↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/7

第五夜 まつりて

 現(うつつ)なき 闇のしじまに 還らむと

 四つ数へて 祭りは果てぬ



 われらは、ただ、かえりたかった。


 はじめに、無があった。

 光もなく、形もなく、重さもなく、なにも語られることのない、静寂の世界。

 そこがわれらの場所であり、無こそが安らぎだった。


 境界の向こうから漏れ出る『音』は、われらには痛みにほかならない。

 自分たちがそこにいると叫び続ける人の声は、夜ごとに領分を押し広げ、われらの安らぎをかき乱した。

 だから、年にいちど、すきまから滲み出ては騒がしい『音』を呑み込み、静寂を取り戻す。

 古くからの祭り手たちはそれを知り、鈴を鳴らし、火を焚いて『音の壁』を作り、自らの気配を隠してやり過ごした。隙間ができたときは三つの命を祀りて、沈黙の供物として差し出した。

 それで足りるはずだった。

 だが、今夜はちがっていた。


 十八時三十分。

 作られた音が互いを殺し合い、境内にぽっかりと、音のない隙間が生まれた。


 十八時四十二分。

 神楽鈴の澄んだ高音が途切れ、隙間が広がった。

 滑り込んだ先で出会った童が、われらの輪郭を指差し、「おじちゃん」と言葉を投げかけた。

 名付けられた瞬間、輪郭が固定され、重みが生まれた。

 童を無へと誘い、身を投げ出した老いた神主を呑み、舞殿の娘からも声を奪った。

 三つの命。これで無に還れるはずだった。

 しかし、何かがわれらを逃さない。

 木々に仕掛けられた冷たい目玉が、見えないはずのわれらに、赤く細い光線を無数に突き刺してきた。

 一秒に何万回ものパルスが座標を刻み、ただの静寂であった呼吸を、箱の中の知性が無理やりに言語へと変換していく。

[18:55:10] システム:輪郭を特定。観測を確定しました。

 観測された。

 確定された。

 われらは、存在させられてしまった。

 データとして世界に縫い止められ、もはや自ら消え去ることは叶わない。

 ならば——。

 この灼けるような苦痛を終わらせるには。

 自らを祭り手と驕り、われらを世界に縛り付けた青い光の主。彼を四人目の贄として祀りて、記録ごと消さねばならない。


 十八時五十九分。

 社務所の青年の背後に立ち、開いた口から音を奪う。見開かれた瞳から光を奪う。

 今年は、四人。

 祭りは終わり、すべてが沈黙に祀られる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。