表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/135

第45話 幼馴染との再会です ★

2019/10/16:いただいたFA貼りましたー( ゜∀゜)


 午前中に届いたゲルスト夫人の最新作の一つは、光沢のない平織の絹……つまり絹モスリンとかシフォンとか呼んでいた素材で作ったドレープが、ふんだんにあしらわれている。


 キトンをベースにしたデザインのドレスで、柔らかいエメラルドグリーンの絹の上からかかるいくつものドレープが、ボディラインを適度に隠していた。


 一言で言えば、とても素敵。

 古い物語に描かれるような巫女もイメージできて、今日のパーティー(戦場)に最も適してると思う。



 王宮のホールは、さすがに王子様の誕生日パーティーともあってかなり派手な印象を受けた。


 お兄様のエスコートを受けて会場内に入ると、入り口の方から少しずつ波が引いていくように静かになって、全ての視線が集中したように思う。

 お兄様も、隣で思わず笑ってしまっている。


「アニー、今日の主役は君かもしれない」


 それでもしヒロインの妬みを買ってしまうと面倒なのですが……。

 でも確かにお兄様の言葉は正しくて、多くの貴族が私と話すタイミングをうかがっているようだ。お兄様が話し相手を選んでくれるので大きく戸惑うことはなかったけど。


 どうやら、まともな検証もせず島流しにした挙句、冤罪が明るみに出るという失態をやらかしたボナート公爵の求心力は落ちているみたい。


 逆に、あのエスピリディオン島でひと月生活し、無事に戻った事実は耳目を集めたし、それに支持率の面ではボナート家と相対的にバウド家が上がっているため、どうにかお近づきになりたいという下心も大いにあるのでしょう。



「アナトーリア」


 聴きなれた声。幼い頃からずっとこの声を聞きながら生きてたんですもの、間違えようがない。

 それに公爵家の兄妹に声を掛けることができる人物はそこそこ限られてる。

 どうしても口角が下がってしまうのをどうにか誤魔化しながら、声の主に礼を取る。


「まぁ、殿下。ご機嫌麗しゅうございます。そして、お誕生日おめでとうございます」


 やはり口を横に引き結んだフィルディナンドと、その後ろには顔色の悪いクララ、そして警戒心を隠そうとしないカロージェロが並ぶ。

 誰も彼も、ご機嫌は全く麗しそうに見えなくて、つい笑顔がこぼれてしまいそう。私、少し性格が悪くなったかもしれない。


 いや、元は悪役令嬢なんだからこれでもまだマシかしら?


「冤罪であったと聞いた。学院の退学処分も撤回になったそうだが、俺は……」


「国王陛下はもちろん殿下のことを第一にお考えでいらっしゃいますわ。それに、一度切れてしまった糸は紡ぎ直せません。でしょう?」


 私が冤罪だったために、婚約破棄の大前提を失ったフィルは、ご丁寧に改めて婚約の意思はないと伝えに来てくれたみたい。

 婚約が復活するかもしれない、なんて誰も思っていないでしょうに。


 一度切れた糸は戻らない、それは婚約の話ではないのだけど、きっと彼は気づかないだろう。

 第一王子であるフィルを推すのはボナート派。私が冤罪であったこと、島を所有したことで力を得たバウドがこれから推していくのは、もちろん第二王子のエミリアーノ殿下だ。


 彼が切ったのは、有力貴族との縁か、玉座にいたる道筋か。


「そ、そうだな」


 糸が婚約についてだと思い込んでいる察しの悪い王子様は、戸惑いと安堵の混じった複雑な表情で呟いた。


 フィルは決して凡庸な人間ではない。

 むしろ頭の回転は速いし、優先順位に応じて下位を切り捨てる思い切りの良さも、公私の区別も、王位を継ぐにふさわしい人だとすら思ってた。

 恋? 愛? ここまで人を変えてしまうなんて、怖いことだわ。それとも私が彼のことを買い被りすぎていただけかしら。


「アニー様」


 フィルを凡人に変えてしまった可愛らしい黒髪の少女が、おずおずと私を呼ぶけれど、私は彼女にチラリと視線を送るだけに留め、フィルに一礼してその場を後にした。


 公の場では学院内と同じような態度ではいけませんと、何度も言ったはずなのに。貴族のマナーを最後まで覚えてくれなかったのか、それとも、まだ勝者だと思っているのか……。


 あの鮮やかなフィル色のドレスは、今後のクララの立場を強くするはずだったでしょうに、フィルの立場が弱いのでは意味を成さないわね。


 私たちのやり取りは、その場にいた貴族たちをざわめかせた。これでまた少し、貴族間のバランスが変わるだろう。

 少し離れたところで、苦虫を噛み潰したような表情でこちらを見ているのはビアッジョ・ボナート。……彼と彼の父親の次なる一手はどんなものか、十分に警戒しておかなくては。




「ご機嫌いかが、ジャンバティスタ様?」


 一旦お兄様と別れると、フロアの端で若いご令嬢をナンパしているジャンを見つける。

 声を掛けると、ご令嬢は私に気づくなり真っ赤な顔をしてペコリと頭を下げ、どこかへ行ってしまった。


「これはこれは、アナトーリア様」


「お邪魔してしまったみたいですわね」


「いえいえ。彼女も十分素敵だったけど、こんな妖精のように美しい方がお声がけくださるなら惜しくありませんよ」


 私より1つ下の年齢で、クララと同級生のジャンバティスタ。王国内でも有数の大規模な商会を持つやり手経営者……。


 利を得るための観察眼と判断力で、彼の右に出る人は少ないのじゃないかしら。

 クララのメモからも、ヒロインがジャン以外のルートに入った途端、二人が疎遠になることはわかってる。


 王家に連なる重鎮……の子息たちがとても大事にするヒロインにちょっかいを出して、今後の商売に影が差したら困るものね。

 それよりは、相手の男性たちのサポートに回るほうが得になるはず、なのだけども。


 いまこの状況下でなら、ジャンが選ぶのはきっと……。


「少しお話できて?」


「ええ、もちろん。貴女は今や王国中の有名人です。それに、本日はずいぶん早くからいらっしゃったようで」


 右の耳の下で三つ編みにしている、金と言うには少しマットな色をした髪の毛が揺れる。微笑みながら首を傾げ、こちらの表情を伺っているようだ。


 確かに私は、パーティーの招待状に指定された時間より、うんと早く登城していたけれど、その情報をもう握っているだなんて。


 けれどこれはつまり、十分に彼の興味を引くことができているってこと。私は扇で表情を隠しながら、彼を隅のテーブルへ誘った。



挿絵(By みてみん)

匿名希望さまからイラストいただきました!


開幕の婚約破棄シーンを回想したときにチラっと名前出ただけの超絶モブが出て来てしまいました……。まさかおまえ、キーキャラなのか!? という驚きが、私にもあります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アジア風ファンタズィーもよろしくおねがいしまーす!
i000000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ