第305話「さすがですね」
「これはこれは。王族の方々は回復魔術を使えて一人前だなどと耳にしたことがありますが、きっと毎日練習なさっておられたのでしょうな」
「はい。無詠唱で、できるようになるまで結構かかりましたが」
「いやいや、その歳でここまでできるなら、かかった内には入りませんよ。できない人はそれこそ、できないままですから」
フィーナの実演が終わった。
「わ、私の番ですね。……『水球』」
エステリアの詠唱でお手本のように、正確に水球が現れた。
「……なるほど。きちんと授業の内容を理解され会得されているようで。では、それを私にぶつけて貰えますかな?」
「へ?そ、そんな無礼な」
「そんなことはありませんよ。大丈夫ですから」
「……分かりました。い、いきます」
恐る恐る、ゆっくりと水球をウォールダ目掛けて飛ばす。
「ひゃ」
エステリアは思わず声をあげる。
ウォールダに迫った水球は体を濡らす直前、一瞬で氷の塊と姿を変えた。
「巧みですね」
サラティスは感心の声を漏らす。
氷の球は細い螺旋状へと形を変え、先端から水蒸気のようにさらさらと世界に蕩けて消えていった。
「室内で使う水魔術は凍らせてしまえば、濡れることはないですからね。そしてお褒めに預かり光栄です」
水球の形を変えるのと、氷の形を変えるのでは難易度に大きく開きがある。
氷は固まっている固体であり、水球より難しい。
「こうなれば、サラティスさんの魔術も見てみたいのですが、宜しいですか?」
「いいですよ、何を見せれば?」
「そんなの回復魔術でしょうに。ウォールダさん、サラは私の魔術の師匠なんです」
「ほぉ、その歳で弟子をお持ちになりますが」
「ちょ、別に弟子ではないですよ。ただ相談に乗ったりしていただけです」
「それで、魔術の腕が上がるのであれば立派な師ですよ。では、こちらをどうぞ」
人形には既に傷がついている。
「ではいきますね」
サラティスの指が淡く光、次の瞬間人形は綺麗になっていた。
「これは……」
「やっぱりサラはすごいわね」
「私からすればお二人ともとてもすごいです」
「サラティスさん」
「は、はい」
ウォールダは立ち上がる。
「申し訳ないのですが、魔力量的に、問題がなければ、もう一度お手数ですが回復魔術をやってもらえますかな?」
「問題ないですけど……」
そしてウォールダはふっと、後ろ向いた。
後ろの目がサラティスを、人形を見つめる。
「……ウォールダさん」
「何でしょうか」
「その目は何が見えてますか?」
「……何が見えてると思います?」




