593話:道を作る3
王城で、僕は魔導伝声装置を使わせてもらい、父と連絡を取った。
それと、錬金術の成果を送るために、ルキウサリアの早馬も借りる。
代わりに僕もお話のために時間を取った。
やっぱり大親方からの報告で、今までにない錬金術の道具を作ったことが聞こえてるそうなので、大まかに経緯と利用目的を説明する。
「何やら奇怪な。人力以外で動くが、大がかりな炉がなければならないという想定か」
「まぁ、そうですね」
蒸気で動くというのがまず理解できず、なんの準備もないと説明もしずらい。
それでもルキウサリア国王は、設備として必要なものを理解したらしい。
そうして話は魔導伝声装置を使ったことにも及んだ。
「鉄の道なる新たな錬金術を皇帝陛下に相談されたとか。帝都で主導すると?」
「状況から案だけですね。論文で成果にできればと思っていますので、こちらで作るとしても、工房に提案した以上のことは考えていません」
僕がって言うか、第一皇子としての問題は、成果を出せる年齢になってないテリーだ。
僕を排除したい両公爵は、変に目立つと手を組む可能性もある。
そして皇帝としてまだ弱い父の権力の及ぶ範囲も見極めないと動けないし、実際に作って運用って考えると、何処でやるかっていう土地の問題もあった。
「工房はアズロスからの実績作りで」
「実績…………」
なんかルキウサリア国王が呟いて考えこんだ。
「では、ここで実績として論文を先に出してはどうだろう。帝都では場を作るのも、学会に顔を繋いでいない状況では難しいはず」
僕は表向き、目立たず留学を過ごしてた。
今もほぼ表に出てないし、ルキウサリア国王も僕が目立つことをしないのはわかってる。
「天の道に関して、経過は共有している現状。それと同時に展望をまとめて五か年計画はそちらの屋敷にも届いているはずだが」
それは聞いてた。
天の道をやってみて、実際造り、今年も使用を続けて結果をまとめるってことも。
それと同時に五か年計画で延伸するって報告書も屋敷に届いてるし、それのたたき台が出された会議には何故か僕も参加させられたし。
そのための予算や建材、人員の拡充を同時に行いたいっていうところも読んだ。
「その際に実際の運用を元に論文の作成を行うので、そこに殿下の名を入れさせていただきたい」
「けど、それだと…………」
「話はこれだけではなく、合わせて」
ルキウサリア国王は言いながら、人を呼んだ。
するとすぐに別の文官が呼ばれてから、暗唱するように語る。
「ただいま、小児ポーションの経過報告のための論文作成が行われております。また、熱病に関わる、食物における毒物の効果範囲という論文も、テスタ老より殿下のみ名をいただけないかと。発表予定はなくとも、塩から別の物質を精製可能にする技術に関しても論文は作成しておきたいところであります。また、天の道に関しましては金属製造における、金属混合の手順と形状の発案に関して触れる際に、殿下のみ名をと。転輪馬では叶わずにおりましたものも、改めてその実用と運用の結果を論文にまとめる際にはみ名をいただければ。そしてこの一年で必ず論文に手をつけることが決まっているゴーレムとその錬金術に関しても、お名前をいただきたい。錬金法に関しては、未だ見通しは立ちません。しかし論文となれば殿下の名は除外できず。菓子のレシピに関しましても、屋敷の料理人が書籍にまとめます際には殿下のみ名を必ず付記するよう命じることで、他にも関わった料理人たちもそれに倣わせたい所存」
つらつら僕がしてきたことに関して挙げられた。
テスタ関係の薬系では、すでに根回しされてる。
助手とか弟子とかと一緒にして名前紛れ込ませる形にするから入れさせてくれとテスタが言ってたけど、そのテスタが初期に噛んでた天の道や転輪馬は、今聞いた。
そっちは鍛冶職人とか建築関係とかが請け負ってるって報告受けてたけど、やっぱり初期から関わってる人は僕から案が出てることを知ってて、発表するなら僕の名前入れたいんだとか。
「ゴーレムはジョーたちが書くことになるし、そこはアズロスで誤魔化せないかな。ヌニェスに任せてる錬金法も、同じく。あと、お菓子のレシピって僕の名前いるの?」
ルキウサリア国王に目を向けるけど、上げ連ねてた文官は引かない。
「僭越ながら、錬金術を関するものに殿下の名がないことのほうが悪目立ちになると。そうしたところに名を載せた上で、殿下のお屋敷を使っての場に名を載せないこともまたいらぬ勘繰りを招くでしょう。それだけ分散していることで、ただ名を乗せているだけの人員であると錯誤させることも可能であります」
そう言われるとちょっと断りづらいな。
テスタのほうは紛れさせるって話で頷いてしまったし、だったら薬関係で師事してるって形式上、いいかと思った分、こっちは駄目とは言えない。
そういう理屈なら、無闇に名前振りまいたほうが目立たない可能性もある。
ルキウサリア国王は頷いて文官のほうをフォローした。
「もちろん、知らぬ者が調べたところでわからぬよう、第一皇子殿下と表向き関わる者の名を併記。それによって紹介や横のつながりを疑わせる形を取る」
そうして僕をカモフラージュするために、各所に名前をばら撒かれるのは、ノイアンとネーグ、ヌニェス、大親方になるとか。
本当はヴラディル先生入れたかったけど、学園とかその他の錬金術の考察とかさせたせいで都合がつかなかったんだって。
相変わらず封印図書館カモフラージュのために、ルキウサリア国内の錬金術師の遺物を調べるってことも、図書館に眠る錬金術の書籍の整理もやってる。
そこにかこつけて、封印図書館から出した技術なんかを、ヴラディル先生に錬金術的にどう解析するかということもやらせてる状態。
だから、本当錬金術科唯一の教師は、やることが尽きてない。
「ちなみにゴーレムに関しましては、錬金術科の教員と学生を含めた全員の名を別記します」
「つまり僕、名前二つ並ぶ形? あぁ、でもそれがいいか」
片方だけってなったら、僕とアズロスが両立しない証左になってしまう。
いっそ別々に同じものに関わってますって見せかけるのはありだ。
「だったら、ヌニェスのほうも僕のクラスメイトを関わらせよう。錬金術科で一番、錬金法に慣れてる学生たちだ」
「ありがたく」
文官はすぐさまメモを取って、今決めたことや承諾したことを関係者に連絡する。
ルキウサリア国王は聞かれもしないけど、その動きを特に止める様子もない。
で、色々論文出す中に、僕のレールやレーンの論文も紛れ込ませるという話になった。
一気に錬金術関係を出して、そこに僕の名前を入れる。
そして僕自身がそれらしいけど、まだ実証してない論文をだす。
そうすることであえて埋もれさせる形を取るんだとか。
「それでは、ご提案ありがたくお受けいたします。ところで、なんで人が増えてるのかは聞いても?」
文官来た後、さらに室内には人が増えてた。
しかもなんか書類持ってるんだけど?
「うむ、天の道の五か年計画の後と思っていたが、錬金術関係の論文を出す際にこれも論としてまとめることができたなら、名を欲しいと思っていたものが、いくつだったか?」
そんないくつ案件あったかわからないほどって困るんだけど、ここまで色々やってもらって無視もできない。
僕は書類を受け取った。
「拝見します」
目を通すと、そこには天の道の延伸して、山越えを目指すプランが書かれてる。
山の国であるルキウサリアからすれば、山は天然の要害という防御であり、流通や人流を妨げる障壁でもある。
地面の起伏をある程度越えられる天の道を、山越えに活用できれば運搬と共に金銭も従来の方法より抑えられるのではないかとあった。
そして敵に奪われたとしても止める方法があるため、天の道は地の利を殺さないとも。
「けど、高い位置ほど風が強い。そうなると、天の道より鉄の道のほうが合ってるような…………」
「ほう?」
僕の呟きに、ルキウサリア国王が前のめりになった。
あ、これは、問題点あるから後に回してた計画か。
ついでってことで、僕の口を軽くして問題解決を提案させるつもりだったみたいだ。
うっかり口滑らせたよ。
けどそれならそれで、ちょっとやってみたいことがある。
国っていう僕にはないリソースがあるなら、それを使って実証実験してみてもいいだろう。
「基本的な論理は天の道と同じです。高い場所から低い場所へと下ろすことで、低い場所から高い場所へと上げる力に変える。けどそれを、地面の上で行います。決まった道を使うので、一度整備すれば長く使えるでしょう。その際に、ゴーレムの技術を流用した、補助器具をつけてはどうかと考えています」
僕が想定してるのは、前世にあったケーブルカー。
レールがあって、天の道で使ったケーブルもある。
あとはケーブルを巻き取る動力だけど、そこは天の道と同じくケーブルカー自体を重しにしての巻き上げと下ろしをすればいい。
そしてその巻き上げと下ろしの補助としてゴーレムを使う。
「ゴーレムは単純な動きを長期間行うことが利点です。その分操作性などはないため、融通も利きません。ですが、決まった動作をさせ続けるだけでいいなら、確実に斜面を補助するに足るものになるでしょう」
ゴーレムは重量も問題で、気軽に持ち運びはできない。
けど別のものが移動するのを補助するなら、重量っていう力を据え置きで生かせるはずだ。
問題は動かすために必要な魔力量がどれだけになるか、魔力の供給の仕方をどうするか。
一度動かしたら、魔力枯渇までずっと動き続けるしかないという性質がネックになった。
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