第402話「恋敵」
余りにも場違いの言葉に思わず停止した。
言葉が頭の中を不可思議なリズムで踊る。
確かに言葉を聞き、認識している。
だが、意味を理解することができなかた。
「くくっぷっ」
堪え切れず、腹を抱えてフェナクは笑う。
笑いすぎてその綺麗な目尻から涙が垂れるほどに。
『ドン』
笑いの渦を衝撃がせき止めた。
「っつー」
「フェナク笑いすぎだ」
「だからって殴ることなくない?」
「俺が貴様の母に恋してるだと?」
「まぁまぁ、オドニイ落ち着いて。サラティスちゃんはどうしてそう思ったのかな?」
フェナクが二人の間に割って入る。
「学園の入学式の時、お母様を後ろの席からずーと見つめてましたよね」
「……」
オドゥゴルグはサラティスを凝視したまま動かない。
「サラティスちゃんは後ろでも見てたのかい?」
「その時私は代表挨拶してたんです」
「なるほどね。で、自分の親を見つけたと思ったら、背後でじーと見てる不審者を見つけたわけね」
「それに王宮でのパーティーでも扉の傍にいて、またずっとお母様を見つめてました。私が気付いた途端慌てて部屋の外に出て逃げましたよね?」
「うん、確実にオドニイが悪いね。難癖じゃないようだし」
「はぁ……」
恐らくオドゥゴルグも言いがかりを一丁両断するつもりで言葉を溜めていたのだろう。
だが、予想外に誤解の末でありサラティスの言い分も理解できたが故、想定と異なり言葉を出せなかった。
「まず前提としてそれは誤解であり、否定させて貰おう」
これが公爵家の威厳なのだろうか。
声に乗る気迫が違う。
「俺には妻子がいる。これ以上妻を求めるつもりもない」
じとーっとサラティスは見つめる。
「俺が睨んでいたことは、事実であり偶然ではない」
「……」
「だが、睨んでいたのは貴様の母親だけではない」
「へ?」
それだけ気が多いという自白であろうか。
「俺は仕事で入学式に参加していた」
サラティスはオドゥゴルグの眼球の奥底を覗くかのように見つめる。
嘘をついていないかどうか真剣に見極めるために。
「怪しい人物がいないかと周囲を警戒していた。怪しい人物だけでなく、普段見慣れない人物も同様に警戒していた」
「……見慣れない人物」
確かにアレシアが領から離れることが極端に少ないのは知っている。
「その中で俺の近くに、偶然貴様の母親がいただけだ」
「本当ですか?」
「サラティスちゃん、これに関しては恐らく本当だと思うよ。こんなにおっかない顔してるけど、オドニイは奥さんには頭が上がらないみたいだ……痛っ」
晴れ時々拳に注意。
「なので貴様の主張は誤解である。理解できたか?」
「……今の所は」
「……」
オドゥゴルグがサラティスを改めて睨みつける。




