611話:貴人戻る1
パレードの夜の部の結果は上々。
暗いからこそ灯りは話題になり、錬金術科が作ったって話もちゃんと広まってる。
あぶれてたリーウス校の学生たちも、パレードを成功させたっていう実績になったとも聞いた。
教養学科のレックスのトーナメントとは、あまり絡んでないから知らない。
ただディオラから、父兄が自分たちでやるほうに盛り上がってしまったと聞いた。
来年やるならテコ入れがいると言ってたっけ。
父兄に参加募ってトーナメントでもするのかな?
まぁ、そこら辺はソティリオスが後輩に申し送りするそうだ。
「それでもいい反応だったし、テリーたちに報告しようと思ってたんだけど」
僕は寝室で、伝声装置を手に予定変更を余儀なくされる。
今日はテリーから連絡がある日。
学校行事について何処から話そうか意気込んでたら、テリーのほうからお知らせがあった。
東の兵乱を治めるために、出発する日にちが決まったと。
「現状優先すべきは送った護身の道具の稼働が可能であったかどうかです」
寝室で僕しかいないからって、セフィラが淡々と突きつけて来る。
楽しかった学園のことより、送ったゴーレムで作る自衛手段が優先なのはわかるけどね。
送ったのは試作品で、完成形だから、僕以外には扱えない。
それとは別に送った設計図は、テリーに自作してもらうことで武器として使うゴーレムを、テリーだけが稼働可能にするものだ。
「試作品のほうをどうするかも、聞かなきゃいけないもんね」
僕は楽しい話を横において、やらなきゃいけないことを優先した。
音を鳴らして確認すれば、護身用ゴーレムは父経由できちんと渡されたと返る。
「え、滑らかな円形にならない?」
「形成に関する術式に不備があると思われます」
「まぁ、けど動作はしたらしいし、扱いに不備がなければいいかな?」
送った試作品のような形にならず、作り直したんだとか。
基本ゴーレムは使い捨てで、そうじゃないと魔力的なコスパが悪い代物。
もう失敗と見て、角ばった腕輪になったゴーレムを起動したとか。
棒状に変形するだけの警棒だけど、腕輪状態と同じで角ばってたそうだ。
性能自体に問題はないと見て、改めて作っても同じ角ばった形になったという。
だからそのまま使うことを勧めた。
「で、試作品は陛下預かりか」
僕が作って送ったほうの変形ゴーレム。
けど一度変形すると戻らないし、戻したりさらに変形には、術式の送り込みと魔力が必要になる。
そうなると、内蔵した術式や使った素材の耐久力によっては、破損する。
どちらも最初から組み込むのと違って、膨大な負担になるし、故障の元だ。
けどウェアレルと作った雷の魔法は、別に使い手を選ぶことはない。
そっちが組み込まれてると魔力さえ通せば使えるから、まとめて父が管理するそうだ。
「残る年少の皇子がゴーレム作成を続けるならば、後学のためより詳しく失敗の検証を推奨」
「いや、それは必要だろうけど。今は帝都を離れるテリーだよ」
セフィラが知識欲を前面に出してくる。
双子は僕との形の違いを気にして、テリーが発った後もゴーレム作りをするという。
もちろん僕はすぐに、作るのは動かないゴーレムだけで、攻撃性を持たせることはしないよう忠告する。
ただそこに思わぬテリーからの知らせがきた。
「え、二人とももう上位の魔法、使えるの?」
「それぞれ使える魔法属性に偏りがあるため、共にすべてが使えるわけではありません」
セフィラがいうことはわかってるけど、それでもすごいことのはずだ。
ワーネルとフェルはけっこう才能豊かだと思う。
芸術方面にも明るいし、錬金術にも魔法にも通じてる。
ちょっと気分屋なところが玉に瑕だけど、閃きはもう神がかりレベルのようだし。
「う、うーん、聞いてみようかな?」
僕は迷ってからテリーに疑問をぶつける。
どちらも錬金術に興味を持ってるけど、フェルはずっと錬金術科に入ると言っていた。
入学に向けて、周囲はどう思ってるんだろう?
「あ、やっぱり。二人とも周囲には魔法学科勧められてるんだ」
「属性に偏りがある九尾の例を鑑みても、上位を使えることが必ずしも優位にはならないと提言」
セフィラが言うとおり、聞けば学園で使える魔法が限定される九尾は、力を認められるまでに相当な力技を押し通したらしい。
基本全属性が使える前提の人間の魔法学科、そこに他種族の九尾は力技以外にも、使える属性が足りないことが足枷になったようだ。
それを身体強化しか使えないヨトシペなんかは、全部フィジカルに物を言わせてクリアしたというのだから何したか想像もつかない。
けど苦労したことだけはわかる。
「これは、左翼棟使う時に、ワーネルとフェルの進路相談のために時間作ったほうが良さそうだね」
今連絡に使ってる伝声装置はテリーが持っていく。
だから残るは左翼棟の金の間のピアノに繋がった伝声装置だ。
日中に僕も時間を合わせて双子とやり取りをしよう。
そういうことを伝えると、テリーからも相談が来た。
どうもまだ騎士のユグザールが、護身用のゴーレムを使うのを渋ってるらしい。
「何が恐ろしいのか不明」
テリーから伝えられるユグザールの拒否理由にセフィラが突っ込む。
「うーん、ウェアレルが普通に使ってるから感覚麻痺するけど、雷の魔法使うのは相当珍しいというか、すごい実力がなくちゃできないことっていうか」
「できることを簡便にし、己で扱うのみ。恐ろしさなどありません」
「手に余るとか、そういう感覚なんじゃないかなぁ」
「騎士として守護が職務。すべきこと、なすべき使命は変わらず。であれば、己の足りない力を補うすべを受け入れるべきです」
うーん、恐れるっていう感情は知ってても、どうしてそういう思いが湧くかはわからないようだ。
「まぁ、初めて触れるものに対して腰が引けてるだけだよ」
僕は同じことをテリーにも送って、ユグザールには諦めさせる方向で押す。
忙しいテリーとは出発までの予定や、出発後の作戦の概要を聞いてほぼ時間が尽きた。
不安や心配事の相談に少し乗って、通信は終わる。
「僕もテリーたちが入学した時の仕込み、やらないとな」
「八百年前の天才に関しての書籍を作るにあたり、構成に偏りあり」
「そりゃ、僕が知ってるのは帝室図書館に遺されてた本と、封印図書館。後は切れ切れに残された痕跡で、実物見たのはロムルーシだけだし」
八百年前、封印図書館を作った天才の後、それを語る本を隠す。
そのためには本を作ることをしなくちゃいけないんだけど、今は知ってることと、書くべきことなんかを整理する段階だ。
結果、知ってることは多くても、実際に断定できることは少なく、推測が多くなっていた。
「詳細を知る者に聞き込むことを推奨」
「イー・ソンとイー・スーと、ウィーリャよりはツィーチャのほうが何か聞いてそうだけど、どれだけイマム大公が調べられたかだよね。あと、技師のほうに何かないかな。セフィラは水底図書館として残された書籍を書いた錬金術師について、情報あったら明日教えて」
僕はそう言ってベッドに横になる。
テリーと話し、あまり夜更かしもできない。
僕も変わらずというか、なんだか王城では、僕を呼んで話聞く順番待ちされてるんだよね。
午前でこなしておかないと、待ちきれなくなったテスタが余計な画策し始めるし。
起きてそんな午前を過ごし、テスタから封印図書館から出した器具の稼働状況を報告されたり、王城から回って来る報告書や質問書への回答を書いたり。
そして午後には一人で登校。
いや、いつもの見守りの人員はいるんだけどね。
「うん? 何か音が…………」
僕は思わず足を止める。
すると、セフィラが指摘した見守り要員の人に、別の人が走り込んで何かを言った。
それと同時に足を止めてる僕を見るから、何かあったんだろうことはわかる。
「っていうか、この賑やかな曲って、聞き覚えがあるな?」
僕は今、学園に向かう道にいる。
そして音が聞こえるのは街の門のほう。
じっと道の向こうを見ると、何やら午後の日差しを弾いて光るきんきら金な装飾が見えた。
「まさか」
思わず呟くと、もう僕に認識されてると諦めた見守り要員が早くいけと手振りで示す。
けど、思いのほか音が近づく速度が速い。
気のせいじゃなければ、砂埃立ってない?
(騎乗しています)
セフィラのお知らせで、砂埃と速さの理由はわかった。
(あぁ、ドラグーンは学園に置いて行ったもんね。って、ここって騎乗は禁止じゃなかった? そういう交通法的なものあったよね?)
(歩かせるだけなら許容です)
(あの砂埃、絶対走らせてるよ)
どちらにしても、相手が馬なら僕が歩いても学園に辿り着く前に追いつかれる。
何せ砂埃立てる勢いがあるんだし、そうなると先を急いでも無駄だ。
だったらやることは一つ。
その場にとどまって道の端でやり過ごす。
そう思って道の端に向かえば、僕の意図を察した見守りの人員も、僕が死角になるよう動いてくれたのだった。
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