに見ていた男が、何かに押されたように喚いて飛び掛かると、残った二人も泣き叫びながら続いていく。

 ラウレンツもたちも加わって、後には物言わぬ九人と血の海が広がっていた。


「見知った者となれば、仕留めるのはなかなかに難しいことよ。心を乱しながらも見事であったぞ」


 悪夢のような惨状に皆が放心するなか、ただ直家だけが艶然たる笑みを浮かべていた。

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