王都へ 16
「では、巫女様にこの者たちをご紹介いたします。レプゼント王国でも大きな商会で働いておりますコモーノと、巫女様の護衛を勤めるラスターです」
「お初にお目にかかります巫女様、コモーノと申します」
「ラスターです。よろしくお願いします」
俺とコモーノさんの会釈にシーティアも頭を下げる。
貴人というが礼儀正しいお嬢様のようだ。
オーレが話を切り出す。
「ネイハム様、明日の巫女様のご予定の確認を」
「はい。明日、巫女様は馬車に乗って頂きますが、王都までは馬車から出ないようお願い致します。窮屈な思いをさせてしまい申し訳ございませんが」
「いえ。お世話になる身です。ネイハム様のご指示に従います」
「オーレ殿、馬に乗ってラスターが馬車の傍におりますので、何かございましたら幌の隙間から赤い布をお出し下さい」
「わかりました」
「ラスター、いいな」
「はい」
この辺は打ち合わせ済みなので問題ない。
シーティアも馬車から出ないことは了承済みのようだ。
「王都までは6時間程を予定しております。王都に着きましたらラスターと共に私の屋敷へ向かって頂きます」
「ブロンズ商会から馬車を降りて徒歩で向かうことに変わりはありませんか?」
「はい、オーレ殿。そこは急いで行動して頂く必要があります」
「巫女様、ご質問はありますか?」
「いいえ。ネイハム様とオーレに任せていますから」
「では、巫女様にはゆっくり休んでいただきましょう」
オーレはそう言うと退出するよう促す。
シーティアに一礼し、部屋を出る。
仰々しい顔合わせだったな。
そう思っていると、オーレが部屋から出てきており、無言で手招きした。
扉から少し離れた場所へ移動する。
「ネイハム様、いくつか確認したいことが」
「なんでしょうかな、オーレ殿」
「ラスター殿はこちらの事情も把握して頂いていると思って良いのでしょうか」
そちらの事情? なんだろう。
ネイハム様も少し考える素振りを見せる。
「それは、巫女様のお心を痛めるようなことは極力伏せるということですかな?」
「それもあります。それは理解していただいているということで宜しいのですね」
そう言って俺を見てきたので頷く。
ただし、何故シーティアにそういった危険を伝えないかの理由までは知らない。
「ラスター殿、あなたは女神様の教えをきちんと理解しておられますか?」
これはまずい。
別に護衛以外で関わるつもりも無かったので、予習などしていない。
あー、などと誤魔化しながらネイハム様を見る。
ネイハム様も困り顔だ。
「ラスター、どうなのだ」
「まあ、その。正直に言いますと、あまり詳しいとは言えないかもしれません」
オーレは無言で俺を見つめている。
しかし、俺が責められるようなことじゃない。
女神信仰は強制するものではない、とその教義にも定められているのだ。
「わかりました。いいでしょう。ラスター殿、用がある時は必ず私に言ってくださるようお願いします。決して巫女様には話しかけぬよう」
おお、人を悪い虫みたいな扱いするな。
しかし礼拝所を便所代わりにする男と見抜いたのだろうか。正解だ。
「それと、万一の場合ラスター殿にどこまでお任せして良いのですか?」
「どこまで、とは?」
「多勢に囲まれた場合、巫女様をラスター殿に預けて逃げていただくのは構いません。しかしその判断や、どの程度までなら対処できるかなど、私は知りません」
これは当然の疑問だな。
ネイハム様以上に、オーレは俺の実力を確かめたいに違いない。
できることならオーレも騎乗で警戒したいだろうが、もちろんオーレは素性が割れているので顔を見せられない。
「その逃げる場合ですが。オーレさんに馬に乗って貰ってシーティア様と逃げてもらうっていうのはダメなんですかね?」
「貴様……」
良かれと思ってした発言だったが、オーレの態度が豹変した。
相変わらず綺麗は綺麗なのだが、その顔は凍りつくほど恐ろしい。
「ラスターさん、巫女様の名前をお呼びするなど」
コモーノさんが慌てて俺の袖を引っ張ってくる。
え、もしかして女神と同じ扱いなの?
女神システィアの名を呼ぶのは不敬だとされている。
教会や礼拝所など、女神を祀る神聖な場所以外では、食事を取る人の口に乗せることは禁忌なのだ。
だから皆、普段は女神様としか言わず、教会や礼拝所で祈りを捧げる時のみ、その名を口にする。
俺は信者を教会に呼んで寄進を増やすことが目的でこんなルールを作ったと睨んでいる。
「それにな、ラスター。オーレ殿は騎士であらせられる。きちんと敬称を付けぬか」
それは聞いてないぞ。
俺はネイハム様を非難がましい目で見るが、ネイハム様は腕組みし目を閉じている。
確かに人間は穢れているようだ。
しかし騎士とは、また随分と古風だな。
昔ならいざ知らず、名誉爵位でしか生き残っていない称号にすぎないはずだ。
貴人の周りもまた貴人か。
「知らぬこととはいえ、申し訳ありませんでした、オーレ様」
「……いえ。巫女様が仰られたように、信仰は強制するものではありませんので。私こそ先程の暴言を詫びます、ラスター殿。ただ、今後巫女様のお名前は呼ばないようお願いいたします」
「はい、承知致しました」
「それと、私には巫女様のような様付けはおやめ下さい」
「では、オーレ殿と呼ばせて頂きます」
更にネイハム様にいくつかの確認をしたオーレが、扉から部屋へと戻っていく。
ようやく堅苦しい雰囲気から開放され、試験終わりの休憩時間のように俺は背を伸ばす。
「戻るぞ」
ネイハム様に続き再び迷宮を歩く。
先頭をエイゼルさんに譲り、ネイハム様が俺の横に下がってきた。
「災難だったな、ラスター」
「聞いてませんでしたからね。巫女様のことも、騎士のことも」
「オーレ殿のことについては、謝るしかないな」
そう言って笑う。
「まあ怒るな、ラスター。それにな、堅苦しくてお前は好かんだろうが、オーレ殿は18歳という若さで巫女様の騎士を務めているのだ。お前の方から、合わせてやれ」
そんなに若かったのか。
巫女様が女性である以上、側仕えが女性なのは分かるが。
うーむ。
話しかけるなと言われたが、どうせ話すなら巫女様のほうが良い。
好みがどうとかいうことじゃないぞ。
それに、うやむやになったが何故2人で逃げればいいという俺の提案は却下されたのだろうか。




