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王都へ 3

 マチルダさんに依頼を受けると告げ、朝一番で役場に向かった俺はアンナさんに受諾を伝えた。

 夕方で募集は締め切られるので、なんとか今日一杯は罪悪感に耐えてくれるようだ。

 いつもの倉庫作業を休んだ俺は、市場へ向かいながら考える。


 文面は至って真っ当なものだったが、不審な点が多すぎる。

 若干名というなら、大都市ルンカトがあるのにわざわざターゼントで依頼を出す必要は無い。

 そもそもお抱えの傭兵団が限度一杯まで人手不足に陥っているだろうか?


 俺を使いたい理由もわからない。


 コモーノは週2回ここに来るのに、昨日直接俺に声をかけなかったのも、ルンカトのブロンズ商会に直接来るようにとの条件もおかしい。

 考えてもわからない事だらけだ。

 まいいや、と考えを放棄することにする。






 しばらくターゼントを留守にする、と市場で挨拶をすませた俺はルンカト行きの乗り合い馬車に乗り、ゴトゴトと揺られている。


 足の遅い乗り合い馬車だと、3時間近くかかるだろうか。

 通常の馬車より大きな4頭立ての馬車の荷台は、俺の他に6人の客と手荷物が乗っている。

 結構高額なのだが、費用はくれるので問題ない。


 暑いので幌はめくり上げられ、頂点部分で日光を遮る程度の幅にまとめられている。

 ゆっくり流れる景色は特に見所があるわけでもなく、南部の住人には退屈極まりない。

 この街道は治安も良いので危険も無いだろう。

 

「おらぁルンカトへ娘夫婦に会いにいくんだがよ」


 同じように退屈だったのか、隣の客が話しかけてきた。


「あんたさんもルンカトかい」

「ええ。出稼ぎってところですかね」

「ほおん。どっからかいの?」

「ターゼントからですよ」

「おらからすればターゼントも充分都会なんだけども。んまあ、あっこは若いもんには似合いの場所なんだかね」


 田舎から来たのだろうが、身なりではわからない。

 ターゼント南部の村の住人は堅実な暮らしでそれなりに豊かな生活を送っている。


「都会はあんまり好きじゃないんですか?」

「嫌いってほどじゃねぇけども。人が多すぎて疲れちまわ」


 その意見には頷ける。

 ラスターが傭兵団の所属になりきれないのも、1つには集団の中に身を置きたくないという気持ちがあるからだ。




 探知の魔力は範囲内に情報が多い程、否応なしにラスターへとその情報を運んでくる。

 動きや形を捉える程度の情報ならば、ただ感覚として伝わってくるようなもので負担というほどのものではないが、密集状態はまずいのだ。


 危険を察知したところで、それが至近距離なら対応しようがない場合もある。

 ラスターの能力を活かすならば、単独かもしくは少数が望ましいのだ。


 傭兵団の場合、誰かの指揮下で動くことに抵抗がある。


 回避こそがラスターの真骨頂であり、危険に飛び込んで打破するとなれば、それは他の傭兵と同じく素の能力任せと言っていいからだ。


 もちろんそれでもラスターは知覚、判断面で大きなアドバンテージを有している。

 しかしながらそれゆえに、指揮官の判断にただ従うよりも有効な道が見えてしまい、独断行動と言われかねない動きをしがちなのだ。


 傭兵団の仕事が危険といっても、年中戦ってばかりいるような傭兵団など知らない。

 探知を使う状況がそこまであるわけでも無いし、素の能力だけでもかなりいけるとは思う。だけどこの能力を腐らせるような環境にもいたくない。


 どこかにもっと自分が生きがいを感じられる場所があるのではないかと、どうしてもそんな思いがつきまとうのだ。




 屋根裏から持ってきた荷物は少ない。

 傭兵の仕事に赴く際に必ず持っていく数点の品と、財布、マチルダさんが持たせてくれた弁当。茶色い革のブーツに厚手の黒のズボン、灰色の薄い長袖のシャツに丸めたコート、替えのシャツ。

 久しぶりの一張羅だが農夫と思しき男のほうが立派な格好といえるだろう。


 そりゃあ、2年もその日暮らししてりゃ、な。

 はあ、とため息を吐いてしまう。

 護衛任務も気が重い。

 手に余る危険が迫っても逃げられないというのは正直怖さもある。

 だけど今回は、やると決めたのだ。



 馬車の揺れが小さくなり、広く整備が行き届いた街道に出ると、しばらくして一気に視界が開ける。

 いくつかに別れた街道を馬車が行き交っているのが遠目に見える。


 平野の先にそびえる国境都市ルンカト。

 その威容は、みすぼらしい自分を拒んでいるかのように思えた。

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