第404話「噂が好きなのですね」
「今度はイルンシロンですか……やけに大きいですね」
イルンシロンは大森林でもお世話になった。
だがあの時のイルンシロンと比べるとどれも逆塔のイルンシロンはサイズが大きい。
「……大きいってどういうこと?」
「へ?あ」
完全に後ろに二人がいることを忘れていた。
「いえ、前に屋敷の近くで見た時はここまでのサイズではなかったので。比べて、ここのはどの個体もみんな大きいなって」
「あーそういうことか。サラティスちゃんが見たのは完全な野生ってことだよね?」
「はい。そうですね」
「恐らくだけど、この階層はイルンシロンを捕食する魔獣がいないから、すくすく育ってるんだと思う」
「なるほど外敵がいない」
サラティスはイルンシロンに少しだけ近づく。
「あっ」
サラティスは人工的に植えられた木の横を通り抜けた時、それは現れた。
「ご、ごめんなさい」
『ブーン』
サラティスの謝罪は羽音で掻き消される。
木の方に視線をやれば、木の枝部分にぶら下がり、木の幹を台替わりにしてあるビルビーの巣を見つけた。
巣に近づく脅威を排除するため、大量のビルビーが巣から飛び出てきた。
ビルビーは小さく、噛まれて雫ほどの血が出る程、毒なども持っていないため、ただ痛くて厄介な魔獣である。
だが、小さい子供や、大量のビルビーに襲われた場合など死亡例がいくつか確認されているので注意が必要な時もある。
ビルビーの巣は大きくて、五十セル程の大きさになる。
巣は植物の繊維と砂や石の粒を混ぜて作らたれものである。
だが、視界に入ってきた巣は倍くらいの大きさがあった。
何より、巣から飛び出てサラティスに迫るその数は尋常ではない。
サラティスの全身を覆いつくせる程の数だ。
「こちらは争うつもりはないですよ」
びゅーと風が吹き抜けた。
草や葉が揺れる。
サラティスは動きやすいパンツスタイルだが、スカートを履いていたのなら大きく捲りあがるであろう強風。
風の勢いに負けビルビーが流される。
「ごめんなさい、離れましょう」
「風魔術かい?」
都合よく風が吹くはずもなく。
「はい。風魔術ですね」
「さすがにあれは剣じゃ無理だ。離れるぞ……ん?」
風に飛ばされたビルビーが突如としてぼとぼとと地面に墜落し始めた。
風が止み変らず羽音が聞えるものの、浮上する様子が見られない。
「サラティスちゃん、もしかして、今の風に何か混ぜた?」
「ビルビーって濡れると羽が乾くまで飛べないじゃないですか。だから風に水魔術を使って羽が濡れるようにしました」
「……さすがは、神童だね」
「へ?」
またか。
悪口ではないのが救いだが、やはり噂が好きな貴族にはすぐ広まってしまうのだろか。




