勇者サマ召喚
ものすごく開いてしまいました…… ゴメンナサイ!
「じゃ、行ってくるわ~!」
「「行ってらっしゃ~い!」」
メグちゃんが転移の魔法陣を展開しました。トリッパー様を送っていくのです。
そして私とショウくんはお留守番です。
ここのところ立て続けに私に厄災が降りかかったものですから、私が一人でお留守番することや外出することはなくなってしまいました。
リサ、20歳なんですけどね~。すっかりお子ちゃま扱いですよ。二人ともどんだけ過保護なんですか。まあ、防御の魔法すら使えない私が悪いんですけどね~。なんでこっちの世界に来るときに特殊能力を付加してくれなかったのかしら? 神様ってば不公平ですね~。
「さてと。ショウくん、お茶飲む~?」
「あ~、オレ淹れるわ。リサは仕事あんだろ?」
「うん。リストチェックしておかないと。……なんでだろねぇ。最近『勇者サマ』っていうカタガキの召喚者さん、多くない?」
私は机に座り、今日のリストに目を落としながら言いました。今日もこれから3名様ほどいらっしゃいますよ。『勇者サマ』が。どこのゲームですか! てゆーか、そんなにたくさんの勇者サマをどうするつもりなんでしょうね? まあ、召喚しているのは別々の国ですが。
「聞いた話だと、なんか最近魔獣や魔族が増えてるらしいわ。ついでに魔王と呼ばれる人物もポチポチ出てきたらしい」
ことり、と私の前にお茶の入ったマグを置きながらショウくんは説明してくれました。
「へ? でも『魔王様』って何人もいるモノなの??」
『魔王様』っていったらゲームとかではラスボスとかじゃないんですか? 何人もいちゃありがたみがないというかなんというか……
「まあな。『火の魔王』とか『水の魔王』みたいな感じ? 例えて言うなら知事のような」
うーん、と腕組みして首をひねり、私に解りやすいように説明してくれるショウくん。
さすがショウくん、解りやすいです!
「へ~。そんな、何人もいるもんなんだ。じゃあそのボスとかは何になるの? 大統領レベルは」
「大魔王」
「ふむふむ。響きだけでも悪そうだね~」
『大魔王』がいて『魔王』がいて『魔族』や『魔獣』がいるんですね! 『魔王様』ってだけでも強そうなのに『大魔王様』なんて倒せるのでしょうか?? くしゃみしたら壺に帰ってくれるとか、そういう雰囲気ではなさそうです。
その時。
「邪魔する。誰かいるか?」
という声とともに入り口扉が開きました。完全に開いたそこには、すらりと背の高いシルエットがありました。外の陽光が逆光になっていて、家の中からはその人の顔などが判別できなかったのです。
「あ、トリッパー様ですか? どうぞお入りください」
すぐさま私は営業スマイルを貼り付けました。
「失礼する」
そう言ってトリッパー様は扉を閉め、室内に歩を進めました。
こちらに近付くにつれ、その容姿が判るようになってきたんですが、まあ、一言で言えばイケメンですわ。サラサラの金髪は、濃くも薄くもなく金色。肩を少し過ぎたくらいの長さです。前髪も、少し目にかかるくらいの長さで、そこから見える瞳はエメラルド。深く澄んだそれは、見る者を魅了するのでしょう。あ、私は全然ときめきませんけどね~。
私の前まで進んで、机を挟んで対面しました。
「え~と、まずはお名前はわかりますか?」
いつもの手順で私は質問します。手順はいつもと同じなんですが、なぜか今日はショウくんが後ろに引っ付いてます。首に手をまわさないでください! お仕事中ですから!
仕方なくショウくんを背中にくっつけたまま仕事をします。
トリッパー様は、そんな私たちを呆れた目で見ながら、
「フォーマルハルトと申す」
簡潔に答えてくれました。
「フォーマルハルトさんですね? えーと……ありました、アルデバランの召喚者様ですね」
リストを繰ると、すぐさま彼の名を見つけることが出来ました。そして、
「ああ、勇者サマとして喚ばれたんですね」
彼のエメラルドを見上げながら、私はにっこりと微笑みました。でもフォーマルハルトさんはにこりともしてくれません。
「勇者かどうかは知らないが、部隊で訓練をしている時にいきなりこうなった。どういうことか説明してほしい」
せっかくのイケメンさんなのに、そんなに仏頂面しなくてもいいと思うんですけど。それに、私に説明を求められても困ってしまいます。
とりあえず、私の知り得る情報はお伝えしておきましょう。
「アルデバラン国があなたを召喚したんです。今、アルデバランは魔王の侵略の危機に瀕しているらしく、国を救ってくれる勇者を必要としたようです」
すると、その情報が気に食わなかったのか、
「なぜ自国で対処せんのだ?」
フォーマルハルトさんの柳眉がくいっと持ち上がりました。そんな剣呑な雰囲気出さないでくださいよ~。私の営業スマイルが「ぴきっ」と音を立てて引きつるのが解りました。
彼の不機嫌さにビビりが入ってきた私に代わり、
「自国で対処できるような相手じゃないんですよ」
私の頭の上から顔を出したショウくんが、私の後を引き取ってくれました。ほっ。
「オレが役に立つかどうかわからんじゃないか」
「いろいろと条件を絞って召喚してるから、あなたはばっちり適合者だったんですよ」
「はっ! くだらん」
「それに、こっちに来るときに特殊能力もたんまりとついてますよ?」
ショウくんも、メグちゃん同様、相手の能力をしか……げふげふ、スキャンすることができるんです。きっとフォーマルハルトさんに何かしらの能力を見出したのでしょう。
「特殊能力? なんだそれは」
「まあ、一番わかりやすいところで言うと魔法かな。あなたにはかなり膨大な魔力を感じるよ。それと身体能力。もともとかなり高い能力を持ってたみたいだけど、それがかなり増幅されてる。今まで召喚されてきた勇者の中では突出してるものがあるね」
フォーマルハルトさんの、剣呑に眇められたエメラルドをものともせずに、ショウくんが飄々と説明してくれました。
「魔法? ばかばかしい」
「まあ、慣れれば便利なもんだよ? 帰るにしても魔王退治に出かけるにしても、一旦はアルデバランに行かなくちゃならないですからね。試しに転移魔法でも使ってみればいいんじゃないですか?」
「……わかった。どうすればいい?」
「まずは『アルデバランの王城前に転移』と念じればいいと思いますよ。魔法の行使は人それぞれだから、そのうちあなたのやりやすい詠唱が解ってくるとは思いますけど」
「やってみる」
「オレたちも一緒に行きますんで、王城の正門前で落ち合いましょう」
「わかった。……アルデバランの王城の正門前に転移!」
半信半疑で詠唱するフォーマルハルトさんの周りに、転移の魔法陣が展開されました。そして、まばゆい光に彼の身体が包まれたかと思うと、魔法陣の消滅と共に彼の姿も消えていました。
それをじっと見つめていた私とショウくんですが、
「さ、オレたちも行かないとな」
と言うと、一度私から離れたかと思うとおもむろに抱き上げてきましたよ。お姫様抱っこですが、意味ワカリマセン。
「これ、必要ないでしょ」
「ほら、はぐれたらいけないだろ?」
「はぐれないでしょ」
「ま、気にしない」
「~~~~。ほら、メグちゃんにお手紙書いて行かないと」
ショウくんはテレパシーが使えないので、ここはアナログ(?)に置手紙です。
『トリッパー様を送って、ショウくんと一緒にアルデバランに行ってきます』
これでよし。抱っこされたまま書いたので、ミミズが這ったような文字になってしまいましたが、もう何も言うまい、です。
「ショウくん、OKだよ」
「りょーかい。しっかりつかまってろよ」
そう言うと、ショウくんは移動の魔法陣を展開しました。
今日もありがとうございました!! (^^)
ほんと、開いてしまって申し訳ないです……




