第438話「そういうのもあるのですね」
「非効率……。さて、蕾ちゃん達どうかしら?」
皆意図が伝わらないようで、ただ教壇にて存在を誇るカリナを見つめるだけだ。
既に初歩の回復魔術を会得している生徒がいるのは承知していると続ける。
「ネイシャ教本で学んだと思うわ。ネイシャ教本は既に何回も改訂されているの。もしかしたら、参考にしたネイシャ教本の版で微妙に記述が違う場合があるわ。授業では教科書の内容で教えるけど、そこが異なっていても魔術が正常に発動、効果があるならよしとするわ」
皆手元に視線を下ろす。
「きっとサラティスちゃんが読んだのは少し前の版のものだと思うわ。それで、『非効率』ではないのかだけれど、これは非効率ではなく、『安全性』が高められたと解釈してちょうだい」
「安全性……」
「一学年で魔力について習ったと思うわ。攻撃魔術に関しては効率的であれば、良いとされる。けれど、回復魔術に限ってはそうではないのよ。これからの授業で教えることもあるけど、安全性を高めるために敢えて記述を変更しているものがあるわ」
「なるほど」
「安全性とは何も患者さんに対してだけじゃないわ。魔術を使う魔術師、医者にもよ」
「ありがとうございます。納得しました」
魔力の使い過ぎを防ぐためであった。
「ならよかったわ。いいかしら、人を治療する医者が治療のせいで治療が必要になるじゃ本末転倒よ。くれぐれも蕾ちゃん達も気を付けてちょうだい」
カリナはぽんと手を叩く。
「回復魔術の授業は回復魔術以外にも治療に必要とされる知識や魔術を習うから、そこは理解しておいてちょうだい。ネイシャ教本といえば、蕾ちゃん達はネイシャ様をどれくらいご存じかしら?」
ぎく。
「ハニラブルちゃん、どうかしら」
黒髪おさげの女子生徒が名を呼ばれ一瞬身体が強張る。
サラティスは知らないので彼女も他のクラスだろう。
「ネイシャ様がいたからレクスル様は魔王を倒すことができました」
彼女の口から流れる言葉がサラティスに突き刺さる。
「ありがとう。きっちりと座学を受けているようでなによりだわ。でも蕾ちゃんたちが習ったのは歴史的な動きに関してね。今から魔術、回復魔術の側面からのネイシャ様について解説するわね」
思わず立ち上がりそうになったが我慢したのを褒めて欲しい。
サラティスは深呼吸して、カリナの言葉に耳を傾ける。
「当時は今と違って魔術を気軽に習うことができなかった時代なの。魔術一つを習うのに、魔術師に指示したり、高いお金を払ったり大変だったのよ」
サラティスはうんうんと頷く。




