625話:動き出す夏5
ある日、早朝から屋敷に人が来た。
来訪を受けて、僕はひっそり移動をする。
行く先はハリオラータの監獄。
「件の鉱山の破壊をご報告いたします」
ハリオラータ幹部のアルタが真面目にする横で、マギナは変わらず甘い笑みを浮かべる。
「こんなに早くにごめんなさい。でもすぐに聞きたいでしょうし、喜んでくれると思って」
「うん、呼んでくれて良かった。ここまで情報を持って来ただろう外の彼にも労いを」
セフィラ曰く、以前ハリオラータの頭のクトルが連れていた一人がいて、伝令役らしい。
何かしら特殊な魔法でいち早く伝えられるんだろう。
お蔭でテリーが戦場へ到達したかどうかっていう今、敵の背後に打撃を与えたと知れた。
すぐさまの影響はないけれど、東の兵乱の裏にいるシャーイーには確実に影響と動揺が出る。
本来の犯罪者としての恐ろしさを発揮させなければ上々、後々打撃にもなるし。
相手に兵乱を長引かせられない事情ができれば、テリーが帝都に帰れるのも早くなるんだ。
「ちなみに、鉱山の破壊について、ハリオラータの関与はばれてそう?」
「うふふ、大丈夫。クトルがシャーイーと交渉中に事を起こして、シャーイーと一緒に駆けつけたのよ」
マギナが言うのはつまり、味方のふりして、実行しただろう他のハリオラータ幹部を密かに援護したとかかな。
もしくは、シャーイー側の混乱につけ込んでの誘導か。
なんにしても、表向き自由なクトルが自主的にシャーイーに協力した。
しかも捕まった仲間を助けるための金策中という建前で。
まさか捕まってるはずのハリオラータ幹部が、鉱山破壊なんてしてるとは思わないから、シャーイーとの交渉を重要視した協力的な動きにしか見えないだろう。
そもそも鉱山を攻撃する動機がハリオラータにはないから、シャーイー側としても僕との関りを知らない限り、想像もできない行動だ。
「破壊範囲は改めて確定情報をお知らせします。今は、確実にその鉱山の活動を既存の半分以下に落としたとだけ」
アルタが言う鉱山としての機能が半減って、あまり想像はできない。
けど、鉱山は労働も含む組織的な動きのはず。
そう考えると、半分確実に機能不全って、残る半分もまともに動けないんじゃないかな?
「うん、それなら鉱山を破壊と言っていいだろう。産出量が落ちることで、武器輸出に関しても見直しが行われるはずだ」
兵乱への関与の継続が難しくなったことで僕が頷くと、アルタが続ける。
「近くの溶鉱炉にも穴をあけたとのことですので、今あるものを無闇に出すことも控えるでしょう」
おっと、けっこう悪辣な手を使ったな。
設備潰されたってことは、新しく作れないし、作る予定でいた金属も使用不能になる。
つまり、手元にある完成品だけやりくりする必要が出てくるんだ。
そうなると、東の兵乱は優先度が低い。
「今シャーイーが一番重きを置いてる商売相手は知ってる?」
「国では聞かないけれど、何処も裏では何してるかわからないものよ。怖いわねぇ。あぁ、皇子さまが望むのなら、私が聞いて来てもいいわ」
にっこりと僕に言うマギナ。
どういうことかと思ったら、国の要人にハニートラップをかけるそうだ。
そして重きを置かれるだろう、国の要人なんて言う人を探ると。
マギナの魔力は香りを持っており、それが魅了の能力のようなものになる。
呼吸しないわけにもいかないし、どうやっても術中にはまってしまう。
どんなに口が堅くても、マギナを前に口を閉じていられないんだとか。
「魅力的な誘いだけど、マギナにはここでみんなの帰りを待ってほしいかな」
「まぁ、嬉しい。皇子さまとおしゃべりができるのは楽しいわ」
マギナは僕にもハニトラかけようとしてる?
いや、セフィラがいるからそんなの通用しないことはわかってるはずだ。
それにそもそもここは監獄。
魔力の放出も最低限に抑えられてる。
それでも親しげにされて口を滑らせないよう気をつけよう。
「破壊活動は成功しました。それとは別に報告があり、本日はお呼び立てした次第」
アルタが仕切り直して言う。
僕はハリオラータに鉱山破壊以上のことは言ってないけど、溶鉱炉のように少しの工作もしてた。
そこは僕が弟の功績のために動いてるとわかってるから、東の兵乱に影響する形を取ってくれたんだろう。
そうなると、そっちに関係するシャーイーの動きかな?
武器を売って戦争を広げ、そこでまた武器を売って金にするっていうのがシャーイーだ。
そんな犯罪者な上に国が背後についてる。
だから兵士の輸出までしてるっていう厄介さ。
東の兵乱への武器を止めたら、代わりに兵でも出す話になったとしたら、それは対処が必要だ。
「クトルが表向きの交渉の際に聞き出しました。…………東の兵乱において、帝国第二皇子誘拐の計画があると」
「…………は?」
思わず漏れた低い声に、アルタが口を閉じるから、僕は手を振って先を促した。
「東の兵乱に第二皇子が出ることで、鎮圧によって功績にする。その動きを知ったシャーイーは、身代金目的に第二皇子の誘拐を計画しており、クトルに手を貸すのならば、相応の金額を支払うと誘ったそうです」
「詳しい手口は?」
僕はアルタに根掘り葉掘り聞く。
そんな僕に、アルタは知る限りを語った。
わかったのは、兵乱の首謀者をあえて生け捕りにさせるシャーイーの動き。
そうすることで、シャーイー側の人員も一緒に捕まり、陣営の中へ入る。
他にも投降兵を装って人員をできるだけ入り込ませるそうだ。
そして勝利に気を緩めた時を見計らい、ことを起こす。
「即座に兵乱の責任を取らせて処刑しない限りは、危険性が残る行動であるため、皇子殿下にお知らせをとお呼びしました」
「そこに、お金以外の目的はない? 例えば帝室の威信を揺るがせようという誰かの依頼」
テリーは第一位の帝位の継承権者だ。
僕が前に出ないし、ルカイオス公爵も倒れないから、揺るがすにはまだ若いテリー本人を対象に攻撃することは考えられる。
もちろんそういう狙いを警戒して備えもしてあるはずだ。
でもシャーイーという名をはせる犯罪者の組織が動くとなると話が変わってくる。
アルタは伝聞で僕に報告してるから、話す内容はどうしても簡単になった。
テリーの誘拐なんてやるために、実際動く人員が何処にどれだけ仕込まれるかわかったものじゃない。
「その報告は鉱山のことを起す前後で聞いたんだよね。そして計画は持ち掛けたのは今より前。そうなると、今さら止めるのは難しい」
「金目的だけでやるには、リスクが大きいのは確かです。だからこそ、依頼者の存在は疑うべきでした」
アルタは想定していなかったと反省して見せる。
つまり、そうした話はクトルからはもたらされてない。
この様子だと、手を貸すという誘いも断ってるな。
断っておいて今さら探るのもおかしいし、計画を止める段階も過ぎてる。
僕はじっと黙って、考えをまとめた。
そしてアルタから目を移す。
「マギナ、君にも行ってもらって情報を抜いてほしい。アルタは残ってもらうけど、クトルたちにもっと本気になってもらうために、マギナに手紙を持たせたい。文言を考えて」
「まぁ、頼ってくれるのは嬉しいけれど、カティはもう戻りたがってるのではない?」
「イムも魔導書やそれに類する文章に触れられるここに戻ることを望むでしょう。バッソも随分と興味を示したので、すぐに次というのは難しいかと」
マギナに続いてアルタも、追加の仕事は渋られそうだと言う。
それは淀みの魔法使いとしての執着もあって、無理強いは難しいし、暴走の恐れもあるんだろう。
けど彼らはハリオラータとして活動していて、その意義にはなんの抵抗もない。
だったら執着を上回る情動を揺さぶればいい。
それが効くことは、クトルで実証済みだ。
「とっておきよりも上の、死蔵予定だった技術を出そう」
これは僕の本気度を伝えるためでもある。
だって、ルキウサリアにも伝えてないことなんだ。
だから死蔵予定だった。
「人工魔石の作り方と、現状成功はしても、実用に足る大きさに成長させられないことに関する原因の理論だ」
「まぁ、魔石を作れるの? すごいわ」
「それは、本当なら死蔵する意味などないはず…………」
マギナは素直に賞賛するし、アルタは僕の立場を思い出して口を閉じる。
テスタにやらせて再現性と、意見を聞いた。
結果、現状塩で魔石の粒はできることが確認できてる。
けど成長させられないという問題が残ってた。
そこに何があるか、どんな理屈なのか。
その凡その推測は立ってるけど、時間を取られるのも嫌だし、塩では発展性が少ないと見てテスタに丸投げしたままだった。
「知りたかったら、僕が満足する結果を持ってきてと伝えて」
二人は興味を示したし、それで無理とも言わない。
だったら、知識欲しさにハリオラータは全力で、シャーイーによるテリー誘拐を阻止するはず。
ルキウサリア側に言い訳や秘匿の手回しが必要だけど、弟の安全には代えられないんだ。
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