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王都へ 20

 低い唸りを上げながら、馬車が迫ってくる。

 緩やかなカーブを描いた街道から離れた位置にいるため、追従する2騎の存在もはっきり見える。


 徐々に曲がりながら街道を駆け抜けると思われた馬車だったが、ガガガッ、と地面を削りながら街道を外れ、こちらに突っ込んできた。

 2騎がその左右から飛び出してくる。

 その手には抜き放たれた剣。


「ラスター、馬車を出せ!」


 ダズとジェフも素早く抜剣し、それぞれ馬をぶつけるように騎兵に向かって駆け出す。

 俺が合図するまでもなく、ダズの声に反応し御者達が馬を追い立てる。


「別働隊がいるかもしれない! 離れすぎるな! 馬車を街道に戻せ!」


 車輪が土を削り悲鳴を上げる中、御者達に向かって叫ぶ。

 馬車の後ろに入り、敵の馬車を牽制する。

 するとあろうことか、オーレが幌から剣を握り顔を覗かせたのが見え、頭に血が昇る。

 霧と粒子を全開にし、周囲一帯を感覚下に治める。


 このクソアマが!

 俺の馬は鐙と手綱に素早く反応し、一瞬で馬車に詰め寄る。


「出てくるなって言っただろうが!」


 何か言おうとしたオーレに構わず、左腕の盾で殴りつけるように馬車の奥へ弾き飛ばす。

 後方の馬車の幌が大きくめくれ、中から弓を手にした人間が幌の骨組みの上に上がろうとしてくる動きを探知する。


「エイゼルさん! 離れすぎないように他も任せます!」


 そう叫び、一度全力で前に駆けさせると馬車団を追い越す。

 速度を落とさないよう円を描き、追いすがる敵の馬車に向かう。

 

 追いすがる敵は、よほど近付かない限り矢の効果は薄い。馬車が速度を出しているため、矢を放っても到達までに威力が殺される。

 幌が邪魔になって馬も狙いづらい。

 既に矢をつがえていた敵が、俺に狙いを定めてくる。


 視線、手元、射角。


 敵の御者も片手に長柄の細身槍を構えている。

 俺の馬をやられるとまずい。

 思い切り鐙を蹴り、股で馬腹を締め上げる。

 敵の馬車の馬を掠めるように急激に速度を上げ、突っ込む。



 探知の霧の範囲内に入った。

 時間がゆっくり流れるかのような知覚の中、御者が槍を突き出し、頭上の敵が矢を降らせる。

 右手で抜いた剣で、すれ違いざまに馬を斬りつける。


 悪く思うなよ。

 左手で射掛けられた矢を掴み、そのまま盾を槍の先端に当て、弾く。

 俺の馬は怯えも見せず荷台をヒョイとかわし、すれ違う。


 俺が斬った馬がバランスを崩し倒れていく。

 相棒が倒れこんだもう1頭は走り続けようとしたが、相棒の体重が増えた衝撃に苦悶の嘶きを上げ、暴れた。


 幌の上にいた男が大きく揺れた馬車から投げ出されようとしている。

 後ろは片付いた。

 2騎の騎兵がこちらに向かってくる。

 追いすがるように、ダズとジェフが猛追している。






「ジェフ、お前は左だ!」

 

 ラスターの読みが当たった。

 馬車と騎兵が剣を抜き、こちらへ突っ込んでくる。

 何をトチ狂ってやがる!

 とにかく、騎兵を排除する。

 進路を塞ぐように飛び込むが、敵はこちらを無視するように斜めに走り、距離をとる。

 クソッタレが!

 見ればジェフの相手もジェフをかわすように動いている。


「行かせるかよ!」


 素早く追いすがり、剣を振る。

 敵の馬を狙いたいが、こちらの剣が届くということは相手も届くということだ。

 馬に向けて剣を振るったが最後、自分の首が飛ぶ可能性もある。

 向こうも手練れのようだ。

 こちらの剣に合わせて刃をぶつけてきた。


 ジェフも張り付いている。

 騎兵は馬の差で振り切れないとすぐに判断したのか、こちらの対応のため馬を不規則に動かし始める。


 向こうは完全武装だ、こちらも迂闊に突っかければ痛い目を見ることになりかねない。

 互いに馬を操りながら膠着する。 

 前方の追走劇とジェフの様子を窺いながら馬を走らせる。


 と、敵の馬車の幌が開けられ、弓を携えた男が出てくるのが見えた。

 それと同時に、2騎の騎兵が計ったかのように再び疾走を始め、こちらを振り切りにかかる。


「ジェフ! 行かせるな!」

「わかってる!」


 敵は徹底して馬車を狙っている。

 ラスターの言う通り、足止め狙いのようだ。

 殲滅して馬車を荷ごと奪うという動きではない。

 こちらは馬に分がある。先行する敵との距離をじわじわ詰める。


 と、街道へ向けて土埃を上げるこちらの馬車団から、ラスターが突っ込んでくるのが見えた。

 敵の馬車とみるみる内に距離が縮まる。

 幌の上の男がラスターを狙っている。


「ラスター!」


 無理するな、という言葉は今更言っても意味が無い。

 ここから届くわけでもない。

 疾走する馬の上で叫ぶしかなかったが、その声も吹き付ける空気に置き去りにされるだけだ。


 ラスターは馬車とすれ違うように駆け抜けると、剣で馬を斬ったようだ。

 左手を顔の前に掲げるような格好をしている。

 信じ難いが、左手で矢を掴んだように見えた。

 敵の馬車が地面を引きずるような音と、馬の悲鳴が聞こえる中、こちらが追いすがる騎兵へラスターがそのまま突っ込んでくる。


 が、接触する寸前で左へ傾くように急激に方向を変え、視界から消えていく。

 ラスターのマントが翻り、離れると同時に、追っていた騎兵の馬が転倒し、鎧を着た男が宙を飛ぶ。


 追っていた相手を追い越す形になったが、ラスターと同じようにジェフの方へ向かう判断を下し、投げ出された騎兵を地面に置き去りにする。


 方向転換し追ってくるラスターより先に、ジェフの相手する騎兵に追いつく。

 冷静に騎兵に並走し状況を窺っていたジェフと目で合図を交わし、挟み込むように馬を寄せ、剣を振るう。








「こいつら、何者だろう? 普通じゃないよ」

「ああ。とりあえずコイツをどうするかだが」


 ジェフが追っていた騎兵はダズとジェフの剣で切り裂かれ、馬から落ちたまま動かない。

 遠くに見えるダズの追っていた騎兵も、馬から飛ばされた衝撃で怪我を負ったのか死んだのか、ピクリとも動かない。


 今俺達は、動かなくなった馬車の横で槍を構える御者の男を前に、訪れた静寂の中、馬上で向き合っている。

 幌から落ちた矢の男は、呻き声を上げながら地面を這いずっている。

 エイゼルさんがしっかり誘導してくれたのか、3台の馬車はさほど離れていない街道で停まっていた。


「ラスターの言った通り、こいつらは足止めの可能性が高い。おい、どうなんだ?」


 槍を構えた御者は黙ってこちらを睨みつけたままだ。


「尋問する?」

「いや、安全を考えてさっさと砦まで行く。放っとけ。砦で報告すりゃいい、行くぞ」


 馬を駆り、馬車へ向かうダズに続く。

 これでいい。

 下手に尋問して巫女のことを口走られるのは困る。

 こいつらが別の目的だったなら尚良いが。


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