第78話「注意すべきは」
「予定外に時間を食った。急ぐぞ」
「それはありがたいですが、何故ですか?」
「お前には関係ないことだ」
「……」
サラティスは気を悪くしたりはしていなかった。
数日しか知らないが、決してディスサルが悪くない、むしろお人よしの魔族だと思っていた。
確かにそっけなく、口調もきつかったりそれで勘違いするかもしれない。
そもそも人間に妥協してくれている時点でかなり良い魔族である。
「しばらく野営が続くが問題ないか?」
「ありがとうございます。問題ありません。特段注意した方がいい魔獣はいます?」
「そうだな……」
ディスサルは暫し思考する。
そもそも注意しなくてはいけない魔獣などそうそういないからだ。
しかし、相手は魔族ではなく人間。
そのレベルで注意すべき魔獣。
「魔獣ではなく、魔族に気をつけろ」
「魔族ですか?」
「ああ。ここら辺は一族だけでなく、個人が好き勝手に暮らしているとこも多い」
「野営ということは、ニャニャント族のように友好的ではないと」
「ああ。中には友好的なのはいるが、相対するだけで殺し合いだろうな」
「そうですか……」
できれば御免被りたい。
魔族と戦うのは厄介である。
それに意味もなくただ、殺し合う。
精神衛生上よろしくない。
「言っておくがお荷物になるようなら、見捨てるからな」
「分かってます」
あくまで協力関係であって、命をかけて助ける関係ではない。
薄情かもしれないが当然であろう。
サラティスは少しだけ驚いていた。
大森林は人類との境界線。
魔族はあまりいないと思っていた。
魔族だって人間と同じように国を作っていたのだから。
わざわざ不便で危険がある森で暮らしているとは。
少し小高く盛り上がっている丁度いい平坦な土地を見つけた。
そこで本日は夜を過ごす。
現状気楽な旅で気が緩んでいたのかもしれない。
サラティスは拠点から少し離れていた。
所用を済まし拠点に戻ろうとして、何やら騒がしさを察知し気配を殺しすっと様子を伺う。
「無駄な抵抗はやめろ」
「群れないと強がれない雑魚が。お仲間はどうした?」
「おい、せっかく楽に殺してやろうとしたけど止めた」
魔族の襲撃だ。
明らかに仲良しの雰囲気ではない。
確実に殺し殺されの状況だ。
そして、恐らく相手の魔族とディスサルは既知のようだ。
因縁の相手なら、なおさら穏やかな結末は望めないだろう。
「お前はこれ以上逃げれない」
「逃げた?何故お前のような低級から逃げる必要がある」
「調子に乗るなよ」
魔族は魔法でディスサルを攻撃した。
大人サイズの岩の塊がディスサルを押しつぶす。
ディスサルは前に移動することで岩を躱す。
岩は地面にぶつかり、砕け散り、破片が周囲に散乱する。
魔族はディスサルに近寄られるのが嫌なのか距離を取る。
「それしか使えないお前がどうして、俺を殺せる?」
「う、うるさい!」
ディスサルの挑発に激怒した魔族は、先程の倍はある岩石を投げつけた。
あまりにも大きく避けるのは難しい。
「お前バカだろ」
「なっ」
岩石はディスサルに直撃した。
普通であれば、大怪我である。
だが、ディスサルは魔族である。
見た目は人間さほど変わりがなくても、造りは確かに違うのだ。
『がこ』
ディスサルは岩石を身のまま殴りつけた。
そしてそれを投げ飛ばした。
「くそが」
岩は魔族に直撃した。
勢いが凄まじく、魔族の身体が衝撃で後方に弾き飛ばされる。
「とっととうせろ」
「は、少し人を汚した程度でいい気になるな」
さすがは魔族同士の戦いだ。
言葉の通り、怪我などしていないようだ。
サラティスは静かに気配を殺したまま、周囲を伺う。
最優先は生き延びることである。
サラティスは周囲に魔族の仲間がいるかどうか調べていた。
魔族が相手である。
清く正しくが通用する相手ではない。
こっそりと移動している間もディスサルと魔族の激しい戦闘が繰り広げられていた。
「バカはどうして、魔法を連発するんだろうな」
やはりディスサルの方が格上のようだった。
「う、うるせぇ。……これはとっておきたかったがしょうがねぇ」
「ほぉ、命乞いでもする気か?」
「バカが。くたばれ」
「がっ」
魔族は懐に手を入れる。
離れていたサラティスでも強力な魔法を感知した。
ディスサルが腹部を抑え、地に膝をつける。
「は、最初からこうすりゃよかったな。まぁ、従わない以上殺すしかねーからな」
「させません」
『ドゴ』
風魔術で魔族の身体を吹き飛ばす。
背後の大木に身体を打ちつけられる。
「な、誰だお前」
どれだけ身体が人間と異なり強くても、精神的動揺はする。
突如現れたサラティスに理解が追いつかず固まる。
「大丈夫ですか?」
「ゆっ油断するな……」
呼吸することすら苦しそうだ。
「まさか、人間のガキだと?」
「すみません、消えてください」
「うわっ」
魔族はサラティスを視認し、乱入者が人間であることを認識した。
そして、どうやらそれがディスサルの味方らしいということ。
だが、次の瞬間魔族の体が火に包まれた。
どうやら、相手の魔族も身体は強いが火が効かないような性質は持っていないようだ。
悲鳴を上げながら、逃走した。




