第412話「にやにや」
貴族の常識はまだまだ不足している部分はあるが、さすがにこの値段がふっかけすぎなのは理解できる。
そもそも、この手はよく知っている。
貴族やお金持ち、またはそれらの子供。釣りなどに一切縁のない人間からすれば市場価格など知らなくて当然で、一万フェルなど高いとは思わないので気軽に払うだろう。
それを狙ってここで商売などしているのだろう。
「その釣り竿ってすぐ壊れたり、まったく釣れない出来の悪い竿だったりしませんか?」
「と、とんでございません。商人にとって一番大切なのは信用でございます」
「……」
当たりだろう。
個人的にはここで怒る商人が一番信用ができる。
仮面の下で舌なめずりをしていると感じさせるような商人は二流である。
「因みに代行とは何ですか?」
「それは私がお客様の代わりにマウを釣るサービスです。一時間五万フェルになります」
「どれくらい釣ってくれるんですか」
「この釣り竿は一級品ではございますが、釣りは一時の運もあります」
「……」
「しかし、万が一何も釣れない場合、代行費用はきっちりお返しします」
む。
むむ。
これはサラティス的にはアウトである。
約束事で強調される『は』は、言外に物を隠すためである。
きっと代行費用以外のお金は返さないのだろう。
一流の話術師は相手を騙されたことが発覚しても、それが気持ちよいと感じさせるのだ。
それに比べてこの商人は不快感が鼻につく。
「では、商人としてその釣り竿が一級品であることを誓えますか?」
「もちろんでございます」
「では、勝負しましょう」
「しょ、勝負ですか?」
「はい。ガイナスさんはご自身の釣り竿でマウを釣る。私は自前でマウを釣るので。こんな子供より釣れますよね?」
「なっ」
「時間は一時間にしましょうか。ガイナスさんが勝った場合は十万フェルを支払います」
「私が負けた場合はどうなりますでしょうか?」
「私が釣ったマウを一体一万フェルで買ってください」
釣り竿の相場価格は知らないが、マウの価格なら知っている。
「先程、自前で釣ると仰いましたが釣り竿をお持ちで?」
「いいえ。私は釣り竿は使いません。まさかとは思いますが、誇りと実績のある商人が初めて釣りをする、しかも釣り竿も持ってない子供に負けるなんてことはないですよね?」
「っつ」
「もしかして、商人さんから借りる方が損……」
「分かりました、分かりました。勝負させていただきます」
「すみませーん。少し宜しいでしょうか?」
湖の周りにいる人に声をかける。
ギルド所属の女性と、男性が話を聞いてくれた。
事情を説明し、お互いがズルをしないように見張ってくれないかと頼んだ。
二人は面白そうだからと快諾してくれた。




