公爵様がおっしゃるには
女の人の名前が『アンドロメダ』さんに決まったから、お次は住むところですね。
「ベガとアルタイルはもう転生して、ここのうちの子だからねぇ」
腕組みし、今生の父である村人さんを見るメグちゃん。
「アンドロメダお母さんも大事ですが、やはり今の父と母も大事な親です」
「そりゃそうだ。だからと言って、みんなで一緒に暮らすわけにもいかないしねぇ」
ベガの言うことにもっともだと肯きながらも苦笑するメグちゃんです。う~ん、とみんなでいい案はないかと眉間に皺を寄せていると、
「あの……私はどこでもいいんです。この子たちにこうしてまた巡り会えただけでも幸せなことなのですから。この子たちの近くに居れさえすればそれで充分です。今のご家族の邪魔をするわけにもいきませんし。このまま村の片隅かどこかでひっそりと暮らせれば、それでいいです」
おずおずとアンドロメダさんが言いました。
「ん~。正論ちゃ正論だけど」
「私はそれじゃああんまりだと思うわ」
「そうだな。オレもリサに賛成」
「そうですよ。せっかく巡り会えたんですから」
メグちゃん、私、ショウくん、そして子供たちの父親も口々に言い募りました。やっと巡り会えたというのに! 薄幸すぎてまた泣いちゃいますよ、私!
「アンタん家の近くにいい物件はないの?」
メグちゃんが子供たちの父親に尋ねました。
「探せばあると思います。……土地はありましたが」
「ならショウがぱぱーっと建てちゃうわ」
「て、オレですか! まあ、いいけど」
「村の中心部ではちょっとどうかと……私のようなものは村の隅で十分です」
「アンドロメダさん! そんなこと言わないで!」
「そうよ。もう隣接しちゃいなさい」
「隣はもう隣人がいます……」
「じゃあ退いてもらいましょう!」
「って、メグちゃん、横暴過ぎ!!」
あーじゃこーじゃと色々と議論が白熱しているところへ、
コンコンコン。
入り口扉が軽快にノックされました。
「あ、オレでます」
と、ショウくんが立ち上がりました。最近すっかりお出迎え役はショウくんです。おかしな人の急襲に懲りてますからね。
ショウくんに案内されて入ってきたのは40代半ばくらいかと思われる、見るからに上等な服を着た紳士でした。身なりは上等ですが、お付きの人は見当たりません。お一人様で、ひょっこりと現れた感じです。
綺麗に手入れされた髭が貫録を見せつけていますが、全体的に整った綺麗な顔立ちです。
穏やかな深い青色の瞳が静かにこちらを観察してきます。
「こんにちはー。今日はどういったご用件でしょうか?」
トリッパー様ではないので、通常の営業スマイルで用件を聞きます。
私はこの紳士様の接客をするために、入り口のデスクに戻ってきました。お仕事ですからね!
「ああ、今日は求人に来たのだが。私はケンタウロス公国のリゲル・ケンタウリ公爵だ」
男の人が名乗りました。って、ひえ~~~!!! 公爵様直々に『魔女☆メグの家』まで求人ですか!! 偉い人は、普通、自分たちのところにメグちゃんを呼びつけて求人とか用件を済ますか、あるいは使者を立てるとかするんですけどね。暇か? 公爵様は暇なのか?
そんなことをつらつらと思っていたのですが、
「あら、公爵様。お久しぶりでございます」
にこやかにメグちゃんが奥から出てきました。
「おお、メグ殿。久しぶりですな。今日は求人に来たのだよ」
「まあ、お忙しいのにわざわざ?」
「たまたま近くまで来たもんでね。たまにはと思って」
「それはありがとうございます」
何気にふつーに会話してます。公爵様もにこやかにお話してます。旧友か何かですか? しかしメグちゃん、公爵様ともお知り合いだったんですね~。さすがですよ。そのコネクション、ハンパないっす!! そして、公爵様。やっぱり忙しい方だったんですね。暇人かと疑ってしまいまして申し訳ございませんでした。
「おや、来客中でしたかな?」
奥の方をひょいと覗き込み、公爵様は言いました。奥にいる皆さんは、黙ってこちらを伺っていました。
「ええ、ちょっと」
メグちゃんも公爵様の視線を追って奥を見ました。
「そうかい、それは邪魔をして悪かったね。私の用件は急ぐものじゃないから、また城の方についでがあれば寄ってくれ」
「ええ、わかりましたわ」
「では、みなさん。邪魔をして申し訳……」
公爵様は優雅な動作で立ち上がり、奥を見ながら挨拶をして出て行こうとしたんですが、アンドロメダさんと目が合ったところで止まってしまいました。
アンドロメダさんも目をいっぱいに見開いて止まっています。
私は二人に視線の間に挟まれてしまって、なんだか居心地が悪いのですが。私、二人の視界から消えました?
しかし公爵様? アンドロメダさんの美しさに一目惚れでもしちゃいましたか? アンドロメダさんも、公爵様のカッコよさに釘付けになっちゃいましたか? 公爵様は私のストライクゾーンから外れているので、イマイチよさはわからないですけどね~。カッコイイとは思いますよ? いわゆるナイスミドルっちゅーやつですか?
「貴女は……何というお名前ですか?」
しばらく固まった後、公爵様がやっとこ絞り出したセリフです。
「アンドロメダ……ですが……」
先程付いたばかりの名前を名乗るアンドロメダさん。柳眉を下げて不安そうです。そんな母の手を両方から握り締めるベガとアルタイルは、健気にも支えようとしているようです。
「なんて美しい人なんだろう。ぜひ私の奥さんになってもらえませんか?」
ええっ? まさかの一目惚れですか?!
今日もありがとうございました(^^)




