第五夜 まつりて
現なき 闇のしじまに 還らむと
四つ数へて 祭りは果てぬ
われらは、ただ、かえりたかった。
はじめに、無があった。
光もなく、形もなく、重さもなく、なにも語られることのない、静寂の世界。
そこがわれらの場所であり、無こそが安らぎだった。
境界の向こうから漏れ出る『音』は、われらには痛みにほかならない。
自分たちがそこにいると叫び続ける人の声は、夜ごとに領分を押し広げ、われらの安らぎをかき乱した。
だから、年にいちど、すきまから滲み出ては騒がしい『音』を呑み込み、静寂を取り戻す。
古くからの祭り手たちはそれを知り、鈴を鳴らし、火を焚いて『音の壁』を作り、自らの気配を隠してやり過ごした。隙間ができたときは三つの命を祀りて、沈黙の供物として差し出した。
それで足りるはずだった。
だが、今夜はちがっていた。
十八時三十分。
作られた音が互いを殺し合い、境内にぽっかりと、音のない隙間が生まれた。
十八時四十二分。
神楽鈴の澄んだ高音が途切れ、隙間が広がった。
滑り込んだ先で出会った童が、われらの輪郭を指差し、「おじちゃん」と言葉を投げかけた。
名付けられた瞬間、輪郭が固定され、重みが生まれた。
童を無へと誘い、身を投げ出した老いた神主を呑み、舞殿の娘からも声を奪った。
三つの命。これで無に還れるはずだった。
しかし、何かがわれらを逃さない。
木々に仕掛けられた冷たい目玉が、見えないはずのわれらに、赤く細い光線を無数に突き刺してきた。
一秒に何万回ものパルスが座標を刻み、ただの静寂であった呼吸を、箱の中の知性が無理やりに言語へと変換していく。
[18:55:10] システム:輪郭を特定。観測を確定しました。
観測された。
確定された。
われらは、存在させられてしまった。
データとして世界に縫い止められ、もはや自ら消え去ることは叶わない。
ならば——。
この灼けるような苦痛を終わらせるには。
自らを祭り手と驕り、われらを世界に縛り付けた青い光の主。彼を四人目の贄として祀りて、記録ごと消さねばならない。
十八時五十九分。
社務所の青年の背後に立ち、開いた口から音を奪う。見開かれた瞳から光を奪う。
今年は、四人。
祭りは終わり、すべてが沈黙に祀られる。




