変化
目の前にある真っ赤な瞳は、今や燃え上がらんばかり。
ああもう、マジで乙女のピンチどころか散華確定です!!
R!! Rつけなくて大丈夫ですかっ!!
なんて現実逃避しかけたところで、
「なにやってんだーーー!!!!」
という怒号と、『ドオン!!』と何かがぶつかる音がしたかと思うと、私の上から重みが消えたのでした。消えたというか、正確に言うと吹っ飛んでいったんですがね。
「リサっ!! 大丈夫か!!」
そう言って引き起し、ぎゅっと抱きしめてくれるのはやっぱりショウくん。
「ショウく~~~ん!! 怖かったよ~!!」
恐怖からの解放でホッとし、ぎゅっときつく抱き付くと、
「そうだろう。もう大丈夫だからな。間に合ったか?」
優しい甘い声で、宥めてくれるショウくん。背中をゆっくり撫でられて、さらに安心する。
「うん、間に合った!! ふえーん!」
さらにぎゅーーーっと抱きつき、安心したと同時に、今まで出てこなかった涙が出てきました。
「ちょっと後ろに隠れてろ。ぼっこぼこにしてやるから」
私をそっと離すと、優しく頭をひと撫でし、それからおもむろに男の人を睨みつけました。
美形さんが怒ると迫力あるんですよ~。ショウくん今すっごい怖いです。アケルナルで暴れた比ではありませんね。憤怒ですよ、憤怒。
くっろいオーラが滲み出てきてます。
ショウくんは掌を男の人に翳します。
男の人も、先程は不意打ちで、かなり奥まで吹っ飛ばされていたんですが、すぐさま態勢を整えて、今やショウくんに対峙しています。
「グルルルル……」
低く唸り、重心を下にして、今にも飛びかからんばかりです。もはや人間というよりケモノです。
ショウくんの掌に、白い光が丸く集まってきています。
アケルナルの時にも見せた、必殺の攻撃魔法。(あの時は不発でしたけどね~)
さすがにトリッパー様を消し去るわけにもいかないですから、手加減はすると思うんですけど、それでもまともに喰らったら骨の2本や3本や4本は持ってかれるでしょうね。
男の人がショウくんに飛びかかるのと、ショウくんが攻撃魔法を発動したのはほぼ同時でした。
一発目の攻撃魔法で吹っ飛んだと思いきや、吹っ飛んだ先にもまた波動が来る。そしてまた吹っ飛び、そこでまた……。以下繰り返し。空中を吹っ飛ばされながらあちこちしてます。
文字通り『ぼっこぼこ』でした。
勝負の行方は、もちろんショウくんの圧勝。男の人は床にぐてーーーっと伸びてしまいました。
「ま、死んじゃいねーよ。気絶してるだけだ。骨はどれくらい折れてるか知らねぇけど?」
そう言いながら、ショウくんは男の人を縄でぐるぐると縛っていきました。
起き出してまた悪さをしないように。
「そっかー。大丈夫? 回復させとかなくて」
伸びてる男の人をつんつんとつついてみましたが、反応はありません。けど、脈は打っているので生きてはいますね。でも全然同情とか湧きませんよ!
「ああ、大丈夫だろう。自分で何とかするだろうさ」
ショウくんは、最後にぎゅーーーっと縛り上げてから、入り口近くの客室に、もはや縄でぐるぐる巻きの物体Xと化した男の人を放り込みました。
「できるのかな?」
その一部始終をじっと眺めていた私。この男の人は何だったんだろう? と疑問が湧きます。人間のような、そうでないような……。
「さぁ? リサを怖い目に遭わせたんだ。それくらいじゃ足りねーくらいだよ」
ふん、と鼻を鳴らしてショウくんは言い捨てました。
そして、まだ落ち着かない私を抱き寄せてくれました。
しばらくしてからメグちゃんが帰ってきました。
珍しくショウくんにくっついている私を見て、最初は驚いたんだけど、ショウくんから事情を聞くと、美しい顔を憤怒で歪ませ、くわっと目を開いて、
「私も2,3発殴らせてもらわなきゃ」
と、またこちらも黒いオーラを漂わせていました。
客間に転がされている物体X……もとい、男の人をスキャンしたんですが。
「珍しいこともあるわね。全然視えてこないわ」
客間でのスキャンを終え、リビングに戻ってくるや否や、メグちゃんは言いました。
メグちゃんは腕組みをし、首を傾げて、『はて』と考えています。
「メグちゃんに視えないことなんてあるの?」
今までそんなこと、見たことありませんでしたよ? 初めてのことに、私はキョトンとなってしまいました。
「たまーーーにね。とっても特殊よ。……ちょっと様子を見ましょ」
メグちゃんは顎に人差し指を当て、トントンとリズミカルに打っています。どうやらまだ何か腑に落ちないようです。
「怪我は手当しなくてもいいの?」
「そんなの平気よ。どうやら魔力はあるみたいだから、回復も早いと思うわ」
「ふうん」
そんな会話をしていた時でした。
「ワオーーーン!!」
犬? オオカミ? な遠吠えが聞こえてきたのです。客間から。
「「「??」」」
三人で顔を見合わせましたよ。あの部屋に犬はいませんからね。
「どういうこと?」
メグちゃんが言い、扉を再びあけました。
そこには、解けた縄の上に横たわる、濃茶色のオオカミがいたのでした。
「は? 変化?」
目を見開いたショウくんが言いました。
「みたいね」
メグちゃんが答えます。
「変化って何? あ、満月だから、狼男?」
私は話が判らなくて、ちょうど窓の外に見えた、上ったばかりの満月を見て、思いついたことをそのまま口にしました。
すると、
「ああ、満月なのね。そうよ。狼男だわ。だからスキャンしても視えなかったのよ」
同じように、窓の向こうの満月を見ながら、メグちゃんは言いました。
「なんで狼男だったら視えないんですか?」
ショウくんが聞きました。
「そもそも獣や魔物としてこちらに転生してくる場合、前世でよっぽど罪深いことをやってきてるのよね。だからもちろん記憶もない。で、狼男みたいな半人半獣だと、中途半端な悪人ってとこかしら。しかし、完全なる人間じゃないから記憶はもちろんない。だから視えなかったのよ」
メグちゃんが説明してくれました。
「ははぁ。なるほどね」
ショウくんが納得いったように、コクコクと肯いています。
「そんなトリッパーを普通の村や町に定着させるわけにもいかないから、ヘルクレス国に預けるのが一番ね」
「あの軍事国の?」
「そう。あそこなら更生プログラムがばっちり完備されてるし、腐った根性も叩き直してくれること請け合いよ」
ヘルクレス国。軍事国家で有名なその国は、決して好戦的な国という訳でなく、どちらかというと大陸シリウスの監獄のような感じです。悪事を起こした罪人が流されるところなので、『ちょっと根性叩き直してきます☆』的に行く場所ではない。決してない。
そんな定着先を考えるメグちゃんは、やっぱり激怒してるんだわ。
「朝になったら、ショウ、こいつをヘルクレスに送って行ってやってね」
「りょーかい。じゃ、もっかい縛っておきますか」
そう言うと、ショウくんは解けて床にわだかまっていた縄をかき集めると、まだ横たわったままの狼を縛り始めました。
今度は変化も見越して、手足を縛るという方向で。
今日もありがとうございました~ (^^)




