王都へ 2
「ラスター、事務所にきてくれ」
そう言われたのは昨日のことだ。
いつもの倉庫作業の休憩中、市場の職員からそう告げられた。
倉庫作業から役場チェックは俺の行動パターンのうちの1つだったが、昨日は違った。
そして今、朝を迎えた俺は珍しく市場の仕事を休んでいる。
「はっきりとはわかんないんですけどね。1週間とか、それより長いかもしれませんし」
「いいじゃないか。行っといでよ」
パンッ! と、大きな音を立てシーツを干しながらマチルダさんが言う。
「アンタだって、いつまでもここに居る気は無いんだろ?」
「……まあ……」
逡巡した俺の言葉に、マチルダさんはふくよかな体をクルリと回転させる。
「シャキッとしなよ。そりゃアタシは構わないよ。いつまでだってウチに居てくれても」
腰に手を当て俺の顔を見上げ、叱咤する。
マチルダさんの家の庭は、洗い物とパンの焼ける匂いに満ちている。
「ご両親だっているんだろ? 立派になった姿を見せてやんなきゃ、お天道様に顔向けできないじゃないか」
耳が痛い。
「アタシにも、ついででいいから見せとくれよ」
笑いながら台所へと戻っていく。
そうか。
毎日丁寧に洗われる真っ白なシーツが、パタパタと風にはためいている。
よし、やるか。
昨日事務所へ向かった俺は、驚くことにコモーノさんからの伝言を受け取った。
終わり次第すぐに役場へ行き、一般傭兵への依頼を確認してほしい、と。
はてなと思いながら役場へ向かった。
「アンナさんこんにちは」
「こんにちは、ラスターさん」
受付にはいつものアンナさんがいた。
「あ、いつもの依頼の確認なんですけど」
「ちょっと待ってくださいね」
そう言うと彼女は立ち上がり俺を手招きする。
役場の受付カウンターから横の相談窓口へと俺を誘い、奥の机に座らされた。
書類を手に戻ってくると、彼女は俺の横に座る。体が密着する程近い。
「一般依頼として今朝一件来てます。ブロンズ商会からです」
小声で言う。
「なんですけど。これ、他の人には見せないでほしいって言われてるんです。ラスターさんにこっそり見せてほしいって」
「え、誰に言われたんですか?」
「この依頼を直接ここに出しに来た方。ブロンズ商会の方だって」
アンナさんも当惑したように眉をひそめて俺の顔を見る。
どことなく蠱惑的な表情に思わず唾を飲み込む。
イカンイカン、人妻の色香に酔っていい場所でも時間でもないぞ、俺。
「あー、一応心当たりはあるんですけど。良くわかってませんが」
「私もこんなことは初めてで。隠してコッソリなんていけない事なんですよ、ほんとは」
それ以上俺を刺激するんじゃない。
とにかく、内容を詳しく見てみる。
・ルンカト――デイカント間における交易馬車の一時増加に伴う臨時便の護衛の増員。
・一般傭兵若干名の募集。募集期間は2日間。
・募集要項は以下――
見たところごく普通の臨時募兵にしか見えない。
俺にだけ見せたいなら何故役場に一般依頼で出したんだ?
先日のコモーノ襲撃事件のことが頭をよぎる。
「どうされますか? 受けますか?」
わからないことが多すぎる。
しかし、ここは受けなければいけない気もする。
今まで役場に足を運んでいたのが、ただのポーズに過ぎなかったなどと思いたくない。
ひとまず写しを貰い、役場を出る。
アンナさんは困っているようだったが、明日の朝一番に来て返事をすると言い、それまでは隠匿してもらうよう頼んでおいたのだ。
そして一晩悩んで朝になった。
未だ決めかねていた俺の背中を、マチルダさんは暖かな手で押してくれたのだ。
実にあっさりと。




