594話:道を作る4
王城でゴーレムの今までにない活用を話し、その後は恒例となったディオラとのお茶。
まぁ、休みの間だけで新学期始まってからはなしになってた。
けど今日はちゃんと理由を持ってるし、お茶一杯の間なんてケチなことは言わずに会う。
「お待ちしておりました、アーシャさま」
やる気のディオラが笑顔で出迎えてくれる。
その手にはいくつも資料。
そして女官だろう人たちも、何やら街路の図を広げて掲示中。
すぐにディオラは用意されていた椅子に僕を案内すると、意気揚々と用意していた資料を渡して来た。
「ごめんね、ディオラ。錬金術科とリーウス校での話だったのに」
「いえ、夜に錬金術で光を灯し、パレードを行う。素敵な案です。それによって日頃の研鑽を見せる場のなかった学生にも光を当てる。競うことは必要ですが、取り上げられなかった者が鍛錬を疎かにしたばかりではないのも事実。ですから、こうして場を用意していただける発案はありがたく思います」
いつにない早口で応じるディオラ。
なんだか最初に会った頃を思い出す。
大人っぽくなってるんだけど、そういう昔から変わらないところもあるのは可愛らしい。
やる気はそれだけ、ディオラも面白い案だと思ってくれてるんだろう。
ディオラはパレード夜の部としての発案に、連名して参加。
それによって教師たちが労を負って許可をもらうはずの街中での活動が、王城に直接挙げられてる。
すなわちすぐさま承認が下りるんだ。
もちろんディオラのほうで、管轄の役人との打ち合わせの上でのことだけど。
直接働きかけられるディオラが動いたことで、学生だけで提案するよりも早く段取りが決まっていた。
「こちら、夜の部の経路をご提案するものです」
「経路が昼とは違うんだね」
「はい、光を掲げると言ってもやはり夜の警備も難しく。あまり長く行進もできないので、その分、学園の近くから出発する形を取りました」
昼に比べて時間は短く、進路も大通りじゃなく一つ小さな道で学園に向けて進む。
馬車道は暗いと危険で、規制も昼なら気づきやすいけど、夜は規制越えて馬車が入ってきたら危険という配慮。
だからそもそも馬車の入れない道を選定したそうだ。
「現状、小雷ランプはいくつ作っていらっしゃいますか?」
「うん、実は王城の一部で小雷ランプ作りをやっていてね。そこで用途もなく余っているものを二十くらい借りることを考えてる。錬金術科で作った物も入れて五十。これでギリギリかなと思うんだ」
「確か、今まで街灯のために作られた物よりも、手持ちであるために小さいのでしたね」
「そう。その分光も弱めだから、数を揃えたい。それで言えば、小さな光でも明るく感じる暗さがある経路はありがたいな」
僕は女官が広げてる街路図を見ながら頷いた。
あぶれてる人たちを集めてるから、急に言って反応する人はそこまで多くはない。
そもそも錬金術科もとなると、なんだか警戒されるというのはリーウス校から聞いた。
「リーウス校からは二十八人が参加を表明。楽隊に関しては、音楽科から人と楽器の貸与は可能だということだったよ。で、僕たち錬金術科で行うなら、僕たちの雑用はなしってことで、全員参加可能」
「音楽科からの人員も含め、五十人ほどのパレードということでしょうか」
「今回はね。これで実績になって来年もできるとなれば、また違うし。もっと早くに他の学舎と連携を取れれば志願者はいるだろう」
今回はラクス城校と分校のリーウス校での有志。
錬金術科が教室を置くアクラー校にも騎士科あるけど、そっちには調整の問題で有志は募らずにいた。
もっと下の学舎にも騎士科ではなく、軍志望の学生が通う学科があるとかで、根回しして時間をかければそれなりに人は集められるだろう。
今回はお試しの意味が強く、そこまではしてない。
「警備としても、人員を割くにはほど良いかと」
「うん、その辺りも任せきりでごめんね」
「いえ、錬金術の活用を提案していただけることで、我が国も錬金術を表に出す機会を得られます」
封印図書館知ってるディオラは、その行き過ぎた技術力も知ってる。
だからこそ、今錬金術を見直す動き止まりな様子もわかってた。
封印図書館から出しても、そのまま披露するんじゃ駄目だ。
下手に注目を集め過ぎれば、まだ手に負えない技術もあるのに暴き出されて暴走なんて、それこそ八百年前の天才が封印図書館にした意味がない。
ただそうなるとどうしても、ダウンサイジングでの普及が求められた。
テスタのように既存技術と合わせて、新たな進展って形で出せるなら一番だけど。
なかなかそんな都合よくはいかないしね。
「僕もこういうことは初めてだから、ディオラに提示してもらえると助かるよ」
「はい!」
嬉しそうな様子が、なんだか子供らしくてかわいい。
僕もにこにこして話を続けた。
「それで、リーウス校と音楽科とも話したんだけど、夜ってことで音楽も変えようって話になってるのは聞いてる?」
「そうですね。昼のパレードでは軍歌で勇ましく行います。その分騒がしさにも繋がるかと」
「さすがに日が暮れると、もう寝てるって人もいるだろうしね」
この世界、電気がないから街灯も大きな街の主要な道にしかない。
だから就寝を日の入りと共に、なんて人は珍しくないんだ。
まぁ、ここは街だから夜から開く店もあって、そこまで極端な人は少数ではあるけど。
それでもうるさかったなんてマイナスイメージは避けたいところ。
「だから、聖歌を奏でるのはどうかって言われてる」
「それは…………曲によりますかと」
軍が宗教的な楽曲弾けるのかって思ったら、戦死者を弔うこと前提で軍楽でも履修するんだとか。
ディオラの反応は、そういう前提を知ってるからだろう。
リーウス校からも、宗教関係の楽曲へのイメージは葬送だと言われた。
「音楽科曰く、神に戦勝を祈願する曲もあるってことだったよ」
「あ、はい、ございますね。ですが、それもまた軍歌に近い勇壮なものでは?」
「うん、うるさいかもしれない。だから、いくつか曲を集めて吟味して候補を絞る。ディオラからも意見を聞きたいって、リーウス校から要請が来てたんだよ」
僕は音楽科から預かってきた楽譜を渡す。
どれも聖歌らしいけど、僕は聞いたことがない。
そもそも教会近づかないし、宗教的な催しにも不参加だしで聞く機会がなかった。
聞いたところによると、神の恩恵を寿ぐ中に、その強さを謳う聖歌らしい。
昔の偉い人が、神が味方して勝ったという感謝の賛辞を歌にしたんだとか。
神の使いが悪魔を打倒す様子を謳った聖歌もあるそうだ。
「聞かせてもらったけど、どれも聖歌らしくゆったりした曲調で、夜でもいいと思うんだ」
「ただの楽曲ではなく、歌詞のついた聖歌を選ばれたことに意図はございますか?」
ディオラが気づいて聞いてきた。
「うん、なんか知ってる歌だったら一緒に歌って、見てる人たちと一体感とか演出できるかなって。少数だからこそ生じる効果を狙ってみたいんだ」
音楽科曰く、歌を歌うことによる思想統制的な効果はあるそうだ。
群衆が一つの方向性を持つ力とか色々言ってた。
軍歌による戦意高揚も同じ意図があってとか説明されたんだけど、この世界の音楽科って何を教えてるんだろう?
いや、前世の音楽科も知らないけど。
歌を歌ったり、楽器を奏でたりだけかと思ってたけど、どうやら違いそうだ。
「まぁ、さすがアーシャさま。目の付け所が違いますね」
「音楽科からの助言もあってこそだよ」
良かった、ディオラもそんな歌の効果とかは知らないようだ。
だったらあの音楽家たちの言説は一般的じゃないと思っていいだろう。
そのまま打ち合わせを続けて、役割分担を明確にする。
「僕たち錬金術科は基本的に明かりを掲げるだけ。パレードは騎士科に任せる形で、楽隊には音楽科からも人を借りて、あと、聖歌隊的な人たちも…………」
「そうなると明かりが多くても、照らす人員が足りませんね」
「そうなんだ。一人一個持ってくれれば一番だけど、両手塞がる人たちがいるからさ」
音楽はもちろん、馬を操るのに片手は危険だ。
「松明片手に夜間行軍の訓練を参考にできなくはないって言われたけど、乗馬しながら照らしてもらうのは一人か二人くらいの上手な人に限ろうと思ってる」
「では、人手を募ることをいたしましょう。明かりを掲げるだけであるなら、事前の訓練なども必要はないでしょうし」
「あ、人を増やすなら、衣装に関して美術の学科からね…………」
パレードだからぱっと見、お揃いとか着飾ったりとか拘らなきゃいけないらしい。
その辺り、リーウス校からも必要ってことで言われてる。
僕たち錬金術科も揃いのスモッグみたいなの着ることになってた。
「衣装関係で音楽科から、芸術家の演劇をする学科に声かけるとかいう話にもなってるんだ。音楽科って、放っておくと広がっていきそうで、何処かで止めないといけないと思ってるんだけど、様子を見に行くのも時間がかかるんだよ」
「アクラー校からでは連絡が取りにくいのですね。わかりました、お任せください」
頼む前に引き受けてくれるディオラが、頼りになりすぎる。
「すごく助かるけど、ディオラは無理してない?」
「いいえ、それよりもお役立ちできるならこんなに楽しいことはありません」
すごいやる気だ。
けど楽しそうで、水差すのも悪い気がするくらいの笑顔を返してくれる。
それならそれで、僕も一緒に楽しめるのが嬉しくもあった。
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