幕間 恋愛ゲーム②
前話のタイトルミスってましたが訂正しました
チャイムが鳴り、全員が席に座る。先生が入ってくると、号令が掛かり、礼をする。いつも通りの光景だ。
「今日は転校生を紹介します」
その先生の発言に、クラスが一時騒然となる。転校生といえば、クラスの一大事だ。
「それでは、自己紹介をお願いします」
教室に、朝出会ったルッカが入ってくる。
「ルッカ・グランツだぞ! よろしくなんだぞ!」
俺は予感していた。同じクラスになるのではないかと。だから驚きは少なかった。
「あ、凪だぞ! 同じクラスになれて嬉しいぞ!」
その言葉で、またクラスがざわついた。
「お前、転校生と知り合いなのかよ」とか、「抜け駆けか? お前には委員長がいるだろ!」とか、言われのないことまで言われている。
「ちょっと、私は関係ないでしょ?」
『いつも夫婦漫才してるくせによく言うよ!』
イーリンからもからかわれ、なぜかとばっちりを受けているフィオナだが、下手に庇うと悪化しそうなので黙っておく。
「知り合いならちょうどいいわね。隣の席にしましょうか」
先生の一言で席が決定した。隣の席に座ったルッカが、こちらを見てにっと笑う。
「これから、よろしくなんだぞ」
「こちらこそ、よろしく」
授業が始まる。いつも通りの静かな時間に、俺はシャーペンをノートに走らせる。ルッカはまだ教科書を持っていないようなので、席を寄せて一緒に見せてあげる。
「凪は優しいんだぞ。ルッカは嬉しいぞ」
「これくらい普通だよ」
ふと視線を感じて顔を上げると、フィオナがこちらを睨んでいた。しまった、少しうるさかったかな。
「少しだけ声を落とそうか。迷惑になったら悪いからね」
「了解だぞ」
小声でやり取りをしているのに、なぜかさらに視線が強くなったような気がする。凄く睨まれている……。
休み時間になると、フィオナは俺の席へズンズンと足音を立てながら近づいてくる。
「授業中にお喋りとは、随分と余裕なのね。そんなに勉強には自信があるのかしら」
随分と機嫌が悪いようだ。
「別にそういうわけじゃないけど、転校初日のルッカが楽しく学校を過ごせるようにと思ってさ」
その時、プツンと何かが切れる音が聞こえた気がした。
「へぇ、そうなのね。もう随分と仲良くなったのね。私のことは名前で呼ばないくせに、ねぇ?」
怖い笑顔で迫ってくる委員長。やばい、やらかしてしまったようだ。
「仲良くって、別に普通だよね、ルッカ」
助けを求めて横を見るが、ルッカの姿はなかった。
「あ、あれ!? ルッカ!?」
「休み時間になってすぐに教室から出ていったわよ? 気付かなかったのかしら?」
なおも笑顔で迫ってくる。あまりの迫力に、ひっと声が漏れる。
「あ、えっと……悪かったよ、フィオナ」
俺がそう言った瞬間、フィオナの頭からプシュー! と煙が吹き上がったかのように、顔が真っ赤に染まった。
「き、急に呼ばないでよ! ビックリするでしょ!?」
「ええ……」
フィオナはそれだけ言うと、自分の席に戻っていってしまった。なんだったんだろうか。
『素直になれない、青春だね!』
イーリンは楽しげに、俺とフィオナのやり取りを見ていた。
放課後になった。特に部活動には所属していないので、そのまま帰る準備をする。
「凪、今日は委員会もないから一緒に帰りましょう」
家が近いため、たまにこうして一緒に下校することもある。フィオナの提案を、俺は素直に受け入れた。
「うん、一緒に帰ろうか」
グッと拳を握るフィオナには気付かずに準備を済ませると、二人で教室を出る。
廊下を歩いていると、前方にルッカの姿を見つけた。
「ルッカはどこか部活動には参加しないの?」
「うーん、一通り調べたけど、特にやりたいことがないんだぞ。帰宅部でいいんだぞ」
「なら、一緒に帰る? 家、多分近いよね」
ぶつかったあの曲がり角は、家からそう遠くない場所だ。あそこでパンを咥えていたのだから、家もあの辺りなのだろう。
「え、ルッカも?」
「ダメ?」
フィオナは一瞬驚いて躊躇ったが、すぐに笑顔を作って答える。
「ま、まぁ別にいいんじゃないかしら……まだ心細いでしょうし」
プルプルと震えている気がするが、とにかくフィオナの許可も出たので、三人で下校することになった。
帰り道、電信柱の影にダンボールが置いてあるのが目に入る。
「もしかして、捨て猫かしら」
「かもしれないね……」
三人で近づく。捨て猫であるなら、保護して飼い主を探してあげないといけないかもしれない。
「猫じゃないんだぞ」
覗き込んだルッカがそう言うので、俺も中を覗き込んでみる。
「えっと……スライム?」
『拾ってください』と書かれたダンボールの中に、スライムが鎮座しており、ぷるぷると震えていた。
「可哀想に、一旦家に連れて帰ろう」
三人で俺の家に向かう。フィオナが「凪のお家に! 入っていいのかしら!?」と、なんだかテンションが高いのが気になるが、兎にも角にもこの子の保護が先だ。
家に連れ帰ると、俺は冷蔵庫から冷たいお茶を取り出し、コップに注いでみんなに手渡す。
「今日は親もいないから、くつろいでくれていいよ」
「親もいない家……!!」
「怖いぞ……」
ハイテンションのフィオナにビビるルッカ。さて、このスライムの子をどうしよう。
「スライムって何食べるんだろう」
「なんでも食べるわよ? 毒でもない限りは」
フィオナが知っているらしい。色々と話を聞いてみようと思い、思いつく限りのことを尋ねた。ルッカからも少し情報があり、まとめるとこうだ。
「つまり、ご飯はなんでもいいけどたくさん食べるからこまめにあげる。排泄はしないし、散歩も必須ではないけど、たまには外に連れていってあげる。乾きにも弱いから、水場を用意すること。よし、分かった」
俺はお風呂場に連れていくと、水を張ったままの湯船の近くにスライムを置いた。
「これで問題ないかな」
ぷるぷる震えながら縦に伸びるスライム。どうやら大丈夫なようだ。
「ありがとうー。助かるー」
ん? 誰の声だ?
「こっちだよ、こっち」
辺りを見回していた俺は、声のした方へ顔を向ける。
「スライムが喋ってる?」
「初めましてー? ゼラだよ。よろしくねー」
「よ、よろしく。俺は一ノ瀬凪って言うんだ」
混乱しながらも名乗りを返す。ゼラは湯船に飛び込むと、水にぷかぷか浮かんだ。
「ご飯は何が食べたい?」
とりあえず本人に聞けるなら、本人に聞いてみようと問いかける。
「んー、なんでもいいよ? 生ゴミでも鉄くずでも食べられるからー」
たくさん食べるらしいし、普通にご飯を作っていたら大変なことになるかもしれない。少し考えないといけないな……。
「分かった、考えておくよ。しばらくここにいる?」
「うんー。ここにいるー」
じゃあまた後でね、と声をかけてダイニングに戻る。
「あの子、喋れたみたい」
「ええ? スライムは普通、喋らないのだけれど」
「驚きなんだぞ」
二人も、喋るスライムは初めて見たらしい。驚いているのが顔を見れば分かる。
「本人もご飯はなんでもいいって言うんだ。何を用意すればいいかなぁ」
悩んでいると、フィオナも一緒に「そうねぇ」と考えてくれている。
「一番手っ取り早いのは、ゴミを食べてもらうことね。ゴミの集積場が近くにあるなら、こっそり潜り込んで食べてもらうのもひとつの手よ」
「ゴミとはいえ、それはなぁ……」
しかし他に方法も思いつかない。俺は仕方なく、近くのゴミ処理施設に夜、ゼラを連れて出かけることにした。




