第六話 週末の勉強会とスイカボボ
安森と鈴音の週末の日常
皆さん、あまり感想や意見を寄せてくださらないようですが、やはり距離感を保つ必要があるからでしょうか?
私は中国人なので、そういうことはあまり気にしません。ですので、読んでみた感想などを気軽に聞かせていただけると嬉しいです! よろしくお願いします!
(普段は夜にサイトにログインすることが多いので、すぐに返信できないこともあると思います。もし返信が遅くても、無視されているなんて思わないでくださいね。コメントに気づけば、必ずお返事します!)
半日の休息を終え、安森と鈴音は再び、それぞれ実習と学校生活に戻った。
日々は相変わらず穏やかに過ぎていく。
毎朝、安森は時間どおりに実習先へ向かい、鈴音はランドセルを背負って学校へ通う。夕方に帰宅すると、二人で一緒に夕食を食べながら、その日にあった出来事を話すこともあった。鈴音は学校の宿題が多いと愚痴をこぼしたり、クラスで起きた面白い出来事を楽しそうに話したりする。安森はそんな話に耳を傾けながら、話すのに夢中になっていないで、早くご飯を食べるようにと、ときどき注意していた。
こうした日常は、決して特別なものではない。
それでも、以前はどこか寂しかった部屋に、少しずつ家らしい温かさが生まれていた。
しかし、この日の昼、鈴音は何やら悩みを抱えている様子だった。
「安森お兄ちゃん、聞いてよ! 今日の数学の授業、もう本当に大変だったんだから!」
食卓で、鈴音は片手に箸を持ち、もう片方の手で頬杖をつきながら、困り果てたようにため息をついた。
安森は料理を口に運ぼうとしていた手を止めた。
「どうしたんだ? 数学の宿題が多かったのか?」
「宿題の問題じゃないの!」
鈴音はすぐさま首を横に振った。ようやく愚痴を聞いてくれる相手が見つかった、と言わんばかりだった。
「先生の説明が速すぎるの! さっきまでこの公式を説明していたと思ったら、次の瞬間にはもう次の問題に進んでるんだよ。私が前の説明を書き写している間に、先生はもう次の内容を話し始めちゃうの。問題文を読み終わる前に、説明が終わっちゃうことだってあるんだから!」
そう言いながら、鈴音は思わず箸を置き、先生の授業中の口調を真似し始めた。
「それで先生ったら、こう聞くの。『みんな、ちゃんと理解できたかな?』って」
鈴音は咳払いをして、わざとらしく真面目な声を作った。
「『理解できたなら、次の問題に進みましょう』」
そう言い終えると、彼女は椅子の背もたれにぐったりともたれかかった。
「もう、ひどくない? 私、何も理解できてないんだけど!」
安森は、ぷくっと頬を膨らませている鈴音を見て、思わず笑ってしまった。
「それなら、どうして手を挙げて先生に質問しないんだ?」
「私だって質問したいよ! でも、先生の説明が速すぎて、自分がどこから分からなくなったのかさえ分からないんだもん。それに、周りのみんなは普通にノートを取ってるみたいだし、急に手を挙げたら、なんだか恥ずかしくて……」
最後のほうは、だんだん声が小さくなっていった。
安森は鈴音を一瞥したが、すぐには何も言わず、まず彼女の皿におかずを取り分けてやった。
「とりあえず、ご飯を食べよう。数学の話は、あとでゆっくり聞くから」
「うん……」
鈴音はうつむき、素直に二口ほどご飯を食べた。しかし、やはり気になって仕方がないらしく、すぐにまた顔を上げた。
「ねえ、安森お兄ちゃんって、昔は数学の成績よかったの?」
「まあ、それなりにはな」
「それなりって、何点くらい?」
「当ててみろよ」
「八十点?」
「もうちょっと上だな」
「九十点!?」
鈴音の目がぱっと輝いた。
安森は少し考えてから、笑いながら答えた。
「成績は問題によるけどな。少なくとも、普通の数学の問題なら、どうにかできると思うぞ」
「くっ……」
鈴音は小さく悔しそうな声を漏らした。
「なんで急に悔しそうな顔をしてるんだ?」
「だって、私だってもっといい点を取りたいんだもん!」
彼女は頬を膨らませたあと、少し恥ずかしそうに頬をかいた。
「実はね、私、数学の成績がずっとよくないんだ。だいたい六十点くらいかな。ちょっと難しい問題が出ると、もうどうすればいいのか分からなくなっちゃうの。授業中は分かったつもりでいるのに、いざテストになると、問題を見た瞬間に頭の中が真っ白になっちゃうんだよね」
安森は箸を置き、真剣な表情で鈴音を見た。
「つまり、何も分からないわけじゃなくて、理解できていない部分があって、問題を解くときに知識をどう使えばいいのか分からなくなる、ってことか?」
「うん……たぶん、そういうことだと思う」
「なら、どうにもならないような問題じゃないな」
「本当?」
「もちろん。数学は前の内容を理解できていないと、その先もどんどん難しく感じるようになる。先生の授業についていこうとするだけじゃなくて、まずは自分が分かっていないところを見つけて、一つずつ解決していけばいい」
鈴音はぱちぱちと瞬きをした。
「でも、どこが分かっていないのか、自分じゃよく分からないんだよ」
安森は少し考えてから、口を開いた。
「そうだな。土日、時間があるときに俺が勉強を教えてやろうか?」
「えっ!?」
鈴音は椅子から飛び上がりそうなほど驚いた。
「安森お兄ちゃんが、数学を教えてくれるの?」
「なんだ、嫌なのか?」
「ち、違うよ! もちろん教えてほしい!」
鈴音は慌てて両手を振った。顔には再び笑顔が戻っていた。
「ただ……お兄ちゃん、普段は実習があるでしょう? 迷惑じゃないかなって思って……」
その言葉を聞いて、安森の表情が少し柔らかくなった。
「心配するな。たまに時間を作るくらいなら、どうにかなるさ」
「じゃあ、私、ちゃんと頑張る!」
鈴音は拳を握りしめ、真剣な顔で宣言した。
「そのときまでに、少しでも数学の成績を上げられるように頑張るね!」
安森は、あまりにも真面目な彼女の様子を見て、笑顔でうなずいた。
「よし、決まりだな」
***
そして、あっという間に土曜日がやってきた。
本来、実習期間中の安森には、決まった土日の休みはなかった。しかし今回は、物語の都合もあって、安森は特別に休みを取ることにした。
朝早く、安森は目を覚ました。
身支度を済ませると、朝食を買いに出かけた。家に戻ってくる頃には、鈴音も目を覚ましており、テーブルの前に座って眠そうに目をこすっていた。
「おはよう、安森お兄ちゃん……」
「おはよう。朝ご飯にしよう」
安森は、湯気の立つお粥と包子を彼女の前に置いた。
鈴音は朝食を見て、少しずつ目を覚ましたようだった。
「わあ、包子だ!」
「そうだ。お粥もあるぞ。温かいうちに食べな」
「ありがとう、安森お兄ちゃん!」
鈴音は包子を手に取り、一口かじった。すると、満足そうに目を細めた。
「おいしい!」
安森は向かい側に座り、おいしそうに食べる彼女を見ながら注意した。
「そんなに急いで食べなくても、誰も取らないぞ」
「だって、できたての包子が一番おいしいんだもん!」
「分かった、分かった」
安森は苦笑した。
朝食を食べ終えると、鈴音は自分の鞄を持ってきて、中から何枚もの数学の答案用紙を取り出した。彼女はそれらをきちんとテーブルの上に並べた。
「安森お兄ちゃん、これが最近解いた数学のテストだよ」
彼女の表情は、先ほどよりもずっと真剣だった。
「ちょっと見てくれる? 自分では一生懸命やってるつもりなんだけど、なかなか点数が上がらなくて……」
安森は答案用紙を受け取ったが、すぐに問題を教え始めることはせず、まずは一通り目を通した。
解答の手順を確認したり、草稿用紙にいくつか質問を書き出したりしながら、彼は鈴音の理解度を確かめていった。
隣に座っている鈴音は、両手をきちんと膝の上に置き、いつもより緊張した様子で待っていた。呼吸まで自然と静かになっている。
しばらくすると、彼女は我慢できなくなったのか、とうとう口を開いた。
「どう? やっぱり、ひどい?」
「結論を急ぐな」
安森は答案用紙を脇に置いた。
「まずはいくつか質問する。分からないことがあっても気にするな。自分が本当にどう考えているか、正直に答えてくれればいい」
「うん!」
「問題の条件が変わったとき、どの公式を使えばいいか、自分で判断できるか?」
鈴音は少し考えてから、首を横に振った。
「できるときもあるけど、できないときもあるかな」
「じゃあ、問題の数字だけが変わった場合は? 同じ手順で解けるか?」
「数字が変わるだけなら、たぶん大丈夫……でも、問題の言い方が変わると、ちょっと自信がなくなるんだよね」
安森はうなずき、さらにいくつか質問をした。
最初、鈴音は少し緊張していたが、質問が具体的になるにつれて、次第に落ち着いてきた。普段、問題を解くときにどこでつまずくのか、何が分からないのかを、一つずつ説明していった。
話を聞き終えた安森は、ようやく彼女の問題点を把握した。
鈴音には、まったく基礎がないわけではなかった。ただ、いくつかの知識が十分に身についていないのだ。見慣れた問題なら、覚えた解き方を頼りに答えを出せる。しかし、問題の形が少し変わると、途端にどうすればいいのか分からなくなってしまう。
「だいたい、どこから始めればいいか分かったぞ」
安森は草稿用紙を一枚取り、最初の問題を書き始めた。
「まずは難しい問題に手を出すのはやめよう。分からなかったところから始めて、基礎をもう一度整理していく」
鈴音は力強くうなずいた。
「うん!」
こうして、補習が始まった。
安森は最初から複雑な公式や解き方を一気に教え込むようなことはしなかった。最も基本的な内容から、一つずつ丁寧に説明していった。
一つの知識を説明し終えるたびに、彼は手を止めて鈴音の様子を確認した。
「ここまでは理解できたか?」
「うん……ちょっとだけ」
「ちょっとだけってことは、まだ分からないところがあるんだな。どの部分だ?」
鈴音は草稿用紙をしばらく見つめていたが、やがて指を伸ばし、ある手順を指さした。
「ここ! 前のところまでは分かるんだけど、どうしてここでこういう計算をするの?」
「いい質問だ」
安森は彼女を責めることなく、再びペンを手に取り、さっきの説明をもう一度繰り返した。
「ほら、重要なのはここだ。最後の公式だけを覚えるんじゃなくて、どうしてそうなるのかを理解するんだ。そうすれば、違う問題に出会ったときも、どう解けばいいか考えられるようになる」
鈴音は真剣に耳を傾け、ときどきノートに要点を書き込んだ。
ようやく一つの問題を理解して、嬉しそうに笑うこともあれば、何度やっても間違えてしまい、眉をひそめることもあった。
「うう……また間違えた!」
草稿用紙に書いた数字を何度も消した跡を見て、鈴音はすっかり落ち込んだ様子で机に突っ伏した。
安森は彼女をちらりと見た。
「ほら、顔を上げろ。机に突っ伏していても、答えが勝手に出てくるわけじゃないぞ」
「だって、さっきはちゃんとできたのに!」
「さっきできたからって、今も一人で解けるとは限らない。もう一度やってみろ」
「またやるの?」
「当然だろ。本当に理解したいのか、それとも俺の説明を最後まで聞くだけで満足なのか?」
鈴音はすぐに背筋を伸ばした。
「もちろん、ちゃんとできるようになりたいよ!」
「なら、続けよう」
安森は草稿用紙を彼女の前に戻した。
鈴音は唇をきゅっと結び、再びペンを握った。今度は慌てて計算を始めるのではなく、まず問題文を最初から最後まで読み直し、安森が説明してくれた手順を一つずつ思い出した。
しばらくして、ようやく答えが出た。
「……できた!」
彼女は二秒ほど紙を見つめ、それから勢いよく顔を上げた。
「安森お兄ちゃん! 解けたよ!」
「よし、見せてみろ」
安森は解答を確認し、うなずいた。
「今回は正解だ」
「やったあ!」
鈴音は嬉しさのあまり、思わず手を叩きそうになった。
「私にもできたんだ!」
「最初からできる力はあったんだよ。ただ、途中の理屈をちゃんと理解していなかったから、問題が変わると慌ててしまっていたんだ」
その言葉を聞いて、鈴音の笑顔が少し落ち着いた。
「じゃあ、これから真面目に勉強すれば、少しずつできるようになるかな?」
安森は彼女を見つめ、真剣に答えた。
「真面目に取り組むのは大切だ。でも、ただひたすら問題を解けばいいってわけでもない。分からないところがあったら、ちゃんと理解できるようにするんだ。今日できなかった問題は、明日もう一度やってみる。それでもできなければ、また練習する。時間をかけて取り組めば、少しずつ進歩していけるはずだ」
鈴音は静かに話を聞き、やがて真剣な顔でうなずいた。
「分かった」
彼女は再びノートに向かい、今教わった内容を丁寧に書き留めていった。
窓の外では、日差しが少しずつ移動していた。テーブルの上に積まれていた答案用紙も、いつの間にかノートや解答で埋め尽くされていた。
安森がようやくペンを置いた頃には、すでに半日近くが過ぎていた。
「よし、今日はここまでにしよう」
彼はノートを閉じ、少し疲れた手首を回した。
「これ以上続けたら、頭から煙が出るぞ」
鈴音は顔を上げ、目をこすった。
「えっ? もうそんなに時間が経ったの?」
「時計を見てみろ」
彼女がスマートフォンを手に取り、時刻を確認すると、驚いたように目を見開いた。
「もうお昼じゃん!」
「だから、まずは昼飯だ」
安森は立ち上がり、テーブルの上を片づけ始めた。
鈴音は解いた問題を見つめ、ふと小さな声で言った。
「安森お兄ちゃん、ありがとう」
安森は振り返った。
「どうしたんだ、急に?」
「だって、いろいろ教えてもらったから」
鈴音はノートに目を落とし、真剣な声で続けた。
「前は分からない問題があると、自分が頭悪いのかなって思ってた。でも、今日お兄ちゃんに教えてもらって、実はそんなに難しくないこともあるんだって分かったの。私がちゃんと理解できていなかっただけなんだね」
安森はしばらく黙っていたが、やがて彼女の頭を軽く小突いた。
「分かったならいい。これからは、問題が何問か解けなかったくらいで、自分には無理だなんて思うなよ」
「うん!」
鈴音は力強くうなずいた。ところが、次の瞬間、何かを思い出したように顔を上げた。
「それで……今日のお昼は何を食べるの?」
安森は思わず笑ってしまった。
「さっきまで勉強の話をしていたのに、もう食べることを考えてるのか?」
「勉強も大事だけど、ご飯も大事だもん!」
鈴音は堂々と答えた。
「それに、私、午前中ずっと頑張って勉強したんだよ? おいしいものを食べて、自分にご褒美をあげたっていいでしょ?」
「分かった、今日はご褒美だ」
安森は上着を手に取った。
「昔、俺がよく食べに行っていた老六饸饹面っていう店に連れていってやるよ」
「饸饹面?」
鈴音は不思議そうに聞き返した。
「おいしいの?」
「食べてみれば分かるさ」
「じゃあ、早く行こう!」
彼女は急いで身支度を整え、安森の後について家を出た。
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老六饸饹面は、それほど遠くない場所にあった。
店に入ると、安森は慣れた様子で二人分の麺を注文した。しばらくすると、湯気の立つ麺がテーブルに運ばれてきた。
鈴音は器をのぞき込み、漂ってくる香りを嗅ぐと、目を輝かせた。
「わあ、いい匂い!」
「まずは食べてみな」
安森は彼女に箸を渡した。
鈴音は待ちきれない様子で麺をつまみ、少し息を吹きかけてから口に運んだ。
次の瞬間、彼女の目が三日月のように細くなった。
「おいしい!」
「気に入ったなら、たくさん食べろよ」
「うん!」
鈴音は麺を食べながら、さっきの補習で、ようやく自力で解けた問題のことを楽しそうに話し始めた。まるで、たった一問の数学の問題を解けたことが、大きな勝利であるかのようだった。
安森は彼女の話を遮ることなく、ときどき相づちを打ちながら聞いていた。
嬉しそうに食べる鈴音を見ていると、今日のためにわざわざ休みを取ったのも、悪くない選択だったと思えてくる。
昼食を終えると、二人は家に帰った。
安森は、少し疲れた様子の鈴音を見た。
「午後は少し昼寝をしよう。午前中あれだけ勉強したんだから、休んだほうがいい」
鈴音は自分は眠くないと言おうとしたが、言葉を発する前に、思わずあくびが出てしまった。
「……分かった」
「起きてから、また考えればいい」
「安森お兄ちゃんも休むの?」
「俺も少し休むよ」
「約束だからね!」
鈴音は小指を差し出し、真剣な顔で彼を見つめた。
安森は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑い、小指を絡めた。
「約束だ」
午後の部屋は、次第に静かになっていった。
鈴音は自分の部屋に戻って昼寝をし、安森も外でしばらく休むことにした。二人が再び目を覚ました頃には、昼間ほど日差しは強くなくなっていた。
「安森お兄ちゃん!」
鈴音が部屋から顔をのぞかせた。
「午後はどこに遊びに行くの?」
安森は時計を確認し、少し考えた。
「近くの公園でも散歩するか。ずっと家にいるのもよくないし、ちょうどいい気分転換になるだろ」
「やった!」
鈴音はすぐに部屋へ戻り、出かける準備を始めた。
やがて二人は、近所の公園にやってきた。
週末の公園には、たくさんの人がいた。子どもを連れて散歩する人もいれば、ベンチで休んでいる人もいる。小さな子どもたちは、凧を追いかけて走り回っていた。
鈴音は安森の隣を歩きながら、きょろきょろと周囲を見回していた。何かを見つけるたびに、嬉しそうに指をさしては、安森に教えてくれた。
「安森お兄ちゃん、あっち見て!」
「見えてるよ」
「あの子、走るの速いね!」
「ああ」
「私も小さい頃、あんなふうに走り回れたらよかったのになあ」
安森は彼女のほうを向いた。
「今だって走れるだろ」
「やだよ! 疲れるじゃん!」
鈴音はそう言うと、自分でもおかしくなったのか、笑い出した。
二人は公園の小道をゆっくり歩き、ときどき立ち止まって景色を眺めたり、何気ない話をしたりした。宿題もなければ、すぐに解決しなければならない問題もない。まるで時間までゆっくり流れているようだった。
しばらく散歩していると、鈴音がふと足を止めた。
彼女の視線の先には、少し離れたところにあるアイスクリームの屋台があった。
鈴音はしばらくそれを眺めていたが、やがておずおずと安森のほうを振り向いた。
「安森お兄ちゃん……」
安森は彼女の視線を追った。
「アイスが食べたいのか?」
鈴音は力強くうなずいた。
「いい?」
「もちろん。俺もちょっと食べたくなってきたしな」
安森の言葉を聞くと、鈴音の目がぱっと輝いた。
「じゃあ、一緒に食べよう!」
二人はアイスクリームの屋台へ行き、それぞれ好きな味を選んだ。アイスを受け取ると、鈴音は待ちきれない様子で一口なめ、満足そうに目を細めた。
「んー! おいしい!」
安森も一口食べ、口の中に広がる冷たく甘い味を楽しみながら、笑って言った。
「確かに、うまいな」
「でしょ、でしょ? アイスって、こういうときに食べるのが一番おいしいんだよ!」
「こういうときって、どんなときだ?」
「いっぱい歩いて、ちょっと疲れてて、お天気もいいとき!」
鈴音は当然のことのように答え、さらに言葉を続けた。
「それに、今日はちゃんと勉強も頑張ったんだから。これもご褒美だよ!」
「自分へのご褒美の理由を考えるのがうまいな」
「えへへ。安森お兄ちゃんだって同じでしょ?」
安森は一瞬言葉に詰まったあと、苦笑した。
「まあ、そうだな。今日は二人へのご褒美ってことにしておくか」
二人はアイスを食べながら、公園の小道をゆっくり歩いていった。ときどき話をしたり、周囲の景色を眺めたりする。何でもない散歩だったが、冷たくて甘いアイスのおかげで、いつもよりのんびりした気分になれた。
アイスを食べ終えると、今度は鈴音の目が近くのドリンク店に引き寄せられた。
「安森お兄ちゃん、次はミルクティーを買おうよ!」
「その小さなお腹に、まだ入るのか?」
「入るよ! アイスとミルクティーは別腹だもん!」
鈴音が大真面目に説明するので、安森は思わず吹き出した。
「分かった、じゃあ一杯買うか」
店に着くと、鈴音はほとんど迷うことなく注文した。
「スイカボボでお願いします!」
安森もメニューを見て、自分の飲みたいドリンクを注文した。
しばらくして、二人はそれぞれドリンクを手に店を出た。
鈴音はカップを両手で持ち、ストローを差し込むと、さっそく一口飲んだ。
「んー……おいしい!」
安森も自分のミルクティーを一口飲んでから、鈴音を見た。
「そんなにおいしいのか?」
「もちろん! スイカの甘さがあって、すっきりしてるし、中に入ってるボボの食感もいいんだよ!」
そう説明しながら、鈴音はもう一度大きく吸い込んだ。顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。
安森は嬉しそうな彼女を見て、自分のドリンクをもう一口飲んだ。自然と口元が緩んでいく。
二人はミルクティーを飲みながら、家へ向かって歩き始めた。夕日がゆっくりと沈み、街並みを柔らかな金色に染めていた。
鈴音は学校であった面白い出来事をときどき話し、安森はその話を聞きながら、適度に相づちを打った。
「安森お兄ちゃん、また今度も一緒に遊びに来ていい?」
「もちろん。時間があればな」
「じゃあ、約束だよ!」
鈴音は笑顔で小指を差し出した。
安森は彼女を見て苦笑しながらも、再び小指を絡めた。
「約束だ」
鈴音は満足そうに手を引っ込め、再び嬉しそうにスイカボボを飲み始めた。
安森もドリンクを手に、彼女と一緒にゆっくりと帰り道を歩いていった。
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家に帰り着く頃には、すっかり日が暮れていた。
夕食を済ませると、鈴音は自分の荷物を抱えてテレビの前に座り、アニメを見始めた。安森はその隣でゲームを起動し、少しばかり気分転換をすることにした。
しばらくすると、部屋にはゲームの効果音と、アニメを見ている鈴音の驚きの声が響き始めた。
「ああっ! どうしてこうなるの!?」
「どうした?」
「このキャラ、かわいそうすぎるよ!」
安森はテレビに目を向けた。
「アニメを見てるだけなのに、なんで泣きそうになってるんだ?」
「泣いてないもん!」
鈴音はすぐに反論した。ただ、声には少し鼻にかかったような響きがあった。
「ただ……あんなに頑張ってたのに、大切な人を守れなかったなんて、つらいなって思っただけ……」
そう言って、彼女はしばらく黙り込んだ。
安森はそれ以上からかうことなく、テーブルの上にあったティッシュを差し出した。
鈴音はそれを受け取り、小さな声でありがとうと言ってから、再び画面に目を向けた。
しばらくすると、彼女はふと安森のほうを振り向いた。
「安森お兄ちゃん」
「ん?」
「来週の土曜日も、また勉強を教えてくれる?」
安森はゲームを一時停止し、真剣な表情で彼女を見た。
「もちろん。お前が勉強する気なら、いくらでも教えてやるよ」
鈴音の顔に、ぱっと笑顔が広がった。
「じゃあ、ちゃんと復習しておくね!」
「口だけじゃなくて、今日やったところを明日もう一度解いておけよ」
「分かってるってば!」
鈴音は語尾を伸ばして答え、それからまた楽しそうに笑った。
窓の外では夜が深まっていったが、部屋の中は相変わらず賑やかだった。
安森にとって、この日はごく普通の週末にすぎなかった。勉強を教え、一緒に麺を食べ、公園を散歩し、アイスとミルクティーを楽しみ、そのあとはそれぞれ好きなことをする。そんな一日が、穏やかに過ぎていった。
けれど、鈴音にとっては少し違っていた。
以前から苦手だった数学の問題を理解できただけでなく、安森の丁寧な説明を聞くうちに、勉強に向き合う自信も少しずつ取り戻していた。
そして何より彼女を安心させてくれたのは、自分が困ったとき、きちんと話を聞いてくれる人がいることだった。
焦らずに話し終えるまで待ってくれて、一緒に解決する方法を考えてくれる人がいる。
鈴音はクッションを抱えながら、ゲームをしている安森をこっそり見つめた。
そして、小さく微笑むと、再び画面の中のアニメに目を向けた。
こうして、温かく平凡な日常に包まれた週末は、静かに終わりを迎えた。
饸饹麺は、中国北部でよく食べられている伝統的な麺料理の一種で、主に山西省、陝西省、河南省、河北省、甘粛省などで親しまれている。
専用の麺押し器を使って生地を細長い麺状に押し出し、鍋で茹でてから、肉そぼろ入りのタレや羊肉のスープをかけて食べる。コシがあり、つるりとした喉ごしが特徴の料理だ。




