第24話「はじめてのおとまり」
買い物昼食を済ませたら自由時間も終わり、別宅に戻り、ラパーへ向かう。
ラパーにある屋敷に到着するころには既に辺りはうす暗くなっていた。
サラティスはラパーにおいてはただ寝泊りするだけである。
ラパーは領にとって機密、厳重な箇所も多くまだ見せるには早いということで視察はなしだ。
「サラティス様、初めの領地の視察です。おそらく楽しさで気付いていらっしゃらないと思いますすが、体は想像されておられるよりお疲れのはずです。ゆっくりお休みください。明日は大役なのですから」
「わかりました」
獣牽車が止まり、先にハルティックが降りた。
『道を照らせ』
「サラティス様足元にお気を付けください」
ハルティックが詠唱すると、手の平に十五セルほどの光の柱がぶら下がるように現れ、暗くなった地面を照らす。
「な、なんですかそれ」
サラティスは今まで暗くなってから屋敷の外にでた経験はない。
初めて見る魔術だった。
「あ……」
ハルティックはしまったという顔した。
使用人としてはごくごく当たり前な作業をしただけだが、サラティスにとっては初めてのこと。
興味深々である。これが始まるとかなり長くなる。すぐに屋敷の中に入ってほしいのだ。
「サラティス様、ここで説明始めたらハルティックが風邪引くぞ?中入って飯待つ間にでも教えて貰え」
ハルティックはすっと目線でダヴァンに感謝を告げる。
「ユリスと私はこれから少々残りの仕事を終わらせてきます。また明日宜しくお願いします」
レザクターとユリスはまだまだ仕事のようだ。
ダヴァンは調理場に向かい、サラティスとハルティックは寝室に向かった。
食事が終わったら風呂に入り寝る。がサラティスの予定である。
「ハルティック」
「……分かりました、説明致しますね」
『道を照らせ』
先程と同じように光の柱が現れる。
「これは道を照らす魔術ですね」
「すごい」
感動していた。昔は火魔術で道を照らすのが一般的だった。
「大変申し訳ありませんが、私も原理などはあまり分かっておりません。業務に必要なので覚えた程度です」
「魔術式を見せてもらえますか?」
「かしこまりました」
部屋に備えてあった机の引き出しを開けると紙が出てきた。
普段使わない別宅とはいえ、いつ使うことになってもいいように普段から手入れ管理されている。
ハルティックはさらさらと紙に魔術式を書く。
「なるほど。はんのうこうから、ひかりそのものにちゃくもく。なるほど、ひかりをだすのではなく、とりだす……」
サラティスは魔術式まじまじと眺め一人自分の世界に籠る。
「あ」
しばらくすると、サラティスの手の平が眩い光が現れ周囲に飛び散り消えた。
光に驚きハルティックは声を漏らす。
「サラティス様。光が強いと最悪目が見えなくなる恐れもあるので、扱いにはくれぐれもお気をつけください」
ハルティックは目を細めた状態で注意した。
もはや初手に無詠唱で魔術を使うことには驚かなくなっていた。
「ごめんなさい。なるほど、ここでひかりをこてい……しゅうそくさせてるのですか。あ、しこうせいをもたせて、いちほうからまりょくをながせば、うごくのでは?」
「サラティス様?」
天才とはいえ、万が一があってはいけない。
何やら新しいことをしでかしそうな予感だった。
「だいじょうぶです。まずはこれみてください」
サラティスは先程と同じように手の平からぶら下がるように光の柱を出す。
先程と違うのは光は弾けることなく、柱の形を保ったまま。
「さすがでございます。完璧に使いこなせてますね」
ハルティックと何ら遜色のない光源であった。
「みてください」
光を消し、指を握り上に向け一指し指だけ立てる。
「え?わ、綺麗……」
サラティスの指の先から光の星が現れた。
ただ、光ってるのではなく、ちかちかと点滅している。まるで流れる星の如くの光景。
点滅もそうだが、形が五角形と柱から大きく変化しているのも驚きだ。
魔術をただ覚えて使うのはそれほど難しいことではない。
この魔術はさほど難しいものではないので、ハルティックも数日で詠唱で行えるようになった。
天才のサラティスなら当然見て、その場で使うことはできるだろう。サラティスだからと納得できるようになっていた。
が、魔術に精通した者が見れば光ではなく、この事実に目が眩んでいただろう。
覚えて使うだけでは、光の柱が出るだけで点滅させたり、形を変えることなできない。
あくまでこの魔術式は光の柱を出すだけなのだから。
つまり、見て覚えるだけでなく、魔術式そのものを理解し変化を加えたのだ。
魔術の理解力、変化を加え成功させるための知識力がなければ、どだい無理な話だ。
「こういうこともできます」
星が消え、数字、文字などが浮かぶ。
「綺麗ですね。ただし、魔術の使い過ぎはお控えください」
「わかりました。ほかにもあれば、おしえてくださいね」
「お許しくださいませ。そういったことは理論からきちんと先生に教えてもらうのが確実かと」
「むー」
サラティスは納得がいっていないようだが、救いのノック音がした。
食事の用意が整った知らせであった。
「ハルティックどうしました?」
ハルティックはサラティスの足をじーと眺めるように見つめる。
サラティスは生まれたままの姿である。
ハルティックも同様に一糸まとわぬ姿であった。
食事を済ませ入浴していた。
貴族の風呂とは千差万別である。
そして、世間話で交えるには少々下世話であるため風呂の入り方はその家によるとしか言えない。
ある貴族では風呂は魔術により汚れを落とすだけ、湯に浸かるという概念がない。
使用人は仕事着のまま、主人を洗う。
使用人を排除し風呂では全て一人で済ませる。
など、家々による。
リステッド家では家族で一緒に入る。ただし同性間のみで。
つまり、サラティスはアレシアと一緒に入る。
サラティスは幼いため、アレシアに洗ってもらう。アレシアと入れない場合は使用人にだ。
リステッド家では入浴、入浴場はとてつもなく重要なことである。
魔獣と接触する機会も多く、衛生の観点から入浴が推奨されている。過去、領内で疫病が流行してから徹底されている。
それは領民に対してもだ。
入浴関連は税が優遇、無いなど庶民に風呂に入りやすい、入るようにと文化が根付いている。
アレシアは身分差を気にしないので、一緒に入りましょうよーと誘う。
当然断るはずもないので、リステッド家女子の間では一緒に入ることに抵抗はない。
「いえ、歩き慣れない道を歩かれたので足に異常がないかどうか確認させていただきました。見た限り問題はなさそうですが、痛みなど我慢されてませんよね?」
「はい、いたみなどはないです」
純粋な肉体の疲労はあるが靴擦れのような外傷はできていない。
「もしや……」
「はい?」
「怪我されて密かに回復魔術で治してる、などはございませんよね?」
「な、ないです」
これは正真正銘本当のことだ。
「ならよいのですが。いいですか?明日違和感を感じたら隠さず仰ってくださいね。足の成長に悪いため靴を変える必要がございます」
「わかりました」
サラティスは目を瞑りあっというまに洗体が終わった。
「失礼します」
ハルティックはサラティスの隣に腰を下ろす。
湯舟が肩まで覆い隠す。
「このような形になってしまいましたが、初めての街はいかがでしたか?」
「……りょうみんがたくさんいました」
「お屋敷は限られた人員ですからね」
「ていどと、かくさはあるかもしれませんが、みなしあわせそうでした」
誰に殺されるか分らない。
いつ終わるかも分らない戦乱の火。
どこに逃げても同じだ。
逃げた所で身一つで生きていけない。
絶望で明日を捕り零す残酷なまでの絶望な瞳。
極限の恐怖、空腹で己の体を啄む悪夢。
奇跡的に生き延び、努力し笑顔を創れど夜一人涙を落とす。
戦争とは優勢、劣勢関わらず地獄を生み出すのだ。
ネイシャは目を覆いたくなるような光景をいくつも見た。
回復魔術で助けた相手から助けたことを責められることもあった。
今でも鮮明に思い返すことができる。
あの時の人々と比べれば確かに、人々の安寧のための努力の歩みが見れた。
良い顔を、善い営みをしている、国がきちんと安定している証拠だとサラティスは思った。
「そうですか……」
「どうしました?」
「いえ。長湯はのぼせてしまいますので、そろそろ出ましょうか」
「はい」
髪を乾かし、寝室に直行した。
「宜しいですか?初めての外泊だからと夜更かしなどしてはいけませんよ?アレシア様にお叱りをうけますからね?」
「はーい。わかりました」
明日はいよいよ大事な交渉が始まるのだ。英気を養う必要があるのでサラティスはすぐに夢の帳に手をかけた。




