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傭兵の流儀 9

 王都を守る城壁と城下町の間の空白地帯は、今後の発展の余地以外に、様々な役目を果たしている。

 城壁の門から街の入り口までの道は柵で囲われ、軍事的にも防犯の意味でも、長い通路を限定することで不審なものを発見することに役立っている。


 また、四方に伸びる道以外の敷地には、複数の施設がある。

 城壁と王都を守ることでこれら全ての施設は、侵入も脱走も困難な陸の孤島と化す。


「ご苦労だった。ここからは我々が引き受ける」


 街道砦から騎兵の応援を受け、問題なく城壁まで辿り着くと、檻に捕らえたマウラットと鹵獲した物資等の照会を行い、王国兵に囚人を引き渡す。

 2台の馬車を走らせ、早朝の王都へ帰還する。


「今日中に情報板に載るぜ。ウィルワーズの奴らの鼻を明かしてやれるってもんだ」

「風呂入って酒でも飲みてぇぜ」

「こんな朝っぱらからかよ」


 仲間は上機嫌だ。

 当然だろう、警備専門と言われるのは傭兵のプライドを微妙にくすぐられるものがある。

 俺だってそうだ。

 王国最大のウィルワーズの連中にも負けていないと、常日頃から思っている。

 無傷で成し遂げた今回の功績は大きい。

 小物とはいえ、バンデット討伐などそうある話ではないし、ほぼ同人数で全員捕縛は誇っていい。


 しかし、本当に、これでいいのか。

 どうしてもその考えが頭から離れない。

 依頼通りに仕事をこなし、私情を挟むなどということはここに入ってからは無かった。

 だが、今まではただ単に考えなくて良かっただけなのかもしれない。


 チッ、ともかく、商会に報告だ。

 罪を償うべきバンデットを、私的に制裁することなく法の手に委ねたのだ。

 誰かに後ろ指を指されることなど何も無い。


「戻ったか!」

「ご苦労だった。首尾は?」


 本店の横手で出迎えを受ける。

 ブロンズ商会も夜を徹して態勢を整えていたらしい。


「拠点にいた10名のマウラットを捕縛しました。物資等も、軍に引き渡してあります。こちらに書類が」

「よくやった。名前は?」

「バッツォです」

「よし、全員中に入ってくれ。詳細な報告を行って欲しい。バッツォ君、よくやってくれた」


 案内に従い前日集められた会議室に入る。

 昨日よりも人間が多い。


「今回リーダーを務めたバッツォ君です。報告を」

「では、代表して私から」


 アルトックでは仕事の際になんらかのトラブルがあった時など、雇い主であるブロンズ商会にこうして報告を行うことがある。

 監査のようなものだ。

 依頼を受けた時点からの動き、参加した人員や使用した物資、捕縛に至るまでの大まかな流れや軍に引き渡した時のやり取りなど報告する。

 

 大きな拍手を贈られた。


「よくやってくれた、見事だ」

「うむ。まったく、何の遺漏もないな。迅速に、ここまで完璧にやってくれれば言うことはない」

「君達、素晴らしいよ」


 後ろの仲間は誇らしげな顔をしているだろうか。

 これも仕事だ。集中しろ。

 待ち望んだはずの拍手の音が遠い。

 事務所へ帰って報告して、指示を仰いで、それから休みでも貰うかな。

 




「すげえ報酬になったな、たった3日でよ」

「いやー、たまんないね」


 商会への報告も終わり、俺とダズ、ジェフは明日の出発まで自由にしていいと言われた。

 一番稼いだのは俺だろう。

 それを考えると少し2人に悪い気がする。

 アルトックの連中は団へ戻った。

 俺達はとりあえず飯でも食うかと、本店1階のロビーを歩いている。


「ラスター、お手柄だったね」

「エミーの手柄ですよ」

「俺が駆けつけた時もう3人伸びてたしさ。君やっぱかなりやるでしょ?」

「ほー」

「あれは。あれもエミーがやったようなもんです」


 思わず笑う。あんなんじゃ、誰でも簡単に一撃ノックアウトだ。


 そうだな。今回百五十万ジェル近い収入になった。詫びも兼ねてエミーに奢ってもいいな。

 それで後ろから股間を蹴り上げてやったんです、などと3人で笑いながら歩く。


「あいつらには悪い気がするな。同じ仕事なのに俺らの方が稼ぎは上だろ?」

「一般の特権じゃない」

「ま、たしかに。リスクもある分リターンもなきゃ一般じゃやっていけねえしな」


 懐には金貨が数十枚ある。

 その場で即金払いとはブロンズ商会はやはり他とは違う。

 開店準備を行う従業員達は掃除をしていたり、朝礼を行っていたりとこんな時間から忙しく動き回っている。

 彼らの方がよっぽど働いているだろう。

 こんなに美味しい思いをして悪いな。


 王都5番地区を少しだけ3人で歩いてみたが、時間が早すぎるせいか開いている店が見つからない。

 こんな時間からやっている店といえば、仕事に向かう人々向けの軽食を出す喫茶店か、安さと速さが売りの食堂くらいしかない。

 御大尽である今の俺達の求めているものではない。


「せっかく丸1日王都で羽を伸ばせるってのに、つまんねえとこだぜ」

「ルンカトと違ってしっかりし過ぎてるんだよ、王都はさ。朝から酒出すとこなんか無いんじゃないの」

「酒とまでは言わねえよ」


 人通りの少ない瀟洒な街は、ルンカトのような直線的な区画と違い、連続した広場が続くような開放的な造りになっている。

 ルンカトが線なら、デイカントは円だ。

 そして建物もルンカトのように密集していない。

 高さもまちまちで、街全体が公園のような雰囲気を持っている。


 今日も快晴になりそうだ。

 抜けるような夏の青空と王都の美しい街並み、白く輝く王城。

 懐の暖かさもあり、まさに楽園都市と呼ぶにふさわしい休日を過ごしたいと思う。


「ここまで来たらよ、アルトックに寄ってみるか。奴らどうなったかな」

「仕事なんじゃないの?」

「いやあ、流石に休み貰えんじゃねえの?」

「行ってみましょうか」


 エミーはいるかな。

 休みなら、王都見物の案内でもしてくれないかね。

 薄着で。

ウィルワーズ傭兵団

 レプゼント王国最大の傭兵団。王国から直接委託を受ける唯一の傭兵団であり、貴族や上流階級の人間からも蔑まれる事が少ない程その地位を確立している。収益、活動範囲、実績全てにおいて王国一。王国兵の隙間を埋める依頼も請け負っており、所属傭兵は厳しい教育を叩き込まれている。スーパーエリート集団。

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