赤い瞳の男の人
BGMは嵐の「Monster」で♪
「えいやぁっ!!」
カコーーーン! すぱーーーん!
私がなたを振り下ろすと、小気味よく薪が割れていきます。
薪割はちょっと重労働ですが、生きるためのスキルアップの為には厭いません!
いつでも『独り暮らしバッチコイ☆』ですからね!
こちらの世界、ガスも電気もございません。したがって、暖をとるにも煮炊きをするにも、風呂に入るのでさえ薪は大事な燃料なのです。快適日常生活を送ろうと思うのならば、欠くわけにはいかないのです!
で。底を尽く前に補充なんです。
とかなんとか言いつつも、普段はショウくんがやってくれてますけどね。
今日はたまたまメグちゃんもショウくんもお出かけ、私は一人でお留守番です。
アケルナル国の王子のせいで拉致られてからというもの、メグちゃんもショウくんも私を一人でお留守番させないようにするんですけど、私だってもう二十歳です! 一人でお留守番だってできるんですからね!(当たり前だ)
今日も散々「一緒に行こう」たら「結界張っていく」たらなんたらかんたら言われましたがすべて丁重にお断りしました。いつも通りで大丈夫!
で、誰もトリッパー様が来ないので、暇を持て余した私は薪割をしているわけで。
ザッザッザッ……
うんしょうんしょと薪割に精を出していると、森から続く道を踏みしめる音が聞こえました。おや、トリッパー様でしょうか?
私は薪割の手を休め、なたを下ろして森の方を見遣りました。
すると、森の中から男の人がこちらに向かって歩いてくるところでした。
そんなに背は高くないですね。ちょっと伸びすぎた感のある濃い茶色の髪はぼさぼさです。
なんかぼんやりとした感じです。トリップの影響で意識が混濁しているのでしょうか? たまにそういうこともあるみたいです。私の存在にも気付いてないみたいですしね。
気付いてないからそっと様子を観察していると、『魔女☆メグの家』の看板の前で立ち止まると、じっと看板を見つめ始めました。いや、ガン見してもそれ以上何も書いてないんですけどね? なかなか次のアクションを起こさないから、私は思い切って声をかけてみることにしました。
「あの~。トリッパー様でしょうか?」
「……」
おそるおそる声をかけたんですが、男の人はこちらに向いただけで無言でした。私の言ったことが聞こえなかったのかも知れませんね?
「ええと、突然この森に来られたんですか?」
「ああ……」
今度は『トリッパー』という言葉を使わずに聞いてみました。意味が解らなかったのかもしれませんし。
すると、今度は微かに肯いてくれました。でもなんだか疑い深そうなというか、警戒した様子です。
とりあえず話を聞いてみないと、この先どうしたらいいのか決まらないので、
「とりあえず中にお入りくださいな。お話を聞かせてください」
「ん……」
しっかし反応の薄い人ですねー。会話が続かないじゃないですか。
そう思いながらもトリッパー様はトリッパー様。きちんと受付しないと。これが私の仕事ですからね!
私はトリッパー様の前を行き、入り口扉を開けて、中に誘いました。
警戒しているようなので、入り口扉は閉めずに開け放ったまま、トリッパー様を椅子に案内しました。
彼が腰かけるのを見届けてから、私も自分の椅子に腰かけます。
そしていつものセリフを、営業スマイルと共に口にしました。
「えと。まずはご自分の名前はわかりますか?」
「なまえ……」
胡乱げな瞳をあちこち彷徨わせています。真っ赤な瞳がきょろきょろと落ち着きなく動いています。これは記憶のないパターンの転生のようですね。
「ご自分のお名前、判らないんですね?」
一応念押しします。
「……」
また無言なので、確認を取ろうと、ずっときょろきょろと落ち着きなく動かされていた赤い瞳を覗きこみました。
その瞬間。
ギラリ。
そんな音が確かに聞こえましたよ! ええ、まさに。
それまでちっとも合されることのなかった目線が合ったのはいいんですが、何て言うんですかねぇ、ものっそい鋭い視線。
え? 何? 私獲物? 獲物なのか?
ハンターに狙われた可哀相な獲物よろしく、私は固まってしまいました。
さっきまでの挙動不審、かつ、ぼんやりとした様子が嘘のように、私をねめつけてきます。
しかも「グルルルル……」と、獣ちっくな唸り声まで上げてます!
危険危険! デンジャー!! エマージェンシー!! 総員退却!!
赤色ランプが点灯し、ビープ音が鳴り響きます。あ、私の脳内で。
とっさに逃げ道を確認しますが、全開しているとはいえ入り口はこの男の人の後ろ。
越えてく? はい、魔力も何も特殊能力のない私には不可能です。
じゃあ、奥の部屋? 二階の部屋? ……できるか? 一か八か。で、鍵かけて籠城? 扉蹴破られたらおしまい。
でも窓から逃げる時間が稼げるかしら。
そんなことをつらつらと考えながらも、男の人から視線は外しませんよ。外したら最後、この均衡が崩れますからね。
とりあえず奥に逃げよう。
そう思い、目線は外さないまま、
さん、に、いち……
心の中でカウントダウンします。
ゼロ!!
私はバッと立ち上がり、奥に身をひるがえしました。その拍子に『がたん!』と椅子が倒れましたが気にしません。
とにかく奥へ、二階へ!!
しかし、無情にも男の人は『タンッ!』と机をひと蹴りしただけで、私に追いついてしまいました。
え? 今跳んだよね?
って、捕獲されながら目を見張ってしまいました。普通の人間の跳躍力じゃなかったからです。
特殊能力付きの転生か――なんて考えていると、あっという間に男の人の下に組み敷かれてしまったではありませんか!!
「きゃーーーー!!!」
乙女のピンチ!! Rは15? 18? んなこたーどうでもいいです!!
思わず絶叫してしまいましたが、今は誰も居ませんものね! うう、マジでヤバいです!
私の抵抗なんてちょろいものなのか、手を二本とも頭の上で纏め上げられてしまいましたし!
「きゃーーーきゃーーーーきゃーーーー!!」
「ガルルルル……!!」
私の絶叫と、男の人の唸り声が辺りに響いていました。
今日もありがとうございました(^^)
全然Rの方向へは行きませんのでご安心を m( _ _ )m




