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目下捜索中でございます。  作者: ユタカ
目下捜索中でございます

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3/40

洗濯機はどこへ消えた?

「いいか田所。今度こそ、物理的に不可能なはずだ」

佐藤課長は、冷え切った目で田所を凝視していた。

今日の任務は、成約特典の「最新型ドラム式洗濯機」をモデルルームに運び込み、設置に立ち会うことだ。

「重量80キロ、高さ1メートル超え。これを『うっかりポケットに入れて失くした』なんて言い訳は通用せんぞ。お前のポケットは四次元ポケットか?」

「失礼な。今日は寸法を測るための秘密兵器を持参しました。設置場所の計算も完璧です!」

自信満々に田所が取り出したのは、小学校の算数セットに入っているような、透明なプラスチックの三角定規だった。

「……田所、お前、それでどうやって高さ1メートルの家電を測るつもりだ」

「角度です課長! 45度と30度を駆使すれば、ピタゴラスの定理で全て解決します!」

「いいから大人しくメジャーを使え。お前の脳内から『常識』がロストしていることだけは分かった」

其の一:自信と搬入経路の紛失

トラックが到着した。

業者の手によって、輝くような最新型の洗濯機が運び出される。

「田所さん、これどこに置きます? 重いんで早めにお願いしますね」

「ええ、こちらです! 導線は私の三角定規で計算済みですから!」

田所は、30センチの三角定規を顔の前にかざし、片目を瞑って「角度的にこっちですね」と適当な指示を出しながら歩き出した。

……が、このマンションは全200世帯のメガマンションである。

どこを見ても同じような白い廊下、同じようなドアが続く。

「(あれ? 502号室だっけ、520号室だっけ? それとも……205号室?)」

さっきまで手に持っていたはずの「部屋番号のメモ」を確認しようとしたが、そこにあったのは**「今朝食べたバナナの皮」**だった。

田所は、巨大な洗濯機を抱えた業者を引き連れたまま、巨大な迷路の深淵へと足を踏み入れた。

其の二:重量物と存在感の紛失

「あ、ここだ! 502号室!」

田所は、直感という名の「最も呪われたコンパス」を信じてドアを開けた。

幸い、鍵は開いていた。業者が洗濯機を手際よく脱衣所に設置し、足早に帰っていく。

「ふう、任務完了だ。角度も完璧だった。さて、課長に完了報告を……」

スマホを取り出そうとして、田所は凍りついた。

スマホがない。代わりに手に触れたのは、**「いつか掃除に使おうと思っていた、カピカピの軍手」**だった。

「しまった、さっきの廊下に落としたか!?」

田所は慌てて脱衣所を飛び出し、廊下を全力疾走した。

数分後、ようやくエレベーター前でスマホを救出した彼は、意気揚々と脱衣所に戻ってきた。

……しかし、そこには、何もなかった。

「えっ? ……えっ!?」

つい数分前まで、部屋の主のように鎮座していたはずの80キロの巨体が消えている。

床には、設置用の防水パンが虚しく広がっているだけだ。

其の三:重力と空間把握の紛失

「嘘だろ。あんなデカいものが、数分で消えるわけがない」

田所はパニックに陥った。

「もしかして、三角定規の計算を間違えて、異次元の隙間に落ちたのか?」

彼は、幅5センチの洗濯機パンの裏側を必死に覗き込み、さらには洗面台の鏡の裏まで開け始めた。

「(落ち着け。あんな重量物、誰かが持ち出せば気づくはずだ。……まさか、浮いたのか?)」

彼は天井を見上げた。もしかしたら最新の洗濯機には「無重力モード」が搭載されており、窓から空へ飛んでいったのかもしれない。

そんなわけはない。

半狂乱になった田所は、近隣の部屋のドアを次々と叩き始めた。

「すみません! このあたりで、『角度45度』で飛んでいく洗濯機を見ませんでしたか!?」

其の四:現実と所属部署の紛失

「田所。お前、何をしてるんだ」

背後から、心臓を鷲掴みにするような低い声がした。

振り返ると、そこには入居前点検に来ていた佐藤課長が立っていた。

「か、課長! 消えたんです! 80キロの鉄の塊が、忽然と姿を消したんです! 算数セットの計算では合っていたはずなのに!」

佐藤課長は、田所が必死に捜索している部屋の番号を指差した。

「……田所。ここは503号室だ。モデルルームは隣の502号室だぞ」

「えっ」

「さっき、隣の部屋の入居予定者から連絡があったぞ。『頼んでもいない洗濯機が、見知らぬ業者によって設置されている。おまけに脱衣所に三角定規が落ちていた』とな」

「……あ」

「お前のせいで、あの一家の今日の話題は『謎の測量士の侵入』でもちきりだ。お前の首も、文字通り『ロスト』することになりそうだな」

夕暮れ時。

田所は、間違えて設置した洗濯機を業者と一緒に(泣きながら)運び出し、今日という日の「平穏」がどこへ消えたのか、虚空を見つめて探し続けていた。

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