謀反
感動のシーンだったのだろうと思うのだが、実は話の内容があまり分かっていない。家庭環境の話であるようだし、出会った時から王位継承権を失ったというのは聞いていたが、詳しくは聞かなかった。というより、聞けなかったのだが。
いつか話してくれたら、その時に聞こうと思っていた。俺は今、フィオナになんと声を掛ければいいのだろう。
「ごめんなさい、情けない姿を見せて」
泣き笑いというのだろうか、そんな表情のフィオナの顔を見たら、すんなりと言葉が出てきた。
「情けなくなんかないよ。俺は詳しい事は知らないけど、悩んでいた事に区切りが付けられたんでしょ?悩んで考えて、自分の答えを見つけたんだよね。それはすごく誇らしい事だと思うよ。そんなフィオナを見て情けないなんて思うわけない!カッコイイよ、フィオナは」
「いくらなんでも言い過ぎよ……」
少し朱が差したフィオナに、ルッカからも声がかかる。
「こっちに来る前のフィオナは凄かったんだぞ。取り憑かれたように勉強したり鍛錬をしていたんだぞ。凪にはとても見せられないんだぞ」
「うるさいわね!そんな時もあったかもしれないけれど、昔の話よ!」
「少しからかっただけなのに本気で掴みかかってきて怖かったんだぞー。おかげで凪と最初に会った時に掴み合いする羽目になったんだぞ」
「うっ!」
なるほど、掴み合いをしていた原因はそういう事だったのか。
「ルッカも、地雷だと分かっているならわざわざ踏み抜くような真似しちゃダメだよ。フィオナも気にする事ないからね、色々事情があったのは分かってるからさ」
「そう言ってもらえると助かるわ……」
色々あったが、とりあえずは丸く収まったという事でいいのかな?
『CLEAR!』
突然文字が表示されてビビる。そういえばゲームの途中だった。完全に忘れていた。
『王との対話を果たした!考えを伝え、親子の絆が強まった!お小遣いを貰った!プラス10万R!』
「ああ、私も1万足りないわ!」
がっくしと膝をつくフィオナ。だがそれよりも気になる事がある。
「ねぇ、この目的地イベント……チャレンジマスにしちゃったよね?目的地イベントは?」
「あっ」
カルミラが「やべっ」という顔をするのを見て、何かやらかしたんだろうなとすぐに理解できた。
「そうよ!これはチャレンジマスのイベントだったわよね?私は目的地に着いたのだから、当然目的地イベントもあるのよね!?」
カルミラは視線を合わせようとしないまま、ひゅっと音がしたかと思うと、俺の背後に移動していた。
「ちょっと、逃げるんじゃないわよ!」
「すまん。完全に書き換えたのじゃ。目的地イベントは起きん!次の到着をもって目的地イベントの発生となる……と思う、多分」
「そ、そんな〜」
一瞬希望を見たフィオナだが、すぐに奈落へと叩き落とされた。
「まぁでも、これまでの目的地の報酬って10万Rだったし、チャレンジマスになってなくても足りなかった可能性はあったんじゃないかなぁ……」
「凪、それは心の中に秘めておいた方がいいんだぞ」
呟きを拾ったルッカのアドバイスに、俺は従うことにした。フィオナが聞いてなくて良かった。
ルッカの手番。なんと最後の最後に切り札を隠し持っていた。
『アイテムカード、飛龍便を使用しました!サイコロが2つになります!』
「ええ!?ここで移動系のアイテムカード!?」
ここまで温存していたのかと少し驚く。まさかのルッカが到着するのか?
「ルッカがゴールしても遅延行為になるだけよ!遠慮しなさいよ!」
「1回くらいいい目を見たっていいんだぞ!酷い目にあってばっかりは嫌なんだぞ!」
思えばルッカは一度も目的地に到達していないし、何度も死ぬ目にあっている。ろくな事がないな……少し可哀想になってきた。
「いくんだぞ!」
ルッカがサイコロを転がす。2、2、『4』!
「またゾロ目で足りないんだぞ〜!」
「何か良くないものが憑いてるんじゃ……って憑いてたな」
言うまでもなくマグノリアの事である。
「まぁルッカらしいわね」
そんな会話をしていると、ルッカの前に鞍の付いた飛龍が現れた。目の前で姿勢を低くすると、ルッカとマグノリアが鞍に足をかけて跨る。
「あれいいなー」
ドラゴンに乗るなんて、全男子の憧れではないだろうか。乗ってみたかった……
二人を乗せた飛龍が飛び上がる。そしてそのまま、凄い勢いで前進した。
「速いんだぞ〜」
ルッカの声が少し聞き取りにくい。風の音が邪魔をしている。
「サラマンダーより、ずっとはやい!!」
聞き覚えのあるセリフに、なんだか嫌な気持ちになったが、それは心の中に秘めておこう。
イーリンと同じ魔法研究所に止まったルッカは、イベントマスでプラス4万R。しかしマグノリアが暴れて研究資料を滅茶苦茶にしたため、マイナス4万Rとなり、結果は相殺された。
『じゃあゴールするね!』
執事がサイコロを転がす。出目は『5』。
周囲がフィオナと同じ王城の中へと変わる。
「よくぞ辿り着いた!褒美を取らせよう!」
どうやら目的地としての役割は問題ないらしい、と一安心していると――
「今ですぞ!者共!かかれ!」
執事の言葉と同時に、広間に大勢のエルフたちがなだれ込んできた。そして武器を掲げ、王に襲いかかる。
「お、お父様!」
「私に対して謀反だと!?そのような事、出来るはずがあるまい!」
呪文を唱えようとする王。しかし、魔法が発動する様子がない。
「な、なぜだ!」
「対策くらいはしてあります。魔法の発動を阻害する魔道具です」
執事が腰から下げている拳大のランタンのような物を見せながら、笑みを浮かべる。
「殺れ!」
グサッ!ザクッ!嫌な音が響き渡る。
「ぐおお!」
王は血を吐いて倒れる。フィオナが青い顔で駆け寄るが、既に事切れているのか、ピクリとも動かない。
「お父様……」
『イベントマス!』
『王位を簒奪した!侯爵から王になった!就任した祝いを受け取った!プラス20万R!』
俺はカルミラの姿を探したが、どこにも見当たらない。
――逃げたな。




