二人でショッピング
少し大きな通りに出ると、それなりの交通量で車がひっきりなしに走っている。初めてあれが道路を滑るように進むのを見た時、フィオナもルッカも兵器か化け物かと本気で騒ぎ立て、周囲をざわつかせたのは記憶に新しい。今では驚きこそしないが、あの鉄の塊が人を乗せて自在に動くという事実には、まだ完全には慣れていない。
信号が青になったのを確認し、二人は歩き出す。ルッカはお行儀よく手を挙げていて、その真剣な横顔を凪が見ていたら、きっとほっこりと笑ったに違いない。横断歩道を渡りきると、目的地の大きな建物が前方に見えてきた。いくつもの店が入った複合施設で、今日のお目当ては手頃な値段で服が豊富に揃っている有名チェーン店だ。
中へ入った途端、色とりどりの服が視界いっぱいに広がり、ルッカはもちろんフィオナも思わず目を輝かせてしまう。布の質感も形も実に多彩で、棚から棚へと視線を移すだけで時間が過ぎていく。途中でルッカが「全然サイズが合わないぞ!」と嘆き出したので、フィオナは店員を見つけて事情を説明し、ルッカに合うサイズはどこかと尋ねると、にこやかに子供服売り場へ案内された。むくれているルッカの様子に、フィオナは笑いを堪えながらも、確かに身長だけを見れば妥当なのだろうと内心で納得する。
一旦別れてそれぞれ服を見繕い、フィオナは落ち着いた色味のものや動きやすそうなものを中心に数着選ぶ。やがてルッカも両腕に服を抱えて戻ってきた。
「どうせですし試着してみましょう。似合うかどうか見てくれるかしら」
「分かったんだぞ、ルッカの服も見てくれ!」
こうして始まった二人きりのファッションショー。フィオナが更衣室から出てくるたびに、ルッカが真剣な顔で「似合うぞ!」とか「それは微妙だぞ」と率直に評価していく。いつの間にか近くで服を選んでいた客までもが足を止め、最後の方には「おー」と感心した様子で小さな拍手が起こるほどで、どうにも目立ってしまうわねとフィオナは苦笑しながらも、ルッカの意見を参考にしっかりと選別していく。
入れ替わるようにルッカが更衣室へ入り、しばらくして出てきたと思えば、何故か動物の着ぐるみパジャマだったり、真っ赤なサンタのような子供服だったりと、どう考えても日常使いには向かないものばかりである。
「選び直してきなさい」
そう言われ、「えーっ!」と不服そうに声を上げつつも、再び売り場へ戻っていく背中はどこか楽しげだ。
その間にフィオナは下着のコーナーへ向かう。あまりにも種類が多く、形や名称の違いもよく分からなかったため店員を呼び、説明を受けながらいくつか選ぶことにした。試着室でフィッティングまでしてもらうと、柔らかく包み込むような感覚と適度な支えに思わず感嘆の息が漏れる。締めつける苦しさとは無縁で、それでいて胸の形が整って見える気がして、フィオナは内心で大いに喜んだ。
やがてルッカが再び服を抱えて戻ってくる。今度はきちんと日常で着られそうなものばかりで、フィオナは一応試着させてから一緒に吟味し、互いに納得のいく数着を選び終えた。
会計を済ませて店を出ると、そのまま建物内にあるホームセンターへ足を向ける。植木や草花のコーナーには土の匂いが漂い、整然と並べられた苗や種が目を引いた。
「何を買うんだぞ?」
首を傾げるルッカに、フィオナは答える。
「植物の種よ。庭で育てるつもりなの」
何か自分に出来ることはないかと考えた末に思いついたのが栽培だった。少しでも家計の助けになり、同時に楽しみも増えるなら一石二鳥だと考えたのである。
「なるほどなんだぞ」
感心したように頷くルッカと共に、いくつかの種類の種とプランター、必要な道具を購入し、店を後にする。そのまま施設を出て帰路につくと、行きがけにも見かけた公園にクレープの車屋台が止まっているのが目に入った。
「せっかくですし、少し休憩してから帰りましょうか」
フィオナの提案に「やったぞ!」とルッカが嬉しそうに声を上げる。少し悩んでそれぞれ注文し、出来上がったクレープを受け取って公園のベンチに腰掛けると、甘い香りがふわりと漂う。ゆっくりと味わうように食べ進める中で、ルッカの頬に生クリームがついているのを見つけ、フィオナはそっとティッシュで拭ってやる。くすぐったそうにしながらも、ルッカはにこっと笑った。
穏やかな午後の空気が、二人を優しく包み込んでいた。




