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4話 結城の接待

 今朝。朝飯を作る前に顔を洗おうと洗面所に行くと、


「あっ」


 ユキちゃんと鉢合わせた。

 普通なら挨拶をするとこだが、状況が不味かった。

 ――ユキちゃんは裸だった。

 正確に言うなら、ショーツは身につけているが、ブラジャーは身につけていなかった。

 そんなユキちゃんの姿を見て、最初に思ったのがユキちゃんの肌は白いなーという、煩悩。

 そして、飛んで行った意識が戻ってきた。


「ユウキくん」

「こ、これは間違いというやつで……けしてわざとしたわけじゃ」


 言い訳をしながらも、ユキちゃんからは目を離せなかった。

 ユキちゃんは、一歩、一歩と近づいてくる。


「話合おう! 話合えば分かるって!」


 必死の説得を試みるも、ユキちゃんは止まらない。

 俺はユキちゃんに追い詰めれ、叱るべき裁きを受けさせられる、と思った瞬間、予想外のことが起きた。


「えっ」


 なんと、ユキちゃんが抱きついてきた。

 至福の柔らかさに、フワリと女の子独特の甘い匂いがする。


「えっ!? ちょっと、ゆ、ユキちゃんっ!?」

「ユウキくん」


 頭一つ分小さいユキちゃんが上目遣いで見てくる。


「っ!?」


 顔を真っ赤に染めて、瞳は熱を帯びていた。

 エロい。ものすごくエロかった。


「ユウキくんなら良いよ」

「そ、それはどういう意味でっ!?」

「言わないと分からないの? それとも言わせたいの?」

「ゴクリ」


 俺はユキちゃんの両肩を掴み、残った理性で抵抗する。


「ユキちゃん駄目だ。俺たちは兄妹だ。そんなことしたら、親父と里美さんが悲しむ」


 離さないのは、離せばユキちゃんのお胸の全貌が明らかになってしまうからだ。いくら、お胸が小さいとしても、そこには、男のロマンが詰まっている。


「駄目なの?」


 ユキちゃんは、小首を傾げて甘えるに言った。

 可愛らしい仕草に、俺の理性という檻が崩壊して本能が解き放たれる。


「ユキちゃん」

「ユウキくん」


 覚悟を決めて口づけをしようとした瞬間――



 ピピピピピピピピッーーーー!!



「うっ、んう……」


 手を伸ばし、アラームを切る。体を起こすと、毛布がバサリと落ちる。

 次第に目が覚めていく。


「……夢か」


 そう、全て夢だった。

 間違って扉を開けたのも、ユキちゃんの着替えを目撃したのも、ユキちゃんにエロい顔で迫られたのも全部夢。


「寝たら続きが見られ……バカか俺はっ。ユキちゃんは妹なんだ。兄が妹に欲情するとか最低だ」


 自分の頬を叩いて煩悩を消し去る。

 まだ、足りたいと思ったので、洗面所で顔を洗うことにした。自室を出て、階段を降り、洗面所へ。スライド式の扉に手を伸ばして、一瞬躊躇する。


「……まさかな」


 そんなことあるわけない、と思って扉を開けると、


「あっ」

「えっ」


 ユキちゃんがいた。なんと、夢と同じ姿で。

 もしかして、あれは正夢だったのだろうか。今からユキちゃんに迫られて、本能という獣を解き放つんだろうか。

 それを肯定させるかのように、ユキちゃんは近づいてくる。


「ユウキくん」

「は、はい!」


 緊張で声が上ずる。

 ユキちゃんが抱きついてくると思った瞬間。


「ぐへっ!」


 俺はぶっ飛んだ。洗面所から出て廊下に転がる。

 状況が理解出来ないまま、視線を上げると、胸を片腕で隠して顔を真っ赤にしたユキちゃんと目があった。


「ユウキくんの変態!」


 バンッと音を立てて、扉が閉められる。

 ようやく、頬に痛みがあることに気づいた。


「まあ、それが普通か……」


 現実に起きたのは、熱い抱擁ではなく、熱い鉄拳だった。



◆◇◆◇



 学校。


「おは……どうしたのその怪我?」

「いや、ちょっとな……」


 俺は頬に大きな絆創膏を貼っていた。もちろん、ユキちゃんに殴られた跡だ。

 これを見た、里美さんには心配され、親父は笑っていた。そして、ユキちゃんは絶賛不機嫌で口を利いてくれない。


「雪音ちゃんと喧嘩でもした?」

「喧嘩ではないな」

「なるほど。つまり、うっかり着替えを見て殴られたてこと?」

「どうして分かった?」

「妹と暮らしていると、妹の着替えを見ることがよくあるからね。まあ、殴られはしないけど」


 大地はやれやれと肩をすくめる。


「で、その顔を見るにユキネちゃんは絶賛不機嫌中てわけか」

「ああ、そうだよ。何でもお見通しだな」

「兄妹の関係にしては、俺は結城よりも先輩だからね」


 大地はニヤリと笑った。


「女の子の機嫌を直す方法教えようか?」

「何で、女の子の機嫌を直す方法なんだ? そこは妹の機嫌を直す方法を教えてくれ」

「結城はわかってないね」

「何がだよ」

「いいかい。兄妹というのは小さい時から一緒にいて、お互いの恥ずかしい過去や、相手の好き嫌いを知っていたり、素の自分をだせる、信頼関係があるものだ。結城と雪音ちゃんはどうだい? 一緒に住んでるとはいえ、そういうことはないだろ。もし、あるんだったら結城は大したものだ。将来はヒモになれるよ」

「ヒモなんかになんねえよ。……で、結局何が言いたいんだ?」

「結城と雪音ちゃんの関係は形だけは兄妹でも、中身が全然足りない。異性の友達て感じ。だから、妹よりも女の子として接した方が上手くいくてことさ」

「確かに、その通りだな。で、俺はどうすればいいんだ?」

「……特別扱いすることさ。まるで、お姫様のようにね」


 そんなキザなセリフを吐く大地。少女漫画なら歯がキラッて光るに違いない。


「胡散臭いな」

「俺が今まで何人の女の子と付き合ったと思ってる?」

「長続きしないていう証拠だろ」

「確かにその通り。まあ、実際は本命がいるんだけどね」

「だったら、その子と付き合えよ。大地なら口説けるだろ」

「それは、難しいかな。その子と俺にも少々事情というものがある。後、訂正させてもらうけど、俺は女の子を口説いたことはないよ。口説かれたことはあるけど。まあ、それは置いといて。さっきの話の続きだけど」


 内緒話をするように近づく。


「デートだよ」

「デート? そんなもんで機嫌直るのか?」

「そんなもんね……。じゃあ、結城はどんな考えがあるの?」

「例えば……、プレゼント……手作りお菓子をあげるてのはどうだ?」

「女子だね」

「っ……、うっせえ」

「まあ、確かにそれも良い考えだと思うよ。でも、結城は雪音ちゃんの好きなもの分かる?」

「分かる。ユキちゃんは甘い食べ物が好きなんだ。シュークリーム、チョコレート、苺、ケーキ、後は……」


 俺の話を聞いて、大地はうんうんと頷く。


「だったら、兄としてさ、雪音ちゃんのこともっと知りたくない?」


 まるで、悪魔の囁きのようだ。そして、俺は乗っかる。


「……知りたい」

「んじゃ、デートしかないね。デートはお互いのことを知ることが出来るからね」

「さっきから、デートて言うけどな……、俺とユキちゃんは兄妹だぞ」

「はいはい。わかってるって。後、兄妹で遊びに行くのは普通だから安心して」


 大地はおもむろに右手を伸ばすと、俺のブレザーからケータイを抜き取る。


「ケータイ借りるよ」

「あっ、おい!」


 取り返そうと手を伸ばすが、大地に簡単にかわされる。


「日曜、暇?」

「……暇だけど」


 大地はケータイを操作して、


「はい、送信」

「おい、何やって……」


 やっとの思いでケータイを奪い取るとそこには、ユキちゃん宛に。


『かわいい妹へ


 今朝のことはごめん。わざとではなかったんだ。でも、ユキちゃんがあまりにもかわいくてつい見惚れてしまった。

 お詫びとして今度の日曜日。二人で水族館にでも行きませんか? 待ち合わせ時間は十時。場所は駅前。

 返事待ってます。』


「おい、大地」

「そんなに怒んないでよ。俺は大切な親友を想ってやったんだ。後、面白そうだから」

「おまえな……」


 大地は二枚のチケットを机に置いて、立ち上がった。


「ちょうど、この券が余っててね。困っている結城にあげようと思う」

「水族館?」

「うん。……それじゃ、頑張ってね」

「あっ、おい」


 大地が去って行くと、それを待ってましたとばかりに話しかける女子。話しかけるのをやめて、チケットを眺めた。

 そして、昼休み。ユキちゃんからの返信がきた。


『わかった』



◆◇◆◇



 日曜日。約束の日。

 時刻は九時三十分。約束の時間の三十分前である。


「はぁ」


 憂鬱で、ため息を吐いた。

 あれから、ユキちゃんとは一言も話していない。きっと、怒ってるに違いない。しかし、このままの関係では良くない。だから、頑張って機嫌を取らなければ。そう接待だ。


「ユウキくん」


 名前を呼ばれた。ユキちゃんの声だ。

 最初になんて話そうか、と考えていなかった俺は無言で顔を上げた。


「……」


 ユキちゃんの服装はクリーム色のセーターに、花柄のスカート。

 いつものかわいい印象ではなく、落ち着いた大人のような印象を受けた。

 ボー、と見惚れていると、


「なに?」

「い、いや、何でもない」

「…………」


 ユキちゃんはなぜか俺を睨み付けて、無言で歩き出した。


「どこに行くの?」

「……はぁ、水族館いくんだよね。なら、電車乗らないとダメでしょ?」


 刺がある言い方だ。それほどに腹を立てているということだ。

 ユキちゃんは一人歩いていく。その背中を見ながら、


「……頑張れ。俺」


 自分に活を入れて、後を追いかけた。

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