お誘い乗ってみた。
「ねえねえ君、俺らと一緒に遊ばない?」
「え……」
チャラそうな男子学生。同い年だというのは一目でわかった。
彼が学生の証明として身に纏っていた制服は、俺が通っていた高校の制服と同じものであり、学年を示すネクタイの色が二年生の青だったからだ。
そう、俺はよりによって同学年の同じ高校のやつにナンパされたのである。
もしかしたら元クラスメイトという可能性もあるのだろうが、如何せん一か月も通っていなかった高校だ。クラスメイトの顔など全員把握しているわけもない。
結論知らん人。同い年だろうと同じ高校だろうと、全く知らん人。一切知らん人に声を掛けられたのだ。
何が言いたいかというと、——緊張している。
「あ、え、あの……」
口から出るのは意味を持たない感嘆詞だけ。脳の回転を緊張が阻害しているため、言葉がうまく出てこないのだ。
面識のない人に声を掛けられた時のコミュ障の反応は恐怖と緊張以外存在し得ない。
視線が泳ぎ、ロクに相手の顔が見られない。喉に詰まった言葉は出てくる気配すらない。皴ができそうなほど強く服を握りしめていた。
「俺らさっきまで二人で遊んでたんだけどさ。良かったら君も一緒に——」
「や、やめないか!」
その場を切り裂くように、野太い声が彼の言葉を遮る。
彼の後ろにいてもはっきりとわかるほど大きな図体が、俺の前に姿を現す。
特徴的な七三分けにフレームの太い黒縁眼鏡。何よりも威圧的且つ高圧的に捉えてしまうその大きくたくましい体つきは見間違いようもない。
ター●ネーターの再来だ。名言通り帰って来た。……いやこの人はアイルビーバックって言ってないけどね。
——……っていうか、このチャラそうな人と同じ制服じゃん!? ネクタイの色も青だし……、えっ同い年だったの!? このドでかい図体で!?
あ、けどそう言えば、二回目に出会った時も高校の制服を着ていたような気が……。だが、あの時は部屋に知らない人がいるというほぼ犯罪現場状態であったため、相手の服装を気にしていられるほどの余裕もなかった。家族を彼女と言い間違えるくらいテンパっていたし。
「す、すまない。自分の友人が失礼をしました」
大男さんは礼儀正しく頭を下げた。鷲掴みにしたチャラそうな人の頭と一緒に。
「あ、いや、あの、……だ、だじょぶです!」
言葉に勢いをつけすぎて「だいじょうぶ」の「い」が飛んで行った。なんだよ「だじょぶ」って……。
しかし、この二人は友達関係だったのか。なんというか……真逆の二人だな。
硬派で誠実そうな大男さんと軟派で軽薄そうなチャラ男くん。一見S極とS極みたいに反発しあいそうな組み合わせだが、人間関係というのはわからないものだ。類は友を呼ぶという言葉もあまりあてにならないな。
「純也君も悪気があったわけではないんです。どうか許してやって欲しい」
「やめろっつうの真泉! お前は俺のオカンか!」
真泉くんと純也くんっていうんだ。
「重ね重ね申し訳ない」
「い、いや、あの……、本当に、大丈夫なんで」
とにかく助かった。
真泉くんが丸く収めてくれたおかげでこの場から退散できる。
「じゃ、じゃあ、その、失礼します」
ぺこぺこと頭を下げながら踵を返す。すると、
「ちょ、ちょっと待って欲しい!」
思いもよらぬ呼び止めに、体がビクッとなる。
呼び止めたのは、ナンパをしてきた純也君の方ではなく、それを止めた真泉くんの方だった。
なんで呼び止められた? もしかして失礼なことでもしちゃったのか?
疑問渦巻く中、ゆっくりと振り返り真泉くんと向き直る。
「その、ですね。……大変失礼を承知でお願いしたいですが」
「は、はい」
仰々しい前置きに思わず固唾を飲む。
「……先日、勝手ながら君がいた部屋に入ってしまったことを謝らせて頂きたい」
「べ、別にそれは——」
気にしてない、と言おうと思った。しかし憚られた。
だって本音は気になりまくりだ。一体どのような経緯であのような事態になったのか是非とも知りたい。
「ど、……どうして、あ、あそこにいたんですか」
勇気を振り絞って聞いてみた。好奇心まがいの動機でしかなかったが、それでも無視できるような事象ではなかった。
「実はその日、担任の先生に頼まれ、天谷咲人君にプリントを届けに来たのです。いつもは幼馴染の深山ヒナタ君が届けているとのことだったが、昨日彼女は早退してしまったみたいで。自分が代役を務め届けさせてもらいました」
プリントを届けに来たってことは、もしかしてクラスメイトか?
確かに、デパートで真泉くんに会った時何処かで見たような気がした。それは一か月も無いような短期間ながら同じ教室で授業を受けたからか。
「それで、家の人に許可をもらって家に上げさせてもらったのですが、……その、彼の部屋には君がいて——」
「……そ、そうだったん、ですね」
ようやく合点がいった。彼は不法侵入でも押し入り強盗でもなく、ただプリントを届けに来てくれただけだった。ナンパから助けてくれたりプリントを届けてくれたりといろいろ親切にしてくれた人なのに、犯罪者と疑ってしまいこちらの方こそ申し訳ない。
疑問が解けてスッキリした。
しかし、彼が言っていたお願いというのは果たしてこのことなのだろうか。
ただ謝辞を述べただけで、失礼な箇所などどこにもない。むしろ犯罪者と疑ってしまった俺の方が失礼だ。
「え、えっと、それで、お、お願いというのは……?」
自分にできる精一杯の恭しさで物を尋ねる。
「そ、それは……ですね」
バッサリ物事を言いそうな雰囲気のある真泉くんが口籠ることに、思わず身構える。
い、一体どんな要求をされるっていうんだ? そんなに言い淀むなんて……ま、まさか俺の美少女の身体を狙って……!? でもそんな不誠実そうな人には見えないが……。だ、だが、俺ほどの美少女ならあるいは……。
自己防衛本能と自意識過剰思考が頭の中を駆け巡る。
いつでも逃げられるように態勢を整えながら、真泉くんが口を開くのを待つ。
そして——
「自分と——……話しをしてくれませんか」




