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王都へ 21

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 街道を突き進んだ俺達は、小さな砦を行く手に見つけた。

 王国兵が駐屯する砦だ。

 砦横の見張り台から、兵士がこちらを見ている。


 馬車を停めると、兵士に向かってダズが既に説明を始めているところだった。

 エイゼルさんが近付き、兵士に書類を差し出す。

 更に先頭の馬車の幌を上げ、中の品を説明しているようだ。


「軍需品の移送を行うブロンズ商会の馬車を襲うとは、一大事だ。すぐに王都へ早馬を出し、知らせよう」

「付近の砦からも、増援を集めます。この先、こちらからも警護を付けても構いませんが」

「いえ、ここから先駆け抜けるつもりですので、お構いなく」

「わかりました。すぐに王都に入れるよう、私からも一筆書いておきますので、守備兵に見せて下さい」


 ブロンズ商会の旗よりも、おそらくネイハム様のサインが入っているであろう書類が効いたのか、兵士は全面的にこちらを信用してくれたようだ。

 本街道で行われた戦闘など最近ほとんど聞かない。

 これはきっとレプゼント国内の商人達の間で大きな話題となる。


 現場を確認するため数騎がルンカト方面へ、早馬が王都方面へ出ていくのを見ながら、残りを走破するため砦で小休止させてもらう。

 馬車や馬は見ておくので中で休んでもいい、と言われたが俺とエイゼルさんは離れるわけには行かない。

 外の空気に当たりながら休憩する、と言って砦裏の馬場へ向かう。


「エイゼルさん、ありがとうございました」

「私は何も」


 小さく会話を交わす。

 案内の兵士が去ったのを見届け、エイゼルさんは荷を点検するかのような素振りで荷台へ入っていく。

 シーティアやオーレに説明しているのだろう。


 厩のそばにある井戸から水を汲み、上半身裸になると頭から水をかぶる。

 探知の霧の中で振るった剣が馬の肉を切り裂く感触が、己の体を切り裂いたかのような生々しさで残っている。


 俺が接近戦を好まない理由の一つでもある。

 ダズの追っていた騎兵の馬を転倒させた時のように、ナイフなど投擲武器で遠距離で戦うのが俺の戦法なのだ。


 が、戦場でそれだけやっているわけにもいかない。

 尽きてしまえばそれまでだし、敵の攻撃を防ぐにも剣は必要だ。

 とにかく、上手くやれたのだ。

 水を被った頭を振り、思考を追いやる。






 街道の随所に建設された砦は、早馬が知らせたのかどこか慌しい動きを見せていた。

 王都が近付くにつれ、合流してくる支道の数も増えていく。


 やがて王都を守る巨大な城壁が見えてきた。

 門の前には、兵士の検閲を受ける馬車が数台並んでいる。

 この城壁は王都周辺をぐるりと囲む防壁であり、ここから更に街道を進み、ようやく王都の城下町に着く。

 兵が多い。

 武装も、俺の記憶より重武装な気がする。


 ダズとジェフが駐屯兵から預かった手紙とエイゼルさんの持っていた書類を見せると、検閲されることもなく、並ぶ馬車を尻目に門を通らせてくれた。


 もしかしたら早馬もこちらのことを伝えていたのかもしれない。

 ここまでくれば襲撃そのものは無いだろう。

 後は屋敷まで、2人を無事に送り届けるだけだ。



 

 ルンカトも大都市だが、王都の広さはその比ではない。

 傭兵団も警備に雇われているが、王都全域は正規兵が警備に当たり、平和と繁栄を謳歌している。


 中央に聳える白亜の巨城を中心に放射状に広がった都市は、ターゼントをいくつ飲み込めるだろうか。

 城壁までまだ余地を残したデイカントは、今後更に広がっていくのかもしれない。


「5番地区か、ちょっと歩くな」

「そうだね」

「さっさと送り届けようぜ」


 街の入り口には更に警備の兵士が立っていたが、先程と同じく書類を見せる。

 馬車の幌をめくり中を見せただけで通された。

 シーティアとオーレは街道砦で既に木箱のハリボテに戻っている。


 石畳が敷かれ広く平坦なデイカントの通りは、地面だけでも優雅さを伝えてくる。

 馬の手綱を引き、ゆっくり馬車に合わせて歩いていく。




 王都デイカントは7つの地区に区分けされている。

 1番から5番が住民区、6、7番が商業区だ。

 ただしルンカトと違い、住民区は住居以外にもたくさんの商業施設がある。


 6、7番が特別で、倉庫や工房、巨大市場や会議場など、王国の台所であり経済の中心となる特区という扱いなのだ。

 こちらは民間人の住居が無い。


 更に王城を取り巻く内周部分が貴族の館や兵舎となっており、城下とは堀で隔てられている。

 城壁から数層に渡り形成される王都デイカントは、その美しさと7地区を持つ城下町と相まって「虹の都」と呼ばれ、楽園都市の異名も持つ。



 馬を降り先導するダズとジェフには、商会に着くまで最後尾を守ると言ってある。

 ここで馬車から離れる気にはなれなかった。

 華やかな王都の街並みは美しいが、俺の気は晴れない。

 幌を見つめながら悩む。

 あの時、オーレを殴りつけるようにしてしまった。

 行動自体は正しい選択だった気もするが、もっと冷静に対処できたはずだ。


 探知で触れた彼女は、凛々しい姿とは裏腹に、弱々しかった。

 煩わしさしかなかった赤い布が、今は見たい。




 最後尾を歩く俺にも、ブロンズ商会本店の見上げるような建物が見えてきた。

 噴水や街路樹が彩る一等地に構えられた、王国有数の商業施設だ。

 通用門をくぐり、商会横手にある馬車着き場へ入っていく。


「ご苦労様です。早速荷の確認に入りますが、皆様少々お待ちください」

「怪我をされた方はおりませんか?」


 多数の出迎えが寄ってくる。

 ルンカトからの搬入予定で待機していたのだろうが、おそらく途中の襲撃が伝わっている。

 搬入口には場違いな、上等な服に身を包んだ人間が何人もいるのだ。

 その内の一人が紙を見ながら指示を出す。


「道中の襲撃について伺いたいので、えー、ダズモンドさんとジェフリーさんはこちらの彼について中にお願いいたします。御者の方は荷の確認を一緒に。3番馬車は担当の方とこちらにお願いいたします」


 男の指示に従いエイゼルさんが馬車を動かし、護衛の方も、と促されたので俺も着いて行く。

 離れた搬入口から奥へ進む。

 人気の無い倉庫の入り口で、男が切り出す。


「襲撃があったと聞き、気が気ではありませんでしたが、ご無事で何よりです。予定を少し変更して、3番馬車は馬車ごとネイハム様のお屋敷にお届けすることにします」


 この男が協力者か。

 エイゼルさんと頷き合う。


「すぐに、お願いいたします。襲撃の報を受けて商会の雇っている傭兵団も集まり始めていますので。お屋敷までの道は密かに人を配しておりますので、ご安心を」


 男は少しだけ幌を見つめると、左手で聖印を切り、俯き両手を組む。

 すぐに顔を上げ、さあ、と促す。

 エイゼルさんと共に再び街中へ急ぐ。


 コモーノさんとの打ち合わせで屋敷までの道順は頭に入っているが、エイゼルさんに任せ、手綱を引きながら周囲に気を配る。

 人が多いため、糸だけを出し片っ端から危険を探る。


 本店は堀に囲まれた立ち入り禁止地区に近い立地だったので、何事も無く兵士が警備する橋に辿り着く。

 堀の幅は10メートルくらいだろうか。

 澄んだ水は底を映し出しており、水深はそこまで深くない。

 水が上まで来ていないだけで、高さは這い上がるのに苦労しそうだが。


 エイゼルさんが詰め所から出てきた警備の兵に、先程商会の男から渡された書類を渡し、幌をめくる。

 箱を一つ開けると、鏃がぎっしり詰まっていた。

 兵士から許可証を受け取ると、橋を渡る。

 渡りきった先に再び門と詰め所があり、許可証を見せる。


「そっちの男は?」

「ルンカトから共に荷を運んできた護衛傭兵の方です」

「名前と、所属傭兵団を確認したい」


 傭兵の登録証は私物の背負い袋に入れ馬車に放り込んである。

 所属は一般だけどな。


 手綱を引き幌に近付こうとしたが、エイゼルさんが身振りで俺を押しとどめ、懐から革で綴じられた書類を兵士に渡す。

 受け取った兵士は書類を見るとすぐ、丁寧に閉じエイゼルさんに返した。


「バランダル将軍の御使者とは知らず、失礼致しました。どうぞ、お通り下さい」


 兵士が詰め所に合図すると、門がゆっくりと開いていく。

 王都には何度も来たことがあるが、開門した先は、俺も初めて入る。

 貴族と王国兵士専用の、正に王国の心臓部だ。

王都守備圏

 王都周辺は放射状に防衛線が敷かれており、一定間隔で王国兵が駐屯する小規模の砦が建設されている。併設された見張り台から周辺の監視を行うと共に、見張り台同士で連絡もしている。街道を行く馬車に対してはその「旗」などをチェックしており、不審があれば兵が出動する。

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