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扉の先の意外な人物

 人は本当に退屈な時、立ったままでも眠れるのだ。


「……すぅ」


 ストーブの温かさも感じられぬほど冷え切った体育館。百何十名が整列し、壇上では一秒が長く感じられるような校長の話。ほとんどの生徒は寒さに足踏みしたり、身体を擦ったりしていると、これまたお決まりの体育教師の一喝。


 体育館に響く怒声なんて知る由もなく、透理は直立不動のまま意識は夢の中。


「おい、貴様等ッ! 校長先生が話されているんだぞ! もっと、シャキッとして話を聞けぇいッ!!」


 体育教師が声を張り上げていようが、校長はゴニョゴニョと何かを話していた。


「え~、であるからにして……若き有望なキミ達――」

「そこぉ! 携帯を弄るなァ! 三組のお前、お前だよッ!」

「え~、冬休みといえば、私も若き頃は――」

「二組の女子、誰の許しを得て寝てるんだッ! 起きろ、起きろォ!」


 一向に起きない透理を体育教師は、自前の竹刀の先を床に叩きつけた。顔を真っ赤に染めた鬼の形相で、体育教師が生徒の間を割ってズカズカと歩み寄る。


「貴様ァ……俺の声が聞こえていないのか? 教育だッ!」


 相手は女子。加減はするのだろう。振り上げられた竹刀が勢いよく透理の頭頂部を打つ。


「あいたッ!? え……なに?」

「校長先生の話し中に、なにを馬鹿面して寝ていると言っているんだ!」

「あっ、体育教師の岡部か。流石に竹刀で殴るのは酷くない? これって体罰だよね。今時流行らないし、ボクがお偉いさんにチクったら定職とか退職になっちゃうんだよ」

「うぐっ……い、今の教育指針が狂っているんだ! 体罰は虐待だと? ふざけるな。こんなんだから、こういう出来の悪い子供が社会に進出していくんだ」


 なにやら、一人ブツブツと語り始めた体育教師の岡部。透理は痛む頭を押さえつつ、めんどくさそうに目の前で教育のなんたるかを語り始めた岡部を半眼で見据えてやる。


「岡部先生、そんな所に立たれると校長先生が見えないんだけど」

「んなっ!」


 言われてようやく我に返った岡部は振り返り、壇上の校長先生としかと視線が合う。


「岡部君。キミは生徒に対し暴行を働いたね。いやはや、いけないね。という事で一カ月の謹慎処分だ」

「そんなッ!? 校長先生、私は教育者として生徒を正しく導かねば……」

「キミはうら若き女生徒に手を上げたのだよ。日本男子が女性に対し、手を上げるとはけしからんとは思わぬか?」

「…………」

「さぁ、分かったら下がりなさい。それと、津ケ原透理さん。後で荻先生と一緒に校長室へ来なさい」

「……はい」


 透理は頭頂部に小さな瘤を作り、終業式は無事に幕を下ろした。


 胃がキリキリして苦笑する荻と、まったく何も気にしていない透理は二人そろって校長室へ呼び出された。そこから、校長先生の有難迷惑な説教が一時間ほど続く。


「はぁ……津ケ原さん。一緒に呼び出される私の身にもなってくださいよ。先生は安月給なんですよ? 校長先生に叱られている時間はサービス残業なんですからね。お給料と割に合いませんよ」

「ははは、ごめんって。冬休み明けに何かお土産持ってくるからさ、それでチャラにしてよ。というより、怒られたのって最初だけじゃん」

「ははは、媚びへつらえばなんとかなります。おや? それより、津ケ原さんがお出掛けとは珍しいですね。旅行ですか?」

「せっかくの休みだし、青春を謳歌する為にも何処かに行こうかなってね」

「そうですか。それはそれは、楽しんできてくださいね。先生は和菓子より洋菓子の方が好きなんですよ。知ってましたか?」

「え~、知らないよそんな事。でも、うん。洋菓子だね。覚えてたら何か買ってくる」

「忘れないでくださいよ。あっ、そうだ。先生と連絡先を交換しましょう。催促のメールを一日一件送りますから。ね、それなら忘れませんよね?」

「…………」

「あ、嘘ですよ。冗談ですからね、ははは」

「冗談に聞こえなかったなぁ。まぁ、いいや。大丈夫だよ。先生には迷惑かけちゃったし、ちゃんと買ってくるって」

「えぇ、もちろん先生は何の心配もしてませんから。津ケ原さんは勉強は出来ませんが、約束はちゃんと守るいい子だって、先生は知ってますからね」

「荻先生、サラッとボクのこと馬鹿にしたよね?」


 荻はとぼける風に首を傾げて屈託なく笑う。この教師はいつもそうだった。飄々としていて、気付いた時には相手の心に踏み入っている。敵を作りにくい天性の才能を持っているのだ。先程の校長から呼び出され説教を受けていた時もそうだ。最初は頭ごなしに怒られていたかと思えば、途中から校長の趣味であるゴルフの話に切り替わっていた。そのきっかけを作ったのは、怒られることに辟易とした荻の一言だった。


「荻先生って、結構油断ならない人だよね~」

「え、何のことですか?」


 すっとぼける荻。


 職員室前で荻と別れ、透理は智美を下駄箱で待たせているので急ぎ向かう。


「あっ、透理。すごぉく待ったんだけど。ちゃんと埋め合わせはしてくれるんだよねぇ?」

「ははは、しょうがないなぁ。じゃあ、コンビニのおでんとか?」

「ぶっぶー。センスないよ。寒い中ずっと待ってた私の身を心配してくれるなら……ね?」

「はいはい。承知してますよー。どうせ、焼肉でしょ?」

「ビンゴ!」


 透理と智美は館里駅より徒歩数分の所にある行きつけの焼き肉屋でランチを食べることになった。そう、二人でお肉を食べて談笑するだけだったのだが――。


「……え?」

「ん……いらっしゃい、トゥリ」


 透理は我が目を疑った。


 焼肉屋の扉を開けた目の前――メニュー表を持った銀髪の見た目、中学生くらいの少女が出迎えたのだ。互いに知った顔だ。透理がその場で固まっていると、後ろから智美が「寒いんだから、早く入ってぇ~」と背中を押してくる。


「トゥリ、お腹空いた? 席、案内する」


 銀髪の少女――ウォルは、透理の袖をチョコチョコと引っ張る。


「え……あ、えぇ~」


 目を白黒させつつも席に誘導され、智美と対面で席に着く。もちろん智美は、初めて見る外国人の店員に目を輝かせている。


「メニュー。食べたいもの言って。私、持ってくる」


「はいはぁい! じゃあ、ランチ二つお願いしまぁす!」

「店長、ランチ二つ。ストーブ付けて」

「がははは、透理ちゃん驚いてるみたいだな。つい昨日雇ったんだ。なんでも、お腹は空いたけどお金が無いらしくてな。ウォルちゃんは二十歳だから、雇用しても問題ない。それとウォルちゃん、これはストーブじゃなくて、炭火なんだぞぉ」

「店長、優しい。美味しいお肉持ってる」

「おいおい、お腹触んないでくれよぉ。恥ずかしいだろ、こんなデブ腹」


 完全にデレデレしていた。


「ま、待ってよ! ウォルが二十歳? 絶対うそでしょ! ちゃんと確認したんだよね? もし、十三歳とかだったらどうするの? 警察に捕まっちゃうよ!」

「店長、虐める奴、私、許さない」


 透理は背筋にゾクッとするものを感じた。


「あ……うん。程々にね」


 透理は諦め――自分とは一切関係ありませんという顔をした。

こんばんは、上月です(*'▽')


はい! 最新話の投稿となります。出来れば二日に一話のペースで投稿したいとは思っているんですが、流石に無理そうです(^^;


なるべく早めに投稿できるように頑張っていきますので、是非とも最後までお付き合いくださいませ!


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