第403話「ニュラシュ」
「そうだ、サラティスちゃんは今日は何しここに?」
人懐っこい笑顔でフェナクが聞く。
答えようとして一瞬答えに詰まる。
「……四学期が終わって二週間の休みなでして。せっかく許可を頂いたので一度来てみようかなと」
サラティスが一瞬詰まったのはある意味感心したからだであった。
フェナクの問いに自然に、反射的に答えようとした。
ナメと剣のようだ。
剣のような厳しさがオドゥゴルグ。
ナメのように甘く優しくするのがフェナク。
サラティスにはやましいことなどないので、素直に目的を言っていいが、これが敵であるのなら。
情報を自然に集めることができるので、要注意人物である。
「そっか……」
「何か問題なのですか?」
「とんでもない、真面目で偉いよ。でも、その許可証は一番下まで行くことができる。つまりサラティスちゃんが下に行くというのなら、止めることができない」
人当たりの優しい笑みに少しだけ真面目の火が灯る。
「この塔は全て自己責任だよ。例え王族であってもそれは変らない。残念ながら魔獣は身分なんて配慮してくれないよ」
「ありがとうございます。様子見なのでひとまず、平原階層までにするつもりですよ」
「……そっか。じゃせっかくだから案内してあげるよ」
「おい」
「緊急じゃないから時間には余裕あるでしょ。後でオドニイに追いつけば問題ないでしょ」
「……なら俺も同伴するぞ」
「へ?」
「他所の貴族の娘に無礼なことをして、後に追及されても面倒だからな」
「……というわけだから、よろしくね」
「へ?」
どうやら二人が付き添ってくれることになった。
もしかしたら自分がリステッド家の娘で、初めて逆塔に挑むから付き添いしてくれるのかもしれない。
「既に聞いたかもしれないけど、今いるここが二階層。二階層から五階層までが平原になってるんだ。因みに出現……」
「わー待ってください」
わしゃわしゃと、フェナクの言葉を遮る。
「この階層なら危険もないのですよね?」
「そうだね」
「なので、自分の目で見たいなと。先に知ってしまうともったいないです」
フェナクはきょとんしたが、笑い出した。
「ではお嬢さん、僕達は空気だと思ってお好きにどうぞ」
サラティスは歩きながら周囲を観察する。
「あ、ニュラシュです。可愛いですね」
ニュラシュは体長が十から三十セル程の胴長短足、胴と同じくらいのもふふもふの尻尾が特徴的な魔獣である。
尻尾の毛は魔力により一時的に硬化させることができ、その尻尾で土を掘り穴を空け、そこを巣にする。
雑食で群れで生活する。自分より少し大きい魔獣なども襲い、捕食することもある。
ニュラシュは立ち上がり、草に紛れサラティスを観察する。
恐らくこのまま近づけば勝手にどこかに逃げるだろう。
ニュラシュを食べたことはあるが、量が取れないのと美味しくはない。
毛皮を利用することが主流である。
勿論今回は魔獣と戦うつもりはない。




