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降伏した兵士たちはひと固まりに座らされ、ローマンとテオベルトが剣を持って見張っている。
中には矢が刺さったままの者もいた。
それらを呼びつけると、直家は体を足で踏みつけ、返しのついた矢を力任せに引き抜いていく。
激痛による叫び声が上がるたびに、降伏した兵士たちの顔から血の気が失せていった。
「作戦通りにいったようですね」
喜びの声を上げて合流したラウレンツも、叫び声から目を背け顔を引きつらせている。
「うむ。ラウレンツたちも良くやってくれた」
直家は機嫌よく目を細めると、足元で呻いてる兵士たちに顔を向けた。
「お前たちは生きていたら好きにしてよい。痛みに耐えられぬ者は申し出よ、私が介錯してやろう」
呻き声を背に受けて、降伏した兵士たちの前に立った。
「さて、お前たちは身の処し方を決めねばならぬ。領主に返り忠する者は向こうへ、虜囚となってもダミアーノへ忠を為す者はそのまま、兵を辞め帰郷したい者は申し出よ」
兵を辞めるという者が四名。
豊へと忠誠を誓うという者が三名。
ダミアーノへ味方する者が九名。
(余程にダミアーノが怖いと見えるな。それとも、寡兵の殿が侮りを受けているのか)
「ウキタさん!」
鋭い声を上げたローマンの目線を辿れば、カルロと二人の兵士が映った。
変事を感じて足を運んだが、直家たちの様子を見て後ずさるような格好だった。
すどっと喉に衝撃を受け、カルロは大きく目を見開いた。僅かに喉を押さえて蠢いたが、断末魔すら上げられず前のめりに崩れてゆく。
カルロが最後に見たのは、半弓を手に微笑んでいる直家の佇む姿であった。
「お前たちは武器を投げ、向こうで座っている者たちに混じれ」
一人が恐怖による喚き声をあげて逃げ出した。
だが、すぐに転がるように倒れ、その背には矢が立っている。
それを見るや、残る男は青い顔で剣を放り投げ、直家を避けるように集団の一人となった。
カルロの傍にしゃがみ込んだ直家は、矢を引き抜くとローマンを呼んだ。
「この男を起こして支えていてくれるか。もう少し横から押さえよ、うむ、それで良い」
直家は太刀をゆっくり構えると、座らされた格好のカルロと向き合う。
ぶんっと風切り音がしてカルロの首が落ちた。
「さすがは国行の太刀、見事なものだ」
直家は骨を触って切断面を確かめている。
その惨烈たる姿に、ローマンが内心で冷や汗を流していると、急に声をかけられ体がびくりと跳ねた。
「ローマン、この首を何かで包んでおいてくれ。とうに逃げていると思ったが、予想以上の迂闊者であったな。殿もお喜びになろう」
背に矢を受けて呻いている男が視界に入ると、足早に向いとどめを刺す。さっと踵を返し、血糊の着いた太刀をぶら下げながら上機嫌である。
「返り忠した者に剣を持たせてやれ」
覚束ない様子で剣を手にした三人は、直家の鋭い視線にぶつかった。
いつの間にか笑みは消え、頰は厳しく引き締められている。
「三人に申し聞かす。私は働きを見せた者には必ず報いる。艱難に逢おうとも決して見捨てぬ」
この直家の言葉は事実で、謀略や暗殺で働いた者すら使い捨てず正しく遇している。
更にはこんな話もある。
ある時、宇喜多家では毛利と手を切り、織田と手を組むことになった。
しかし、家老である戸川秀安の息子が毛利で人質となっていたのである。
戸川は「お家の大事なれば、我が息子はお見捨て下さい」と進言する。
だが、直家は「見殺しにするは忍ない」と策を練り、毛利の外交役である僧恵瓊を騙し呼ぶと、そのまま監禁し、無理やりに人質交換させたのである。
当時の大名は簡単に自分の子供を見殺しにする。
ましてや、家臣の息子など見向きもしない。
この人質交換の逸話は、家臣を思う直家の異色さが鮮明に際立っている。
「上辺の忠義は要らぬ。実を見せよ。その剣でこの座る九人を片づけよ」
三人は唖然として九人を見つめている。
驚いたのは座らされた九人も同じで、狼狽して次々と非難の声を上げた。
「捕虜にする約束だろう! 話が違うぞ!」
「そのようなこと誰も言っておらぬ」
血に濡れた太刀を向け、死の恐怖に叫ぶ九人に冷笑を浴びせる。
ちらりと直家が目配せすると、ラウレンツやローマンたちが一層厳しく包囲した。
つい先程までは語らっていた九人を前に、逡巡する三人は蒼白となり持つ剣はぶるぶると激しく震えている。
「出来ぬらばよい」
一瞥した直家が身を捻るように踏み込むと、勢いののった太刀が座る男の首をずるりと落とした。
手元で震える剣を涙まじりに見ていた男が、何かに押されたように喚いて飛び掛かると、残った二人も泣き叫びながら続いていく。
ラウレンツもたちも加わって、後には物言わぬ九人と血の海が広がっていた。
「見知った者となれば、仕留めるのはなかなかに難しいことよ。心を乱しながらも見事であったぞ」
悪夢のような惨状に皆が放心するなか、ただ直家だけが艶然たる笑みを浮かべていた。




