第411話「マウ」
「まったく……。下の階に行きましょかね」
あの様子から、完全な対等な友人関係を築いていると思えない。
恐らく彼らではノゲイストを止めることも、諫めることですら難しいだろう。
なら、離れるのが一番である。
サラティスは三階に下りた。
目の前には林が。
三階は両端に林が広がり、中央が開けた平原になっている。
四階への出入口は右の奥にある。
サラティスは目の前の林の中に入る。
「あ、湖ですか」
林の中を歩いていくと、目の前が少し開け、大きな大きな水たまりが挨拶してきた。
湖は周囲を歩くと大体三十分程度で周れそうな大きさである。
「さ、魚がいます」
湖の水は綺麗で透けて見えた。
「お嬢さん」
「な、なんでしょうか?」
内心驚いた。
貴族として平常心を保てるよう、アレシアや使用人たちと特訓していなければ、悲鳴を漏らしていたかもしれない。
「私はここいらで商売をしてるガイナスと申します」
背中に大きな鞄を背負った自称商人が声をかけてきた。
「商人の方が何の用でしょうか?」
「見た所お嬢様はお一人のご様子」
「……」
湖の周りには人が何人かいるため、いきなり攫われるなんてことにはならないだろう。
だが、警戒するにこしたことはない。
「実はこの湖なんですが、魚がいるんですよ。それもとてもとても美味しいマウが釣れるんですよ」
「ま、マウですか?」
思わず食らいつく。
「おっと、流石でらっしゃいますね。ご存じでしたか」
マウとは川や湖などに生息する水生魔獣である。
水面から顔出して、水面と陸地の境界線の草や、水底に潜って底に生える草を食べる。
特にオーイケという香草を好みよく食べる。
オーイケは料理に多様される香草の一種である。
そういった食性からか、マウの身からは夏野菜のような爽やかな香りがするのだ。
特に丸ごと焼いた時は香ばしい匂いが食欲を刺激する。
自ら味付けをしているようなもので、匂い、美味しさから人気なのだ。
人気なのは身だけでない。
マウから取れる魔石もしばらくの間、爽やかな香りがする。
魔道具に利用する魔石としての価値は無いに等しいが匂いがする、安価さから気軽な贈り物として人気がある。
「私は先程も申し上げた通り、商人でございます。マウをご存じであるなら、是非食べていただきたい。ご覧の通り、この湖は見た通り綺麗なので臭みや苦味も一切ない絶品です」
じゅるり。
「そんな方に私は釣り竿をお貸ししているのです。利用料は格安の一時間一万フェル。釣りは得意じゃないとう方には代行も行っております」
「……」




