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宿屋の娘は聖女と呼ばれ転生す  作者: 紅羽夜


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第43話「ケイトのお屋敷へ」

 サラティスはいつになく、おめかししていた。

 正確にはされていただが。

 最初は他人にお世話されることに抵抗があったが、今はもう慣れたものだ。


「とっても可愛いわよサラティス」


 サラティスはアレシアの前で一回転してみせる。

 今日は街に出かける訳ではないが、余所行きの服を着て長い髪も編んでいる。


「サラティス様、バインド家の獣牽車が到着しました」


 今日は初めてケイトの屋敷に遊びに向かうのだ。

 バインド家とは親交が深いのでここまで洒落こむ必要はないが、アレシア含め皆張り切っていた。


「楽しんでらっしゃいね」

「はい」


 部屋を出て、外に向かうとバインド家の獣牽車が止まっていた。

 その前にはケイトと使用人が立って待っていた。


「ごきげんよう、ケイ」

「サラちゃん!す、すごいか、可愛いね」

「あら、なら良かったです」


 使用人がぼそっとケイトに耳打ちする。


「さ、お乗りください姫様」

「もう、ここだけにしてくださいね」


 王都に行けば本物の姫様がいるのだから。

 ケイトと一緒に獣牽車に乗る。


「そうだ、ケイお菓子の本いっぱい買ったから一緒に読みましょ?」

「ごめんね、サラちゃん。もうお菓子作りはできないんだ」


 ケイトはしょげた顔で告げる。


「どうして?」


 ケイトは切実な事情をサラティスに相談した。


「まぁ、そうなのね」


 ケイトは父親から男なのに菓子作りなど女々しいと言われ、軟弱にならないようにと菓子作りの禁止を言い渡された。


「分かったわ。私が何とかしてみましょう」

「ほ、本当?大丈夫?」

「任せなさい」


 ケイトのためだ。それに、勝算は十二分にある。

 獣牽車の中ではケイトの話で持ち切りだった。

 サラティスの最近の話はまだ、ケイトに話せない事項が多すぎるので、サラティスがケイトにどんどん質問していた。

 四時間ほどでケイトの屋敷に到着した。

 バインド領シンシア。

 バインド領はリステッドと異なり、この街のみが領地である。

 一つだけではあるが、リステッドのルムクとサワランダー、二つの街を合わせたくらいの大きさはあるので小さくはない。

 屋敷に入ると大柄の男性が、ずかずかと接近してきた。


「おお、ずいぶん大きくなったなー」

「お久しぶりです、ガルヴァ様」

「こんなに可愛くなってー。公式の場じゃないんだ、そんな固くなくていいぞ」

「はい、おじさま」

「ロザリアは元気か?」

「はい。とっても可愛い弟です」

「はははは。そりゃーなによりだ。お祝いに行けなくて申し訳ない。セクドにそのうち行くと伝えといてくれるか?」

「もちろんです。お忙しかったんですか?」

「ああ。それなりの規模の盗賊が領内にいるのが分ってな。大捕物よ」

「お怪我はありませんか?」

「おお、勿論だとも。そんなやわな鍛え方はしとらんのでな」


 ガルヴァはケイトの父親である。

 バインド家現当主はマグガリア・バインド。ケイトの祖父に当たる人物で、ガルヴァはまだ領主ではない。


「そうだ、おじさまお願いがあるんですが……」

「ははは、サラティスちゃんのお願いなら何でも聞いてやるぞー」


 バインド家は男が多い。

 そして、ガルヴァは子供が二人いるがどちらも男。

 女の子で将来の義理の娘となるサラティスが可愛くて仕方なかった。

 そして親友二人の愛娘。

 自身の子より甘く丁重な扱いになってしまうのは致し方のないことであった。


「私、お菓子作るのが好きなんです。でもケイの方がとっても上手なんです」

「む」

「将来お休みの日一緒に作れたらいいなーて。ケイも剣の訓練サボってる訳ではないんですよね?だったらケイのお菓子作りさせてあげてください」

「うーむ。そうまで言うなら、ケイト、剣術と勉学をサボらず続けるのではあれば、続けてもよいぞ」

「あ、ありがとうございます」

「いいか、ケイトしっかりおもてなしするんだぞ」

「おじさま、お仕事頑張ってくださいね」

「おう、サラティスちゃんのおかげで、いくらでもやれる気がするぞい」


 ガルヴァは仕事の都合で屋敷を出て行った。


「サラちゃんありがとう」

「ふふ、ケイも剣もお勉強も頑張ってくださいね」

「もちろんだよ。さっそくだけど屋敷の中案内するね」

「お願いします」


 ケイトに連れられ、まずは庭を訪れた。

 庭は剣や槍など武術の訓練用の道具が多数設置されていた。

 景色を楽しむではなく、日頃から訓練を重視しているのが庭を見るだけで伝わってくる。

 次は調理場に案内された。

 サラティスの希望である。本当はケイトの部屋を希望したが、子供とはいえ、男性の私室に女性一人が入るのはよくないということでお預けとなった。

 なので調理場になった。

 使用人に混じりながら焼き菓子を作り始めた。


「そうだ、ケイはお料理の方に興味あります?」

「料理?料理はさっぱりだよ」


 サラティスと違い暇な時間は少ない。

 勉強に、剣の訓練。

 それだけで半日以上は時間が失われる。

 サラティスは勉強はする必要がないため、最近は自由に時間を使えている。


「料理の知識は入れておいたほうがいいですよ」

「そうなの?」

「はい、お菓子作りにいろいろと活かせるので」

「そっかー。なら本読んでみるね」


 菓子作りが冷やし待つだけになり、使用人がやっておくとのことなので二人は再び庭に戻ってきた。


「見ててね」


 ケイトは剣を振る。


「すごいですね。ちゃんと練習してるみたいですね」


 誉め言葉に力強く剣を振る。

 厳しいことを言えば、才を感じる剣筋ではないが確かに心の籠った剣筋であった。

 目的があり、一歩一歩努力していこうと感じさせる剣。

 サラティスは剣を振る様を眺めるのは好きだった。


「そうだわ、いいこと思いついたわ」

「え?」


 サラティスは指の上に水球を浮かばせる。


「これ避けながら剣を振るってのはどう?」


 水球なら濡れるだけで危険性はない。


「確かに、普通は相手がいて避けたり受けながらやるし……やってみるよ」


 こうして特殊訓練が始まった。

 初手は速度調整を間違え綺麗に顔面に当たった。

 風魔術で髪を乾かす。


「うーん。もっと簡単に乾したいですね……」


 家で乾かすなら時間を気にする必要はないが、急いでる時は時間がかかりすぎる。

 そんなことを頭の隅に浮かべつつ、ケイトに向かって水球飛ばす。

 菓子ができたと使用人が呼びにやってきたので練習を終え、部屋に案内された。

 お菓子を食べ終えると、帰る時間になった。


『パリン』


 獣牽車に乗ろうとしたら、背後で何かが割れ砕けた音した。

 振り返ると背後で使用人が瓶か何かを落とし割ってしまったのが見えた。


「た、大変申し訳ございません」


 破片はぎりぎり二人に届かなかったが、使用人は失態におどおどと震えていた。


「ったく、すみません坊ちゃん、嬢ちゃん」


 そこに使用人には見えない男性が近づいてきた。


「ほれ、果実水でも飲んで落ち着け。慌てて余計ミスしたら不味いだろ?」


 男はグラスを渡す。


「二人もどうぞ」

「ありがとうございます」


 二人は男からグラスを受け取り飲む。

 使用人と服装が違う理由が分かった。男は獣牽車の操者のようだ。

 サラティスとケイトは獣牽車に乗る。

 二人は剣の訓練の話、お菓子の話で盛り上がっていた。


「…………」 


 ふとサラティスは目を覚ました。

 目を覚ましたのだ。

 目を覚ましたといことは、自身は眠っていたということだ。

 疲れて眠っていたのなら仕方のないことだが、腕を後ろで縛られているのか動かせない。

 異常事態。

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